【Vlog】配信中にマイクを切り忘れた妹に巻きこまれてVTuberをやることになった僕は、彼女を人気配信者に仕立てあげることにした
色々意見聞きます!寝戸よるるとおにいとゲストで会議生!【ゲスト:出逢柱/氷上坂迷々/陸奥五郎】
色々意見聞きます!寝戸よるるとおにいとゲストで会議生!【ゲスト:出逢柱/氷上坂迷々/陸奥五郎】
「おにいは言いました。出逢ちゃんや迷々と会っていいのはコラボ企画があるときだけだと」
「つまりコラボ企画をつくれば私達を合法的に呼べると思ったわけね」
「いえす!!」
***
僕と祢巻と
動画企画のために、レンタルスペースに集められた面々である。1時間1430円。
集められた企画の内容を聞く前にひとつお尋ねしたいことがあるのですが、良いですか? と言わんばかりに氷上坂さんは手を挙げた。
「はい、氷上坂さん」
僕は向こう正面に座っている氷上坂さんを指し示した。
どうして出逢は『出逢ちゃん』なのに、私は迷々と呼び捨てなのでしょうか。これはもちろん、年上には敬意を持つべきで呼び捨ては言語道断ですよ。という話です。と言うように、氷上坂さんはうんうんと頷いた。
「言語道断ですか!? え、えっと。出逢ちゃんが『ちゃん』づけなのは単純に出逢ちゃんのアバターが幼女だからなんですけど」
頭に頭襟を被り、袈裟を着込んだ修行僧スタイルの幼女である。
「迷々の場合はアバターが学ランを着込んだボーイッシュイケメン女子じゃないですか。だからちゃんづけは変だし。っていうか、迷々が自分から『私のことは迷々って呼んでくださいね』って魔性の笑みを浮かべてたじゃないですか!」
そうでしたっけ? 私の配信はアーカイブも残りませんし、切り抜きも禁止してるので言質は取れませんね。はあ、悲しいですよ。よるるが私のことを呼び捨てしても構わない人だと思ってるなんて。と言わんばかりに、氷上坂さんは涙を拭う。
氷上坂さんは表情が豊かすぎるので、涙だってだしたい放題なのだ。
「ず、ズルい! 涙はズルい!」
わたわたと慌てる祢巻に、氷上坂さんはくすくすと笑う。
「氷上坂さん。妹をいじめるのはやめてください。いじめていいのは僕だけです」
「おにいだってやだけど!?」
「はいはい。それでよるるちゃん。今日の企画はなんなの?」
出逢さんが話を区切るように、手を2回叩いてから、陸奥の方を見た。
「はやく説明しないと、陸奥が動物園の方に目が向いてるわ」
「人と話すなんて時間が惜しい……」
「きょ、今日はですね」
祢巻は慌てて、仕切り直すように皆の方を向いた。
立ち位置は、僕と祢巻の向こう正面に3人が座っているという風だ。間には机があり、祢巻のノートパソコンが置かれている。
「皆さんに私の企画を見てもらおうかと思って」
「企画?」
「実はかくかく」
「しかじかね。でも、動画の再生数もチャンネル登録者数もちゃんとじっくり増えてるじゃない」
私のチャンネル登録者数よりも多いじゃないですか。と氷上坂さんは唇を尖らせることで、言葉に代えた。
「なんなら俺も越えてる」
明後日の方を向きながら陸奥は続く。
「確かに私はふたりを越えてしまいました。ファン感情的にはツラいばかりです」
祢巻は胸をおさえるような素振りをみせながら、祢巻は言う。
「しかし私の向上心はおさえきれないのです!」
「承認欲求がたまらないらしいです」
僕が翻訳すると、祢巻はジロリと睨んできた。
でも事実だろ。
「話は分かったわ」
出逢さんは仕方ないと言わんばかりに苦笑しながら、僕と祢巻に向けて、両手を伸ばす。
「プレゼンを開始してちょうだい」
***
「まず第一の企画ですけど、こちらをご覧ください!」
祢巻は背後の壁に手を伸ばして、設置されていたスクリーンを降ろした。
映写機がスクリーンを照らして、パソコンが流している映像を表示させる。
「おにいは言いました。YouTubeは刺激が強い方がいいと……」
全員が僕を睨んだ。
一体なにを教え込んでるんだと言わんばかりである。
陸奥の場合は僕のことを責めれる立場ではないだろ。(危険)動物飼育系VTuber。
映像では10人ほどの男たちがフットボール場を走り回っている。
両手で抱えるほどの大きさの黄色いボールを奪い合っている。
それだけなら、運動不足な人間のための運動会のように見えなくはないけれども、全員の手からバチバチと電流が流れる音がしているのが、この球技が異常であることを伝えている。
全員が全員、スタンガンを手に持っているのだ。
「なので企画その1。スタンガンでの攻撃がありの球技。アルティメット・タック・ボールをしよう! だよ!」
「没」
「バツ」
ダメ。と氷上坂さんは人差し指をクロスさせた。
「どうして!?」
祢巻は本当に信じられないと言わんばかりである。
「これ、10人ぐらいでやる競技よね。3Dアバターを持っているVTuberを10人集めたとして、その人数がこれだけ揉まれてる様をモーションキャプチャーできる施設と技術があるかしら?」
「動物が出ない」
配信者ならまだいいですが、VTuber、特に女性VTuberのファンは罰ゲームじみた痛みで不本意に燃え上がることがあります。本人が単体でノリでやるものならともかく、今回はスタンガンを当てるという加害があるので、当てた相手が炎上するリスクが高いですね。もっと柔らかい、クッションをアンダースローで当てる競技とかにした方が安全です。という風に、氷上坂さんは渋い顔をした。
「スタンガン使用以外の部分でとがめられた!!」
「ひとりにいたってはただの私欲だろ」
ちなみにこれは僕もバツ。
別にやってもいいんだけど、調べてみたらアルティメットタックボールの動画は2、3個ほどしかなく、ウケる以前に知られていない気配があるためである。
あと10人集めれるの? っていうのもある。初顔合わせでスタンガンぶつけ合えるような相手が。そんな軋轢を生む必要性があるかという話がある。
「ま、まだまだ企画はあるので!!」
祢巻はスクリーンに映していた動画を切り替える。
動画では男は同じ言葉を何度も何度も呟きながら祈り続けている。よく聞いてみるとそれはとある有名な逃げ馬の名前で、残せ残せ残せ残せ残せと血走った目で前を見据えている。かなりの値段賭けたらしい。
「その2、最近のトレンド競馬!!」
「バツ」
「まる」
氷上坂さんは指でバツをつくる。
賛成一名。言うまでもなく、陸奥である。
「よるるちゃん、未成年でしょ? 賭け事は大人になってから」
「馬がいるから良し」
確かに賭け事が流行り事にはなっていますが、あれはどちらかというと「推し事」のように、好きな馬を応援するという立場での側面が多いですし、ある程度の知識、あるいは一定数の熱意があるからこそ成立するコンテンツで、それを押し返そうとするなら、多額の金を賭ける必要がありますけど、よるるにその覚悟はありますか?
祢巻は正論パンチによろめきながらも、次々に企画を口に出していく。
「その14、コスプレ!」
「よるるちゃんはVTuberよね? どう衣装を見せるの?」
「その25、カラコンしてることにいつ気づかれるかドッキリ!」
視聴者には見えませんよね? と言わんばかりに、氷上坂さんは首を傾げた。
「その53、お化け屋敷でおばけの方、やってみた!」
「動物がいない」
「この人役に立たない!!」
「み、皆おにいぐらい生温くない……」
「なんだと思われてるんだよ僕は」
生温いかどうかで言えば陸奥はめちゃくちゃ生温いだろ。動物が出るか否かだぞ。
「あとお化け屋敷は驚かす方がどんなメイクで驚かしに来たのかを見るのが楽しい部分だから、それがアバターで塗りつぶされる僕らには不向きだな。例えばVRchatのお化け屋敷ワールドに潜んで急に話しかけるドッキリとかならまだ行けそうだけど、僕VRchat詳しくないし、野良で忍び込めるのかああいうのって疑問がある」
「ねえ、おにい。もしかしてVTuberってすごく不便……?」
「そんなことはないぞ。ゲームせずに雑談しかしないゲーム実況者だっているだろ」
結局、そういうもので。〇〇とは××である。というものは早々に崩壊する。なぜなら不便で不都合だからだ。
VTuberは絵が喋ってアバターが踊る媒体で、だからこそ、絵が喋らずアバターが見えない実写配信は都合が悪い。
VTuberがバラエティ番組のようなものをしたいのならば、セットも全部3Dにするべきで、例えば料理をするのならキッチンもフライパンも火も全て3Dで、しかし、音だけはリアルで、焼いてる音はするけどなにをつくってるのか視認することができない方がよっぽどVTuberらしい。
でも、料理を配信する程度のことのために、わざわざモーションキャプチャーを用意して、素材を持ってきて、かつ配信で
だから不便で不都合なことに目をつむって実写で料理をつくるか、あるいは「料理を見せる」ことを主軸としない——例えば「そもそもこの料理ってなに?」という知識欲を優先するような——構成にする必要がある。
VTuberである必要なんてものはとうの昔に崩壊してるし、視聴者だって別段それを求めてるわけではない。
ただ不便で不都合なところだけが残っている。
僕らのチャンネルだって、別段VTuberである必要なんてないし、捨ててしまった方が楽ではある。でもキャラがある方がウケが良いし、身バレだって防げる。
でも別に、顔出ししなければ身バレはある程度防げるし、VTuberでなくてもキャラ絵をつくってキャラ売りしてる歌い手やストリーマーなんてごまんといる。
じゃあなんでVTuberなのかといえば、祢巻が好きだからでしかないだろう。
その程度のために、不便と不都合を受け入れてる。
そこを払いのけてしまえば本当に、VTuberである必要なんてものが消え去ってしまうから。
片づけられずに散らかっている不便なガレキが今のVTuber文化を形成している。
僕らがそのガレキを好きかどうかでしかない。
まるでわびさびの世界である。目の前のそれにわびはあるのかい、
企画会議はまだまだ続いた。
しかし一向に企画が通る気配はない。
僕でなければ企画が通るんじゃあないかと甘い考えをもっていた祢巻の目には、明らかに焦りが見えていた。
そりゃそうだ。
なぜなら今回の企画会議以前に、僕は3人に「妹にお灸をすえたいと思ってるので、協力して欲しい」と伝達しているのだから。
僕らの抱える50万人のチャンネル登録者という数字は、元僕の視聴者であったり、バズの恩恵であったりする、事情のある50万人だ。
個人と箱推しのある事務所の抱える10万人のチャンネル登録者の重みの違いというか。祢巻は知らないとはいえ、幾分かのブーストであることは違いない。
だから数字のデカさに調子にのるなよという話は前にもしたけど、同時に、50万は50万だぞ。という話をし損ねていた。
そして今回の企画会議である。ちゃんと伸びてるのに承認欲求が止められなくなっている祢巻にお灸を据えてやることにしたのだ。3人は揃ってOKを出してくれた。特に氷上坂さんはめちゃくちゃ乗り気だった。もしかしたら本当に自分のことをさらっと抜いていったことを根に持っているのかもしれない。
さて。
今回のオチはどこに持っていくかと言うと、僕は見ていたのだ。祢巻の企画の束に。あれが潜んでいることに。
「ああもう、じゃあこれはどうですか!?」
色んな企画にダメだしされ続け、やけになった祢巻は目をぐるぐると回しながら叫んだ。
「その84、バンジージャンプ!!!!」
全員の顔が意地悪く笑った。
祢巻はビクリと震える。
「それいいじゃない。よるるちゃんの額にカメラをつけて落ちる風景を撮ったりして」
「あれ?」
リアクション芸は皆大好きですし、良いんじゃないでしょうか。と氷上坂さんは笑みをつくる。
「あれ?」
「落ちるところが川なら、動物もいそうだ」
「急に判定が緩くなった?」
「そういえばこの前、50万人記念が数字と関係ないから不服とか言ってたし、合わせてやるのもいいかもしれないな」
「お、おにい。どうしてそんなにノリノリなの?」
自分で地雷を踏んでしまったことに気づいた祢巻は、そろりそろりとレンタルスペースから逃げようとしたが、それより先に、氷上坂さんが鍵を閉めた。
「さて、祢巻」
僕は尋ねる。
「50回飛ぶのと、50メートル飛ぶの、どっちがいい?」
***
「ごめんなさーーい!!」
今回のオチ。
数日後。
祢巻はバンジージャンプに赴いていた。
「調子に乗ってましたーーーーーー!!!!」
一度では済まない何度も繰り返される耐久バンジージャンプ。
同じところで何度も落ちてもしようがないので、近場のバンジージャンプ場を周回して飛び回る1日を過ごすことになった。
橋から、塔から、ビルから。
落ちて、落ちて、落ちて、落ちて。
たまには上に飛んだりして。
「皆さまに愛されての私、寝戸よるるですーーーーーー!!!!」
涙声になりながらの選挙演説のような悲鳴は、寝戸よるる語録のひとつとして、後日2525大百科に載せられていた。
寝戸よるるch./YoruruNeruto ch.
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