【NG集】ボツになった数々の企画を見ていこう。
「次の企画……?」
眠気のこもる
企画名 100均アイテムめちゃくちゃ買い込んでみた!!
企画内容 100均には様々な便利グッズがある。それを紹介することで視聴者のQOL《クオリティ・オブ・ライフ》をあげていこうと……
読み切る前に僕は目をそらす。
「学校でQOLの勉強でもしたのか?」
「なぜそれを!?」
「学校で習ったカッコいい言葉、使いたいもんな」
繰等に祢巻の学校をストーキングさせているのは、未だ続行中だ。
「QOLの充実は別にいいんだけど、100均の道具を紹介するだけの動画って、一体全体誰が楽しいんだ?」
「あ、おにい今大手を敵に回したよ!!」
祢巻は大仰な仕草で、僕を指さした。
「それともおにい、まさかご存じではないとか?」
「さすがにご存じだよ」
動画勢のVTuberやるって決めたときにまず調べたぐらいだからな。兄妹VTuberって。知らないようがない。
「あれは100均がめちゃくちゃ好きなやつ。ってキャラができてるからやれる動画であって、急にやったところで面白くないだろ」
「ちゃんとした理由で断ってきた」
「それともお前は、熱狂的な100均マニアだったりするのか?」
「全然。安くて便利だなとは思うけど」
じゃあボツ。と僕は企画書を投げ捨てる。
祢巻はうわー! と悲鳴をあげながら、床に落ちた企画書を拾い上げる。
「酷いよ! 私の8分かけた企画書をそんなぽいって!」
「片手間じゃねえか」
「女子高生の8分は重いんだよ!」
手をぶんぶんを振り回す祢巻。もう片方の手はまだプリント用紙を何十枚も抱えたままだ。
まさかあれ全部企画じゃあないだろうな。見るのも大変なんだぞそれ……。
「例えばその100均企画、どういう時に役立つかを身を張って見せれば、面白くなるんじゃあない?」
「身を張って?」
「例えば……」
僕は少し天井を見上げてから。
「100均アイテムだけでキャンプできるのか! とか」
「パクりだ」
いいんだよ、例え話なんだから。
「それに、これなら100均アイテムに興味がない人でも、『人が過酷な目に遭っている!』って見に来るだろ」
「そんな理由で見に来るかな、人」
「来るだろ、人」
人なんてそんなもんだ。動画のサムネを1回見回してくると良い。笑顔のサムネより驚いて頭を抱えて泣いてるサムネの方が多いから。
そもそもレビュー動画という媒体は、レビュワーがとても好きか、ガジェット自体に興味があるか、あるいはその両方じゃないと人は見てくれない。
例えばパソコンを持っていない人が『【困ったらこれを買え!】最新式ゲーミングキーボードの入力反応速度がヤバすぎたwww』という動画を見てくれるだろうか。よっぽどレビュワーのYouTuberのことが好きじゃない限り見ないだろう。
このレビュワーの動画めちゃくちゃ見るんだ。好きなものを紹介してるときの目がキラキラしてる感じが好きでさ。この前のwebカメラ回は神回だったねー。使わないから買ってないんだけど。
つまり、今回みたいな新規ユーザー獲得したい! という話なら、もっと合っていないと思う。
僕らが急に『エロ本レビュー!』みたいに、いつもと完璧に違う範囲のレビューをするというのなら、話は別かもしれないけど。
祢巻はうーん。と悩むような仕草をしてから、企画書の束をパラパラとめくっていく。
今の話に合うような企画を探しているのかもしれない。
僕は手を前に突きだして、祢巻を制止する。
「ちょっと待て、祢巻」
「んい?」
「そもそもどうして急に企画を出してきたんだ?」
「ラーメン屋における新カレーメニューだよ!」
僕が前に突きだしていた手に、祢巻は人差し指を押しつける。
……ああ、そういえばそんな話をしていたな。
新規視聴者の流入がストップしている今、まったく新しいメニューを出すことで、今まで僕らを見たことがないような視聴者を釣ろうという話を。
「今のうちのチャンネルの企画は基本的におにいがつくってるでしょう?」
「そうだな。出逢さんとのコラボから基本的に僕が考えてるはずだけど」
考えてると言っても、祢巻がやりたいと言いだしたことのはしご外しみたいなものばかりだから、考案者! みたいな顔をするつもりは更々ないけど。
「だから私が企画を立てたら味変になるかなって」
「味変というか、本家本元の味復刻って感じだな」
このチャンネルは元々祢巻のもので、僕はあくまでもゲストという立ち位置だ。ゲストが企画を立ててるってどういうことだよとは思うが。
「まあ、祢巻がやりたいっていうなら僕に止める権利はないし、むしろ大歓迎の面持ちではあるけど」
「けど?」
「少なくとも、この100均企画は没。別の企画で考えてみような」
「おにい厳しい!!」
祢巻はぷくう、と頬を膨らませて地団駄を踏んだ。
「というか、おにいに合否を決められたら、結局いつもと変わらないじゃん」
「じゃあ好きな企画を選んで動画撮ってみるか」
「それは……」
途端に祢巻の意気が消沈し始めた。
僕に動画の企画を渡しに来たのは、結局どこかちょっと不安だったからだ。
祢巻は行動力の塊であり、行動力しかないから用意が全く出来ない子である。
だから今のように僕に元に来るときはいつも、「やりたいことがあるけどどうしたらいいのか分からない」とか「やってみたいけどこれって大丈夫なのかな?」みたいな、確認であることが多い。
今回は後者で、自分が動画の企画を練るってことは決めたけど、それが本当に面白いのか不安ってところだろう。
祢巻は暫く「うーん」と唸って僕の部屋の中をぐるぐると回り続ける。
可愛い妹だから別に何時間でも僕の部屋にいてもらって構わないんだけれども、さっき眠ろうとしていた手前、ちょっと眠気が来てるので早々に話を切り上げたいところではある。
「あ、そうだ!」
と。
祢巻は手を叩いた。
僕の方を向く。
「おにい以外の人に決めてもらえばいいんだ!」
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