【Vlog】配信中にマイクを切り忘れた妹に巻きこまれてVTuberをやることになった僕は、彼女を人気配信者に仕立てあげることにした
【心霊】「幽霊ペンション」を全員で調査したらドッキリなことがわかった。【寝戸よるる/おにい】
【心霊】「幽霊ペンション」を全員で調査したらドッキリなことがわかった。【寝戸よるる/おにい】
ここでひとつ、祢巻には教えていない事実を開示しておこう。
視聴者の皆さまには先にネタばらしってやつだ。
ピンポンパンポーン。
幽霊ペンションというものは、存在しない。
一家心中なんて起きてないし。
オーナーは地下室で自殺してないし。
自殺者が後を絶たないわけがないし。
二階の窓から男はこちらを覗いてないし。
近くの湖には幽霊は集まっていない。
幽霊がいるかどうかなんて分からないだろう。という反論もあるだろうから、それ以外で否定をすると、このペンションには地下室なんてものはないのだ。
地下室がないのなら、地下室で自殺なんてできようものがない。
なんなら、このペンションの元オーナーは別の場所で別のペンションを経営しているという情報すらある。
つまるところ。
この幽霊ペンションは。
見た目から噂が先行しているだけの偽物の心霊スポットなのである。
つまり、今回の動画は『潜入、心霊スポット!』であり『嘘の心霊スポットドッキリ』でもあるのである。
心霊スポットに本物も偽物もないだろう。という話はあるが、ともかく、祢巻には『根も葉もない幽霊』にビビり散らしてもらおう。
僕と祢巻は幽霊ペンションの入り口に立った。
手に持った懐中電灯であたりを照らす。壁にはおびただしい数の落書きが書かれている。
内容はどれも品性に欠けるものばかりで、公衆便所の落書き、あるいは、トンネルの落書きと大差はなかった。
「本当に真っ暗だな」
入り口の奥を照らす。
入ってすぐはエントランスになっていた。
丸いエントランス。崩れずに残された壁は、アーチ状にレンガが積まれている。
奥には古びた暖炉が鎮座している。
大きな暖炉だ。
冬には雪が積もるだろう北の土地だ。暖炉の火はきっと暖かかっただろう。
壁に穴が空き、地面からは雑草が生えているような現状では、暖炉をつけたところで暖は取れなさそうだけど。
「うう、暗いよお。寒いよお。肝試しとか心霊スポット巡りとか開発した人が憎いよぉ」
「藤原道長が鬼が出ると噂の屋敷に侵入する話があるから、平安時代からあるらしいぞ、肝試し」
「うう、許せないよ。藤原道長……」
「まさか藤原道長もこんなところで恨まれるとは思ってなかっただろうな」
当時からあるってだけで、藤原道長が始めたってわけじゃないんだけどな。
暖炉に近づいて、中を覗いてみる。
燃やされて黒く染まってる床に、燃え損ねだろう固形物が落ちていた。
「そういえば、知ってる?」
カメラで固形物を撮影しながら祢巻に声をかける。
「な、なにがっ!?」
周りの空気にのまれていた祢巻は大きな声をあげる。
「この幽霊ペンションで一番幽霊の目撃談が多いのが、祢巻が立っている場所なんだよ。どうやら、一家心中の後ペンションを引き取った老紳士がここで首を吊ってたとか……ってあれ?」
振り返ってみると、祢巻の姿がなかった。
砂煙が少しあがっている。耳を澄ましてみると、祢巻の悲鳴が二階の方から聞こえる。
どうやら怖がらせすぎてしまったらしい。
「祢巻ー、カメラから離れると撮影もなにも出来ないから怖がり損だぞー」
僕は暖炉の中で見つけた固形物をポケットに入れて、階段へと向かう。
確か煉瓦の壁の向こうに階段があるはずだ。
煉瓦に手をかけ、曲がり角にひょいと顔を覗かせる。
「ん?」
「あれ?」
階段にはカメラがあった。
カメラを構えている男が立っていた。
***
「どうもこんばんは。おれは
カメラを構えたまま、男――麻垂は人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。
短めの黒髪。
笑みが貼りついた目。
笑みが貼りついた口。
悪口のように聞こえるかもしれないけど、彼の顔に貼りついている笑顔には嫌味さを感じない。
ただ、本当に印象に残らない人だった。
明日どころか、帰り道にはもう顔を思いだせなさそうな……。
「でも、そんな顔のおかげで風景を撮影する時にノイズにならないので助かっていますよ」
麻垂さんは僕のものすごい失礼な初見イメージに関しても、人当たりの良い笑みで許してくれた。
「おれはこうして廃墟の映像を撮影してYouTubeに挙げているんです」
手に持っているカメラを、もう片方の手で指さしながら言う。
「チャンネル登録者数は6000人ぐらいです。まあ、廃墟を歩き回ってるだけの動画ですからね。あなたは? 見たところ、同族のように思いますけど」
僕が持っているスマホカメラを指さしながら、麻垂さんは言う。
「はい、僕らもYouTuberです。
すごく久々に自分の本名を名乗ったような気がする。
久々すぎて、本当にこれが僕の名前なのか自分でも疑問に思ってしまった。
いや本当に。僕は花巣でいいんだよね? 帰ったら玄関の表札を確認しておこう……。
「ら?」
麻垂さんは首を傾げる。複数系なのに、ひとりしかいないじゃんって言わんばかりだ。
「妹と一緒に撮影してるんですけど……こっちに行ったと思うんですけど、見ませんでしたか?」
「ああ。じゃあ、さっきの子が花巣くんの妹だったのかな」
麻垂さんは首を階段の上に向けながらぼそりと言う。
「階段をあがっていく悲鳴がさっき聞こえたんだよ。カメラを向けてみたら女の子がバタバタ走っててさ。おれ、初めて心霊映像を撮っちゃったのかとビクビクしてたんだけどなあ」
麻垂さんがカメラの画面を僕に向ける。
録画された映像には、確かに二階に向かって駆け上がる祢巻の姿が映されていた。やはり二階に向かったらしい。
「ありがとうございます、それじゃ」
「あ、花巣くん」
頭をさげて、祢巻のあとを追いかけようとする僕の背中に、麻垂さんが声をかけてくる。
「妹さんを追いかけるんだったら、気をつけた方がいいよ」
「床が抜けやすいとかですか?」
「それもあるけど」
麻垂さんは両手を垂らして、さながら幽霊みたいな手つきでこう言った。
「最近、出たらしいよ。二階で
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