【Vlog】配信中にマイクを切り忘れた妹に巻きこまれてVTuberをやることになった僕は、彼女を人気配信者に仕立てあげることにした
【ドッキリ】遠隔操作で氷上坂迷々に操られているおにいに寝戸よるるはいつ気がつくのか?
【ドッキリ】遠隔操作で氷上坂迷々に操られているおにいに寝戸よるるはいつ気がつくのか?
「おにい! なんでおにいが出逢ちゃんの家にいるの! 許せない!」
打ち合わせを終えて出逢さんの家に呼ばれた祢巻は、頬を膨らませながら僕のことを睨めつけてきた。
ああ、なんて可愛いのだろう。好きなVTuberと仲良くなってる兄に嫉妬する妹。中々見れるものじゃあない。僕もVTuberになってよかった。
「よるるちゃんはお兄さんが盗られると思ったのかしら?」
によによと笑いながら出逢さんは尋ねてくる。
祢巻は僕の服の裾を掴みながら、
「おにいに甲斐性はないですよ。ニートですもん」
「あら? あら? あらあら~~~???」
満面の笑みの出逢さんである。
「否定するんじゃあなくて、物件のダメさを主張するのね。可愛いわあ」
「もう働かなくてもいいだけの貯金を持ったニートって結構優良物件だと思うけどなあ」
「おにい!?」
「子供部屋おじさんはちょっと相手としては困るわね」
「こどおじ扱いにショックを受けるべきか、おじさん扱いにショックを受けるべきか非常に悩んでます」
僕はまだ23歳だ。だったよね? 年齢の設定があるかどうか怪しいけど。
「さっきも連絡したけど、僕が先に来たのは準備のためだよ。これからやるコラボ配信のための」
嘘はついていない。
実際、コラボ配信の仕込みのために、僕は先に呼ばれたのだから。
あれから、祢巻に連絡したのは以下のみっつだ。
1、動画公開のタイミングで出逢柱のチャンネルでもコラボ配信をすることになった。
2、これから教える住所に来るように。
3、出逢柱のチャンネル通知をオフにして、YouTubeも覗かないように。
特に3は大事だ。
祢巻は見ているチャンネルから配信開始の通知が来れば、すぐに覗きに行ってしまう。
そんなことをされたら、既に配信は始まっていて、配信の内容が祢巻へのドッキリであることを知ってしまうからだ。
【ドッキリ】遠隔操作で氷上坂迷々に操られているおにいに寝戸よるるはいつ気がつくのか?
:こどおじw
:ニートな上にこどおじはもう人生終わりだろ
:おにいが自然に嘘ついてるの笑う。妹騙す気満々じゃん
騙す気はない。僕が妹を騙すわけがないだろう。本当のことを言う気がないだけだ。
ちなみに今回の生放送はトラッキングなどは使っていない。
画面はイラスト背景の部屋と、机の上に置かれたパソコン。そこに表示されている体で氷上坂さんの顔がある。という形になっている。
ほとんどラジオみたいな体だ。喋らなくて表情が豊かすぎる氷上坂さんの場合はラジオでも顔を出さないといけないので少し大変だ。
確か最初の方にVTuberとは2D3Dのアバターを用いて配信するものだとか説明をしたような気もするが、今回の配信はもはやアバターすら使ってない(氷上坂さんは除く)。
それでも、視聴者には『じゃあ絵である必要ねえじゃん』という奴はいない。アンチなら言うかもしれないが。
VTuberのアバターなんてものは、もうそれぐらいの価値に過ぎないのかもしれない。
アバターを表示するというのは、生身の配信者にとっての『顔出し配信』に過ぎず、顔を出そうが出さなかろうが、配信者としての質には関わりがないという認識なのかもしれない。
書けば書くほどVTuberにとってアバターはもうどうでも良い時期にきているような印象が湧く。実際どうでも良い時期だと思う。
もう見た目委員長キャラがRPガン無視してることで盛り上がれるような時代ではない。良くも悪くも、見た目なんてどうでも良い時代だ。
閑話休題。
そんな話がしたいわけではない。今回の配信の趣旨の話がしたいのだ。
「今回の配信は、動画撮影の感想会だから。よろしく頼むよ」
「感想会?」
たったそれだけ? と言わんばかりに祢巻が首を傾げている。
その背後で。
別室の扉が少し開いて、氷上坂さんが顔をだした。
来たか……。
お兄さん、妹の手をぎゅっと握りながら、出逢柱のチャンネルでの配信だから粗相のないようにと、まるで打ち合わせの最中に出逢に殴られたかのような怯えようで伝えてあげてください。と、言うように悪戯めいた笑みを氷上坂さんは浮かべる。
配信タイトルと飛んできた氷上坂さんからの指示から、察する人はいくらかいるだろうが、今回の配信は『氷上坂迷々からの指令に僕が答え続けるドッキリ配信』だ。
本来ならこういったドッキリは耳の奥に隠すようにワイヤレスイヤホンをつけて、そこから指令を聞くのだけれども。
表情が豊かすぎる氷上坂さんならば、声を出さなくても僕に指令を飛ばすことができる。
僕は軽くため息をついてから、祢巻の手を握る。
顔を近づけてひそひそと話す。僕と出逢さんはマイクをつけているため、どれだけ声を低めようとも、配信に声が乗らない心配はない。
「い、いいか。出逢さんには粗相のないようにするんだぞ。あの人は僕らなんて吹けば飛んでく零細VTuberだとしか思ってないからな……」
歯をガタガタと震わせながら言う。祢巻は「え?」と目をまんまるにする。
「な、なにかあったのおにい?」
「なにも。なにも! 変なことしなかったらなにも起きないから! いてて……」
「絶対なにかあったよね!?」
:熱演wwww
:ヤバ😂
:そんなことしてたんだ……チャンネル登録やめます
:ここだけ切り取ったらヤバそー!!
「ちょっと。私が悪者になってない!?」
「そうです。ただ僕は指導してもらっただけで、出逢様はなにも悪いことはしてません」
と言え。という意味合いを含めた目線を受けて、僕は目線通りに言う。
出逢さんが、氷上坂さんを睨む。
彼女はと言えば、声を一切出さないで腹を抱えて笑っていた。無音の爆笑なんて初めて見た。なんかバグってるみたいで恐いな。
いつも急に私を人に会わせようとする罰です。私が人見知りであることを知っているくせに。という意味の非難の目を向ける氷上坂さん。
目尻には、笑いすぎたからか涙がたまっていた。
どうやら氷上坂さんの腹の内には、結構鬱憤がたまっていたらしい。
祢巻がなんだか変だなと言わんばかりに首を傾げている。ちょっとやりすぎたかもしれない。
僕はごほんと一度咳をして、話を戻す。
「今日うちのチャンネルで公開したコラボ動画ですけど、出逢さん。やってみてどうでした?」
「楽しかったわ、楽しかったわ、楽しかったわ!」
出逢さんは両手を合わせて声をあげる。
「ああいう企画系の動画ってあんまり参加したことがなかったから、とっても新鮮だったわ」
:企 画 系 の 動 画
:今やってるのは配信だもんな。嘘ついてないもんな
:動画面白かったよー
「おにいの料理も美味しかったし」
「動画では食べれませんでしたけどね」
「まさか食べる前に当てられるとは思わなかったわ……」
「ご、ごめんなさい」
「なにもよるるちゃんは悪くないのよ!?」
:ちょっとビビってない?ww
:さっきの指導話が頭に残ってそう
:ほら先輩が気をつかってるんだぞ感謝しろ!
氷上坂さんのいる部屋の扉が開いた。
俺の料理、毎日食べてみたいですか? お味噌汁ぐらいなら毎朝つくれますけど? って口説いてください。と言うような、ねちっこい笑みを浮かべている。
さっきまで怯えてたのに、情緒不安定すぎませんか僕?
「あの料理なら毎日食べれるわね。嫌いな筑前煮だって食べれちゃったし」
出逢さんからパスが来た。言うしかないようだった。
僕はなるだけ、うっとりしたような顔をつくって言う。
「出逢さんのためなら、毎日と言わず毎朝味噌汁をつくれますよ。どうです、僕を養ってみませんか?」
:口説くっていうか、ヒモ宣言?
:は?
:ヘタクソ
:お前それで命令達成できたと思ってるのか?
:ちゃんとやれ
めちゃくちゃ言うな……!
難しかったんだよ……!
果たして。
僕はてっきり、おにい!? とまた驚く仕草をするのだろうと思っていたのだが。
「だ」
祢巻は。
大きな口を開いて。
「だめっ!!」
と今までで一度も見たことがないような焦った顔で、今までで一度も聞いたことがないような大声をあげたのだった。
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