#2

アホ2人が一体どうすれば五十万再生いくかで話合ってみた【寝戸よるる】

 次の日である。

 学校から帰ってきた祢巻は(僕と違って祢巻は健全な高校生である。僕は不健全な大人)、玄関で待っていた僕の顔を見ると、大声をあげた。

「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」

「ああ、疲れた体を妹の可愛い声が癒やしてくれる」

「もっと可愛い悲鳴を考えるからちょっと待って」

「祢巻の悲鳴って時点で可愛いよ。ひひひ……」

「おにいが疲れのせいでキモさが隠しきれてない!」


 少しして。冷蔵庫の中にあったシュークリームを食べて糖分を摂取した僕は、祢巻を自分の部屋に招き入れた。

 パソコンは既に起動してあり、そこには様々な配信サイトのトップ画面が表示されている。


「これから祢巻と一緒にVTuberをやっていくからさ、色々調べてまわってたんだ」

 それ用のアカウントをつくって、有名どころ人気どころ流行どころ、VTuberからVTuberじゃないけどVの体を持っているゲーム実況者も調べたりもした。ガッチマンとか。かおすちゃんとか。


「だからもう目がぐちゃぐちゃで、頭もうまく回らなくって」

 パソコンのモニターを1日中凝視してたせいか、しぱしぱする目をこすりながら言う。


「でもある程度指針ができたよ」

「おおー!」

 ぱちぱちと拍手をする祢巻。

 僕はパソコンの画面にこれからの指針を表示する。


「これからの『寝戸よるる』は、動画勢になろう!」


「それって」

 祢巻はパチパチとまばたきをする。

「動画ばっか見てゲーム自体はしないのに上手くなったと勘違いしてる人のこと?」

「悪口の方じゃない」


***


 配信者勢いランキング2位

 チャンネル登録者数2017人→32万2000人


 これが昨日、『寝戸よるる』が手にしたバズである。

 正確に言うなら僕の視聴者たちがなだれこんできただけだからバズではないんだけど、視聴者の多さがそのまま呼び水になったのは確かである。


「うおおおおおーー!! 銀の盾だ! 銀の盾がもらえるよーー!!」

 祢巻は目をキラキラと輝かせる。


「つまり私は超人気配信者!? HIKAKINレベルってこと!?」

「のさばるな。HIKAKINはダイヤモンドの盾だ」

 僕は祢巻の頭をはたく。

 ちなみにダイヤモンドの上にはルビーがあり、その上にはレッドダイヤモンドがあるらしい。なんか上の方が価値が低そうに見える不思議。


「銀の盾は正味バキバキ整体レベルだ」

「耳掃除チャンネルぐらい?」

「そのぐらい」

 多分。確か。


「VTuberの――というか、現状の配信者のスタイルについて色々調べてみたんだけど」

「ふんふん」

「大体が生配信スタイルだった」

「当たり前じゃない?」

「そうでもないよ。昔は動画スタイルの方が主流だった」

 配信者という言葉自体、最近浮き上がってきた言葉だ。

 少し前まで、そこにあった言葉は『ゲーム実況者』とか『動画投稿者』だったはずだ。もっと昔はうp主。つまりはアップロードした人。その表現から分かるように、昔は動画投稿の方が主だった。


「でも最近は生放送をして、放送内容を切り抜いて動画にするが主流になってる。だから、始めたばかりも誰も彼も、皆配信から始めている。寝戸よるるもそうだろう?」

「うん」

 祢巻は頷く。


「つまり、今の環境は『視聴者のリアルタイム視聴数を奪い合う』状態にあるわけだ」

「えー。私見逃してた配信とかアーカイブで見るよ」

 祢巻は唇を尖らせながら言う。


「それはなにか大きなイベントのアーカイブとかだろう。ただの雑談回とかを見返すか? それも、チャンネル登録しているやつら全員を」

「私はするよ」

「僕はしないよ。一般的な視聴者なんかはもっとしない」

 そうして見損ねた配信者は、優先度が下がっていって、いずれ見なくなる。

 チャンネル登録というのはボタンを押すだけだから簡単だ。しかし、配信を見るというのは結構難しい。時間の奪い合いになるから。


 一度選ばれなかった配信者は、段々とチャンネル登録はしてるだけの、置物になってしまう。漫画雑誌で読まなくなった漫画みたいに。


「ぞぞぞー……」

「最近切り抜き動画が流行ってるのも、結局は『生配信が多すぎて、皆全てを追い切れてない』ってことなんだと思うよ」

 そもそも配信者を追いかけるなんて、そんなマジメにやる必要もないことなのに、みんなどんなご苦労なことだ。


「でもそれは良いことではある。切り抜き動画は見るってことは、皆ってことなんだから」

 動画なら、後発の僕らでもまだチャンスがある。


「だから僕らは、リアルタイム視聴者の奪い合いから、離脱する」

「それが動画勢になるっていう理由?」

「その通りっていうのとあともうひとつ」

 というか、こっちが本音の理由。


「祢巻には高校生活の方を優先してほしい」

 配信時間を増やせば、それだけ新規視聴者に見つかる時間も増える。

 でもじゃあ長時間配信をしようとなってしまっては、高校生活がおろそかになってしまう。

 あくまでもVTuberはついでであり、日常生活の方を優先して欲しい。

 それが僕の本音だ。


「ニートに日常の心配をされるとは思わなかった」

「ちゃんと家にお金を入れてるニートだから、僕は」

 むむむ、と祢巻は考え込む。


「分かった。おにい、私動画勢になるよ」

「よし。じゃあ最初の動画撮影なんだけど、ネタが決まってるんだ」

「なになに?」

 僕はモニターにSNSのDMを表示する。


「人のふんどしを借りれる間に借りまくる。コラボ動画だ」

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