株式会社クレープカンパニー採用試験最終面接〜こんな社長は嫌だ〜
北 流亡
最終面接
「あなたはこの会社に入って何をしたいですか?」
「はい、私は企画職として、芸人さんがより一層活躍の場が増えるよう、ライブの企画をしたいと思っています。大学でお笑い研究会の部長として、部員の特性を考えながら構成や演出を考えた経験を活かせられると思います」
「はい、ありがとうございます」
高田宏太は、その笑顔を崩さなかった。
背筋はまっすぐ伸ばして。両手は軽く握って太ももの上に。視線は面接官の目に。この部屋に入って着席してから、高田は一切その姿勢を変えなかった。
しかしながら、心の中では大きくガッツポーズをしていた。
ここまで、想定通りの質問が来て、想定通りに答えられている。3人いる面接官のリアクションも悪くない。
内定。手を伸ばせば届く位置まで来ていた。
「次が最後の質問です」
中央に座る面接官——専務が言う。高田の両手に少しだけ力が入る。
『こんな社長は嫌だ』
専務は、そう書いたフリップを出した。
高田の背中に、じわりと汗が滲む。大喜利。まさかこんなタイミングで。
だが、すぐに高田は頭を切り替えた。
渡されたフリップに、素早くマーカーを走らせる。
曲がりなりにもお笑い研究会の部長だ。大喜利なんて何回も何回もやってきた。むしろこれはチャンスだ。さあ面接官たちよ、俺の大喜利力に震えるが良い。
高田は即座に回答を書いた。自信は、ある。マーカーの蓋を閉め、まっすぐに面接官の顔を見た。
「出来ました」
「はい、それではお願いします」
面接官がボタンを押す。スピーカーから、アナウンスが読み上げられる。
『こんな社長は嫌だ』
「全身を機械に改造して世界征服を企んでいる」
凍りつくような沈黙が訪れた。
高田は思わず下を向く。顔を、上げていられなかった。マナー違反だとはわかってはいるが、耐えられなかった。
滑った。よりにもよってこの正念場で。冷たい汗が頬をつたい、落ちた。掴んだはずの内定が、ぬるりとすり抜けていく。
誰か、何か言ってくれ。呼吸が、苦しくなる。いまだに面接官たちは沈黙したままだ。果たして今どんな顔をしているのだろうか。落胆、あるいは嘲笑か。
高田はおそるおそる顔を上げる。そこにあった光景は、高田のどの予想とも違っていた。
面接官たちは、明らかに動揺していた。
「私の秘密に、自力で辿り着いたのは君が初めてだよ」
3人の面接官のさらに背後から声がした。壁に切れ込みが走り、左右に開いた。
男が、立っていた。全身を機械に改造している男が。
「しゃ、社長!? どうしてこちらに!?」
面接官たちは震えていた。高田は声が出なかった。これが社長? 特撮番組に出てくる悪の組織の幹部にしか見えなかった。理解が、追いついてこない。
「一部の側近にしか明かしていない秘密を暴くとは、最近の学生は随分と優秀になったものだ」
社長は大声を上げて笑った。高田は口をぱくぱくさせていた。
「高田宏太君。君は採用だ。共に世界征服しようではないか」
社長が右手を差し出す。高田は一瞬だけ躊躇ったが、右手を差し出して握手した。その手は硬く、あまりにも冷たい。
高田は逃げ出したかった。だが、そんなことは出来なかった。本能が、逃げたら消されることを確信していた。
社長は、牙を剥くように笑った。
「ようこそ、クレープカンパニーへ」
こうして高田の社会人生活が始まった。
お笑いの力を使った世界征服のため、更なる困難に立ち向かうことになるのだが、それはまた別の話——
株式会社クレープカンパニー採用試験最終面接〜こんな社長は嫌だ〜 北 流亡 @gauge71almi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます