純白色の試練の壁
長月瓦礫
純白色の試練の壁
その日、私は夢を見た。
できたての鍋がトントンとリズムよくノックして、家の中に入った。
綺麗な花たちがテーブルに置かれた花瓶の中に入って、部屋を照らす。
次々とご馳走やお菓子が家の中に入って、皿に収まっていく。
部屋に明かりがともり、部屋が鮮やかに彩られ、光を放つ。
変な形のホルンを持った観葉植物たちが棚に並ぶ。
部屋が心地いい芳香と食べ物の匂いで満たされていく。
今日で一年が終わるから、パーティーをしないとね。
友達をたくさん呼んで、楽しいことをいっぱいするんだ。
今日は楽しい日になる。そう思っていたのに。
「クっ! ソっ! ガぁっ!」
私はシャベルを壁に突き刺し、雪を崩した。
雪が降り続いて、外に出ることすらかなわない。
白い壁が高くそびえたち、家を潰さんとしている。
一歩外に出るだけで分かる。白い壁が目の前にそそり立っている。
傷ひとつない、どこまでも高い壁。首が痛くなってくる。
「よお、今日も頑張るねえ?」
シャベルを肩に担いで、お隣さんが姿を現した。
私は振り向かなかった。
なんとしてでも、この壁の先へ行かなければならなかった。
ここを超えて、私は自由になる。
パーティーを開いて、楽しいことをしたいから。
壁をノックするように、シャベルで穴を掘る。
壁に突き刺しては崩す。それの繰り返しだ。
「やめておいたほうがいいと思うけどな、この壁を越えて自由になる。
昨日見た夢を叶える。そりゃあ、すげえさ。
けど、本当に自由になれると思ってんのか。
壁の先で自由になった奴の話を聞いたことがあるか?」
壁の向こうにある楽園はあくまでも噂でしかない。
自由の意味が変わってくるのは百も承知だ。
それでも、私は行かなければならない。
私はシャベルを壁に突き刺しては、雪を掻きだす。
少しでもリズムを崩せば、心が折れる。
「その昔、壁を越えようとして何人も挑戦した。
穴を掘り壁を越え……しかし、誰一人として帰ってこなかったそうだ。
あまりにもリスクが高すぎる。それでも行くのか」
「うるさい!」
私はぴしゃりと叫んだ。この壁を越えれば、いいだけのことだ。
私はここに帰ってくるつもりはない。
「外を証明することで私たちは救われる!
これでようやく、すべてが終わるんだ!」
絶叫が響く。自分でも分かるくらい、顔がこわばっている。恐怖に染まっている。
自分の身に起きることをなんとなく、予感しているからかもしれない。
「終わらせてどうするんだ?」
「それで終わり! その先はないの! 私は自由になるの!」
自分の言っていることがめちゃめちゃなことも分かっている。
子どもでも分かる。私のわがままだ。
それでも、私は進まなければならない。
夢で見たパーティーが実現するかもしれない。
暖かな部屋、芳香ただよう空間、夢で出てきたそれを叶えるのは今しかない。
「そうかよ、俺は止めたからな」
私は壁に穴を掘り続け、雪を切り裂いて、外に飛び出した。
純白色の試練の壁 長月瓦礫 @debrisbottle00
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