最後の夏

ノートを片手に私は歩き回っていた。夏である。今年の冬に世界が終わることが決まっているので、これが人生最後の夏だろう。だから私は歩き回っていた。夏を見つけて、自分のノートにスケッチして残しておくのだ。


もうずうっと太陽に照らされていたので、いいかげん暑くなって公園に入り、大きな木の下にあるベンチに座る。ぼうっと空を見上げると大きな入道雲が出ていて、空の青と雲の白がとても好きだと思ったので、私はノートを広げてスケッチを再開した。


しばらくすると隣に顔見知りの小学生が隣に座る。彼は右手にはかき氷が入ったカップ、左手にはプラスチックのスプーンを持っていて、「それをスケッチしたい」と言えば「待ってる間に溶けるからやだ」と言われたのでそれもそうだと思い諦める。また空に視線を戻して入道雲のスケッチを再開すると、隣でシャクシャクとかき氷を食べながら彼が「なんでずっとスケッチしているの?」と聞いたので、「春に後悔したから」と答えた。


春に一度嵐が来て、桜の花びらを全部落としてしまったのだ。私は地面に落ちた花びらを見て、あれが人生で最後に見る桜になるのならもっとちゃんと見ておけば良かったと後悔して、そしてスケッチを始めた。スケッチをしたらじっくり観察しながらノートにその姿を残しておくことができるから。

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少し不思議な掌編集 @inori0906

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