第3話 村の中で

「ナナイ!生きていたのか! 本当に良かった。」


馬に乗った兵士が息を切らせながら話しかける。

名前を呼ばれたがその男に見覚えはない、ナナイは返事に困っていた。

男は、返事もせず困った顔をした少年を見て何かを察する。

馬を降りて目線を合わせ、優しい声で話しかけた。


「そうか、もう何年も会ってないんだ、忘れていても当然だよ。

 君のお母さんのお兄さん、つまり君から見ると叔父だよ。」


その言葉を聞いて何となく見覚えがあるような、無いような。

母さんに顔が似ていると言えば似ているが、似てないと言えば似てない。

でも、悪い人ではないことくらいは理解できる。

瓦礫を片付ける手を止めナナイは答える。


「叔父・・・さん、すいません、僕は覚えていなくて。」


申し訳なさそうに返事をするナナイの言葉に笑顔で返し、思い切り抱きしめた。

抱きしめる力がすごく強くて、ナナイは声をあげそうになった。

でも、我慢して、それで本当にこの人は叔父なんだ分かった。

抱きしめる手を放し、向かい合うと叔父は話しかける。


「君のお母さんと、お父さんも無事なのか?」


その言葉にナナイは表情を曇らせた。

それを見た叔父はすぐに察する。

優しく頭を撫でると馬に跨った。


「明るいうちに村の被害を確認しておきたいんだ。

 夜に食事をしながら話を聞かせてもらってもいいかな?」


ナナイが軽くうなずくと笑顔で返し馬を走らせ去っていった。




二人は焚き火に当たりながら丸太に並んで座っている。

少年は粥のようなスープに何かの野菜が入った質素な物を食べている。


「君はどうして生き残れたんだい?」


この村の被害は筆舌に尽くしがたい。

防御設備の迅速な破壊、家屋などへの放火。

村の外へわざわざ退路を作り誘導して一網打尽にしている。

村人で生き残った者のほとんどは用があって外に出ていた者だ。


「・・・3ヶ月くらい前から父さんが隠れる場所を作るって言い始めて。

 使っていない井戸の途中を横に掘って、そこに隠れる練習もしていたんです。」


男は小さく頷いた。


「そうだな、昔から堅実な男だったからな。

 万が一に備えられる優秀さは変わっていないな。」


少年は驚いたように男の顔を見た。


「叔父さん、お父さんの事を何か知っているの?」


大きな声にもかかわらず揺れ動く焚き火の炎をじっと男は見つめていた。


「ああ、君のお父さんは私の元部下だからね。

 君のお母さんに紹介したのも私だよ。」


悲しそうな顔を見てナナイは何も言えず同じように焚き火を見つめる。

しばらくして、呟くように口を開く。


「どうして、、どうして僕の村が襲われたの?」


目を閉じて男は考えているようだった。

意を決したのか目を開けると少年の目を見て話しかける。


「難しい話だけれど、いいかい?」


少年がうなずくと、男は話し始める。


「全ての問題はこの地域で取れる石炭と鉄にあるんだ。

 そして東にある大きな国と、西にある大きな国の境目にこの村がある。

 鉄で作られる物って沢山あるだろう?

 包丁も釘も、ノコギリも、つるはしも、、剣も鉄でできているよね?」


ナナイは大きくうなずく。


「だから鉄をみんなが欲しがるんだ。

 みんなが欲しがるって事は国も欲しがる。

 だからいつも喧嘩して自分のものにしようとする。

 その度にこの地域が被害を受けるんだ。」


ナナイが質問する。


「喧嘩しないように分け合うことは出来ないのですか?」


「いい質問だ。世の中の人がみんなそう思えたら、喧嘩なんて起こらないからね。

 しかし、そうはならなかったと歴史は記録しているんだ。

 でも、国も馬鹿じゃない。

 この地域ではお互いに軍の駐留を禁止して余計な摩擦を起こさない不文律を作った。

 ・・・まぁ喧嘩になるから近づいてはダメだって事にしたのさ。」


「それで、平和になったのですね。」


「ああ、・・・少しの間だけ平和になったよ。

 どの村にも兵士はいなくなったから揉め事は減ったよ。

 だけど、しばらくすると悪い奴らが集まってしまったんだ。

 兵士がいなくなってしまったからね。」


男はため息をついて、話を続ける。


「戦争は無くなったけど、野盗から自分たちで村を守らなくてはいけない。

 私も幼い時から武器を手に取って戦っていたんだよ。」


ナナイは驚いた顔をして男を見る。


「叔父さんもこの村で育ったんですか?」


「そうだよ、大人になるまでこの村が私を育ててくれたんだ。」


目を輝かせて何かを聞こうとするナナイを見て、男は軽く手で制する。

男は続けて話す。


「この地域は昔から争いが絶えず、未来でも争い続けるだろう。

 私の妹と友の子を、この村に残していきたくないんだ。

 どうだろう、この村を離れ私と安全なところで暮らさないか?」


「ありがとうございます、こんなに優しい叔父がいるなんて誇らしいです。

 この村を離れれば幸せで、平和な毎日が待っている。

 でも・・・





『それで、何て言ったの?』


夜空に輝く満月が少女と少年を照らしている。

ニコニコと楽しそうに微笑む少女は優しく質問した。


「でも、僕は母さんと約束したんだ、強くなるって。

 この村から逃げたら強くなんてなれない。

 きっと僕は後悔する。

 だから、僕は二度とこんな事が起こらないようにするんだ。」


『あなたの叔父さんの話を断って、怒っていなかった?』


「うん、怒るどころか笑っていたよ。

 血は争えないなって。」


『それならよかったわね。

 私もあなたと会うのが最後にならなくてよかったわ。』


「うん、、、。」


『さて、約束があるからそろそろ行くわ。

 また会いましょうナナイ。』


「・・・あの、初めて会った時は、沢山の事があって、忘れてて。

 いや、、忘れてたんじゃなくて、言いそびれてしまって・・・」


『ふふ、急に改まってどうしたの?』


「母さんを生き返らせてくれて、ありがとう。

 君がいなかったら、僕は今でも悲しくて泣いていたと思うから。」


『悲しくて泣くことは恥ずかしい事じゃないわ。

 それにあなたを勇気づけたのは私じゃない。

 あなたのお母さんを誇りに思うべきだわ。』


「そうなんだけど、、そうじゃなくて・・・」


『・・・困った時には手を差し伸べる。

 友達ってそういうものでしょ?』


「うん、それじゃあ次は、僕がミフルを助けるよ。」


『うん、ありがとう。』

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流浪の死霊術師(ネクロマンサー) 八島 久美 @yashima1107

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