第17話 私のチート対策

チート【cheat】

1 ごまかし。ずる。いかさま。また、そのようなことをする人。詐欺師。

2 コンピューターゲームで、プレーヤーがプログラムを不正に改造すること。オンラインゲームなどで、不正な手段でゲームを有利に進めるアイテムを入手することも指す。チーティング。

──出典:デジタル大辞泉(小学館)



 元はゲーム用語だった「チート」ですが、小説においては、主人公に安易に強力な能力や武器を付与して、主人公がうまくいくようにストーリーを展開させることを言いますよね。


 私が書いている「勇者フルート」も、特に初期の段階ではずいぶんチートだと言われました。

 そりゃそうです。

 主人公のフルートは物語の序盤で癒しと聖なる魔力をもつ魔石を手に入れるし、初めての旅でもう強力な魔法の防具と炎の魔剣を手に入れてしまいます。

 フルートの仲間たちも強力な魔法の武器を手に入れるし、そもそも常人離れした能力も持っています。

「いくら主人公たちが子どもだからといって、これはあまりにチートじゃないか」と、特に小説を読み慣れている読者からは叱られました。

 まあ、まったくその通りなので叱られてもしかたないですし、自分でもその部分は「安易だなぁ」と思いながら書いていたのですが。



『勇者フルート』の物語は当時小学1年生だった息子の寝物語に、即興で作って語り聴かせることから始まりました。

 灯りを消して暗くした部屋の中で、息子と話し合いながら、主人公たちの名前を決めたり、物語を進めたりしていきました。


 怖がりだった息子は、主人公たちが危機に陥るのが怖くて、とにかく良い武器と防具を持たせたがりました。

『え、この段階でもう魔剣を持たせちゃうの!?』

『えええ、そんな強力な防具で固めちゃう!?』

 息子のリクエストを聞きながら、私は心の中で叫んでいました。

 あ、安易だ……。


 でも、息子のための物語だったので、リクエスト通りの装備にして、ストーリーもあまり厳しくならないように配慮しました。

 それでも息子ははらはらして、ときには蒲団に潜りながら聴いていましたが。


 そんなふうにして物語を作っていったのは、今連載している2作目の「風の犬の戦い」まで。

 前の晩に語った分を文章に起こして、自分のサイトの中で公開していきました。

 3作目からは語り聴かせではなく、直接パソコンで物語を書いて公開するようになりました。

 そうするうちに、子どもだけでなく大人の読者も増えてきたので、作品そのものを大人が読んでも面白いと思える物語にしたくなりました。

 そこで、4作目(現在の5作目「北の大地の戦い」)の連載を終えたところで、最初から書き直すことにしました。


 書き直すに当たって突き当たったのが、「チートな設定をどうするか?」。

 魔石はフルートを金の石の勇者にするためのものなので、序盤で出てくるのはしかたないとして、防具や魔剣はもっと後に手に入るように書き換えようか、仲間たちの初期能力や武器はもっとレベルを落として現実的にしようか、とあれこれ考えました。

 ところが、どうも面白くありません。

 私はドラマチックなストーリー展開が好きなので、現実的な設定にしてしまうと、物語が小さくまとまってしまいそうで、面白くなかったのです。


 そこで、発想の転換をしました。

「チートな設定なら、それを上回るくらい主人公たちを大変な目に遭わせよう! そうすればチートがチートにならなくなる!」


 そういうわけで、主人公たちは毎回とても危険な目に遭うようになりました。

 特にフルートは、あれだけ強力な武器や防具や魔石を持っているのに、数え切れないくらい危なくなります。

 『勇者フルート』は、はらはらドキドキの物語なのですが、これは設定のチート対策から生まれたのでした。


 ちなみに、怖がりの息子はその後どうしたかというと、母の読み聞かせで途中まで聴いてくれましたが、その後は別のものに夢中になって、読者を引退してしまいました。

 また読んでくれたら嬉しいな、と思い続けていますが、こればかりは我が子でも強制はできないので、しかたありませんね。(苦笑)


 以上、私の『勇者フルート』におけるチート対策の話でした。

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