第7話 異世界転生というテンプレを考える

『勇者フルート』の物語は異世界ものですが、主人公は異世界転生をしていません。

「ステータスオープン!」で自分のステータスボードが見られるわけでもないし、こちらの世界から転生した人間と出会うわけでもありません。

 なにしろ、私がこの物語を書き始めた頃には、異世界転生というテンプレは存在しませんでしたから……。


 だから、初めて異世界転生の作品に接したときに、「なんて巧い技法だ!」とすごく感心しました。

 今ではもうすっかり当たり前になってしまった異世界転生ですが、どのあたりが巧いか、改めて書いてみようと思います。


 1.物語の導入がスムーズ


 小説を書き始めるとき、一番悩むのは書き出しです。

 プロの小説家であっても、書き出し部分は何度も何度も書き直したり、とても長い時間をかけて悩んだりするそうです。

 でも、異世界転生なら「この世界の日常生活」→「事故・事件」→「この世とあの世の狭間の世界(神様との対話)」→「異世界に転生」と、非常に自然に場面が移り変わって、物語の世界にスムーズに導かれていきます。

 テンプレが広く普及したので、この部分を「これって有名なアレだよね」という主人公の独白で、あっという間に終了させる作品も増えたようです。



 2.異世界を現代日本人の視点で捉えられる


 異世界ものは中世をモデルに描かれることも多いですが、その時代を忠実に再現しようとすると、現代日本人の私たちにはちょっと受け入れがたい部分が出てきます。

 例えば、めったにお風呂に入らない、シャンプーもしない、服や寝床にはノミやシラミ、子どもは勉強より労働、などなど。

 オリジナリティの高い世界を構築した場合は、独特の習慣があったり、特別な種族や生物が暮らしていたりもします。

 そんな世界を、転生した主人公が現代日本人の感覚で「これはおかしい!」「これってどういうことだ!?」といちいち突っ込んでくれるので、読者も共感しながら「異なる世界」を眺められるのです。

 異世界を違和感なく読めるというのは、けっこう重要なポイントだと思います。



 3.異世界を説明しやすい


 異世界転生ものでは、「これってどういうこと?」と主人公がとまどうので、たいていその説明をしてくれる親切な人物がそばにいます。

 その説明を聞くことで、読者も世界を理解していけます。

 主人公が熱中していたゲームや小説にそっくりな世界の場合は、主人公がその世界を熟知しているので、解説者は主人公自身です。

 転生ものではないファンタジーでも、解説好きのキャラクターが主人公のそばにいると、ぐんと話が進めやすくなるのですが、転生人だとそれがいっそうスムーズになるのですね。



 4.主人公強化の展開につなげやすい


 ゲームのように自分のステータスを見ることができる世界では、自分が成長していく様子を数値で知ることができます。数値を上げることが目標になって、その先のストーリー展開につながっていきます。

 ゲームに馴染んだ読者にとって想像しやすいというメリットもあります。

 主人公が敵と戦ったりクエストをこなしたりしてステータスを上げていく様子は、ポジティブでわくわくする展開だろうと思います。



 とまあ、わかりきったことを改めて書いた気がしますが、これだけメリットがある異世界転生テンプレにも、もちろんデメリットはあります。

 それは「同じような作品が多すぎて自分の作品が埋もれてしまう」こと。

 異世界転生は優れたテンプレだけれど、それで作れるのは導入の部分だけなので、その先の展開に個性を出さないと生き残れません。

 テンプレを使って書くのは、実際にはかなり覚悟がいりそうだな、と思いながら見ています。



 次回は小説の「ステレオタイプ」について考えてみます。

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