第5話 私はどうして大長編になるのか

 第2話と第3話で書いたように、長編体質の書き手はいろいろデメリットが多いです。

『カクヨム』のような投稿サイトで読者をたくさん獲得したかったら、大長編を書くより、楽に読み切れる長さの短編か、1話ずつを短く区切った中編をこまめに(できれば毎日)連載していくのが良いだろうと思います。

 もちろん、読んで面白い内容を書くのは大前提なのですが、内容が良くても読みにくければ読んでもらえませんから、デメリットはできるだけ減らしたほうが良いのです。


 では、それだけのことがわかっているのに、どうして私は大長編を書いていたか?


 いえ、20年の間に、何度も簡潔な文章に挑戦したことはあるんです。

 読者が読みやすい文字数、文章量。

 改行の場所。

 ことばの選び方に至るまで、本当にいろいろ考えて試しました。


 でも、そうやっているうちに、私は急に行き詰まるようになったのです。

 それまでずっとスランプ知らずだったのに、思うように場面が描けなくなって、書くのが苦痛になってきました。

 あんなに書くのが楽しかったのに。

 ああ、この書き方は私に合っていないんだ、と気がつきました。


『勇者フルート』は、フルートという田舎町の少年が思いがけず勇者に選ばれ、個性的な仲間たちと出会って、友情や愛情をつむぎながら冒険を繰り広げ、最終的には破滅の闇の竜に挑みます。

 王道中の王道のストーリーですが、物語の始まりに11歳だったフルートは、最終巻では17歳になります。

 絵巻物のように、フルートと仲間たちの成長を丹念たんねんに追いかけていく物語なので、「簡潔で」「要領のいい」物語にするのは不可能だったのです。


 私はまずキャラクターを考えます。

 外見や性格を考え、その性格がどんな環境で育まれたかを考え、個性や特別な能力、口癖や好みなども考えていきます。

 舞台になる場所やそこで起きる事件は巻ごとに違うので、それが大まかに決まったら、彼らをポンと投げ込みます。

「舞台は整ったよ。さあ、あとは好きなように動いてね」という感じです。

 そうすると、本当に彼らがしゃべったり動いたり、何かしらの行動を起こしてくれるので、私はそれを文章に書き起こしていく──それが『フルート』の物語の書き方です。


 時々、こちらが予想もしていないような行動をキャラクターがとることがあります。

 それも「おお、こう出ましたか」と思いながら書いていきます。

 でも、すべてをキャラクター任せにしておくと、ストーリーがとんでもないほうへ流れて、まとまらなくなるので、要所要所に通過点になる場面は考えておいて、彼らがそこを通っていくように仕向けます。

 巻ごとの結末もあらかじめ考えておいて、そこへ到達できるようにしていきます。

 だけど、キャラクター任せの部分はとても多いので、書いてみないと次の場面がどうなるかはわからないし、どんなエピソードが飛び出すかもわかりません。


 この書き方はどうしても長くなりますが、彼らと一緒に冒険をしている気持ちになれるので、私は書きながらいつもわくわくしていました。

 独りよがりにならないように常に気をつけていましたが、それでも『勇者フルート』の物語の一番の読者は、間違いなく私自身でした。

 自分の作品を自分で楽しんでいたからこそ、20年も書き続けて完成させることができたのだと思っています。


 次回は、『勇者フルート』は私の精神安定剤だったというお話です。



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