第6話 敵襲
クーゲル男爵領に来てから一ヶ月後。
俺はこじんまりな、しかししっかりとした屋敷の前で達成感に溢れていた。
やっと今日、俺が住む屋敷が完成したのだ。
「いやぁ、やっとテント暮らしからおさらばできるな」
「……しかし、領主の屋敷にしてはこじんまりとしすぎでは?」
「いいんだよ。別に俺たちが働いて寝れれば十分だ。むしろおっきいくらいじゃないか?」
「なるほど。身の程を弁えたということですか」
「……そうなんだけど他意を感じるな」
俺ががっくしと肩を落とす。
しかし、スケルトンが中心となって建てた割にはちゃんとした建物に出来上がった。
幽閉されていたとき建築関係の書物を読み漁っていてよかった。
「しかし、せっかくハインリヒ様のお屋敷が完成したというのに、誰も祝いに来ませんね」
「まぁ、俺嫌われてるからな」
ガンサの人望は大したもので、あいつが俺に関わるなと言えば大体の人間がそれに従う。
おかげでクーゲル男爵領に来て一ヶ月、俺はほとんどの村民と大した話もできていない。
まぁ俺の好感度なんでどうでもいいからいいんだが。
「わぁ~おうちができてる~!」
「ん?」
しかし、俺たちの足元から無邪気な声が響いた。
視線を向けると、そこにはここに来た直後に出会ったあの無邪気な少女がいた。
「お? また君か」
「ねえねえ、これりょうしゅのおうち?」
少女はキラキラとした瞳で目の前の屋敷を見上げている。
「そうだよ」
「りょうしゅがつくったの?」
「いいや、俺の魔術で建てたんだ」
「まじゅつ? どんなまじゅつ~?」
「こんな魔術」
俺は少女の目の前で一匹のスケルトンを召喚した。
「…………」
その瞬間、少女の表情がピシリと固まり動かなくなってしまう。
「すまんすまん、怖かったか?」
俺がそう言うと、少女ははっとした顔になり俺の足をぎゅっと抱きしめた。
「う、うん。いきなりでびっくりした~」
俺はその言葉が少し意外だった。
俺の召喚するスケルトンを見た人間の反応は、大体が怯えるか、咄嗟に攻撃してしまうかだ。
それなのにこの少女は少し怯えるそぶりを見せ距離をとったものの、それ以上のリアクションを見せない。
「そっか、でも大丈夫だ、襲ったりはしない。触ってみるか?」
「……ううん。ちょっと怖い」
「そうか……じゃあこっちはどうだ?」
別に会話を切り上げてもよかったのだが、アンデッドに対しての反応が珍しかった俺は、続いて犬型のスケルトンを召喚した。
「わ。おいぬさん?」
まだ幼いからか、それとも彼女が特別なのか、次のスケルトンが犬型と気付いた少女からは怯えの感情が薄くなっていた。
大体の人間は犬型だろうが人型だろうが、スケルトンだと喚き散らかすのにだ。
「かわいい~~!」
少女が犬型のスケルトンに近づくと、スケルトンはからんからんと吠えるように骨を鳴らした。
照れているのだろうか。
「気に入ってくれたか?」
「うん!」
その言葉に嘘はないようで、少女はスケルトンと一緒に俺の周りをぐるぐると走り回る。
少女の表情はとても楽しそうだった。
「じゃあこのお犬さんは君にあげよう」
「ほんとう!?」
「あぁ、いいとも。その代わり、君の名前を教えてくれないか?」
「ペパはペパ!」
「ペ、ペパ……?」
「そう!」
少女――ペパはニカッと笑うが、俺は頭を悩ませていた。
(そんなキャラ原作にいたか……? いや、こんな特徴的な名前を忘れるはずがないよな……うーん)
俺が前世でやっていたゲーム、『女神の祝福』にはそんなキャラいなかった気がするんだよなぁ。
「……ん?」
「どうかされましたか、ハインリヒ様」
その瞬間、俺が召喚したアンデッドから連絡が入った。
どういう原理か知らないが、俺は召喚したアンデッドからテレパシーのような感覚で意思疎通ができる。
しかしアンデッドは知能が低い魔物だ。
そのため複雑な会話はできないので、「なんとなくこう言ってんだろうなー」という感じになってしまう。
「よし、ペパ。じゃあお犬さんと家で遊んできな」
「分かった! ありがとりょうしゅ!」
そう言ってペパは犬型のスケルトンと一緒に村の奥まで消えていく。
「怪我するなよ~~~。……見張りのアンデッドからの報告だ。イェリナ大森林から魔物の群れがこちらに向かっていると」
「! では、迎撃に?」
「あぁ。だが魔物の数が思ったより多い。まずは村人に家から出ないように伝えなければ」
「……そうなると、また厄介な問題が発生しますね」
「……そうだな」
はぁ~、と俺たちは二人揃ってため息をつく。
この村には魔物の他にも、村の中に敵がいるのだ。
ハッピーエンド厨が悪役王子に転生したので真のハピエンを目指す~忌み嫌われた死霊魔術の力で主人公とヒロインの仲も領地も発展させる~ 水本隼乃亮 @mizzu0720
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