大学時代の女友達

佐々井 サイジ

大学時代の女友達

 大学時代の友人だった亜美は百六十センチくらいの身長で細身だったけど、推定Dカップの胸をたくわえていた。顔は好みではなかったけど悪いということも無く、自称サバサバな性格通り、男にもガサツに接していた。くねくねしながら近づく女子よりも喋りやすいし俺はそんな亜美と酒の勢いで間違うことがないか、飲み会の度に期待していた。


 亜美がベッドの上だとどんなかんじになるのかよく妄想していた。こういうガサツでサバサバしている女の子がベッドの上ではかなり女の子になるというのが俺の好きな妄想だった。女の子になっている自分に恥ずかしくなって口調が荒くなる光景を亜美の顔を見ながら妄想していた。


 亜美は一応彼氏がいたらしかったけど、頑なに写真を見せてくれなかったし、彼氏の話題になると、普段話す下ネタを封印し、適当にはぐらかして違う話題に変えようとしていた。それがまた俺の妄想が正しいことを裏付ける気がして、その日の夜はよりいっそう亜美を妄想することで楽しんでいた。


 そんな亜美から「人生の相談に乗ってほしいから久しぶりに会わない?」とLINEが飛んできた。秒で「OK」と返事を送り、食べログでいい雰囲気の店を探してそれもすぐ送った。「さすが」「さんきゅ」と、「!」もスタンプも送られてこない質素な文面にまたベッドの隅で体を隠す亜美を脳内に浮かべる。

 

 亜美とは大学卒業して以来会っていなかった。妄想では今でも登場しているんだけど22歳の亜美の顔や服装で時間が止まっている。あれから七年経った亜美は今、どんな姿なんだろう。人生の相談って何だろう。結婚に焦っていて前触れもなく告白されたりして。会っていない期間は長いけど仲良かったし。


 もし告白されたら迷わずOKしようと思っていた。二十九歳で付き合ったら問題なければ結婚コース。顔はタイプではないけど、男友達のように下ネタさえ気兼ねなく話せる亜美と一緒に過ごせるんだったら楽しそうだし、なにより俺の妄想が正しいか答え合わせをしたくてしょうがなかった。正解を確かめたい。


 亜美はあの彼氏とどれくらい続いたんだろう、もし別れたとしたら何人の付き合ったんだろうって会う前までずっと考えていた。結論、彼氏の前では女の子になる亜美はずっとあのときの彼氏と付き合っていたけど、突然フラれて人生プランが白紙になって絶望し、俺に連絡してきたと予想する。


 亜美にがっかりされないよう黒のスキニーパンツに白ニットを合わせて自分に最も似合う服装で決めた。久しぶりに会った亜美の髪はロングからショートになっていて、しかも黒のロングスカートに白のニットというまさかのおそろコーデで運命は決まったと思った。そして亜美は何より女性らしくなっていた。


 「転職しようかと思ってるんだけど、二十九歳でいいところに転職できると思う?」という人生の相談にはがっかりした。そんなものはエージェントに相談したらいい。俺はそんな話題はしたくなかったけど、まだ可能性を信じて真剣に相談に乗った。


「亜美だったらいけるよ。応援してる」

「マジで浩輔に相談して良かったわ」


 亜美は言いながらジョッキ満杯に入った黒ビールに口をつける亜美に夢中になって見つめた。サバサバの亜美は今でも男勝りな喋り方だった。でもベッドでは女の子になるんだろうかという長年の疑問に抗えず「亜美ってさ、結婚したの」って聞いた俺が馬鹿だった。


「してたら結婚式呼んでるよ。でもいい感じの人がいる」


亜美はあのときの彼氏と別れたあと、何人か付き合ったけど今は彼氏がいない。でも職場でたぶん両想いの人がいるとのことだった。でも俺と二人で会うって言うことは、内心、俺に告白されたいって言うことじゃないか。


 尽く予想を外した脳が新たな推測を始めた。


 亜美と俺はなんでも話せる仲。回りくどく質問するより、直球で聞いた方が早いことはわかっていた。「なんで俺と二人で会って人生の相談に乗ってもらおうって思ったの? 俺のこと好きとか」俺は恥ずかしくなって視線を逸らし、皿にエイヒレが一枚だけ残っていたのを、マヨネーズを大量につけて食べた。


亜美は人から奪った盗品を前に祝杯を挙げる山賊の頭領のように大きな笑い声をあげた。

「いや、浩輔のことは人間的には好きだけど、そんなんじゃないから」「転職とは別にその人と付き合うにはどうやったらいいか聞こうとも思ってたから男側の意見として浩輔と会っておきたかっただけだし」


 妄想していたベッドの上の亜美の正解は二度とわからないことが確実となって、エイヒレで傷ついた歯茎の痛みも忘れビールを呷った。「このあとホテルに行く流れかと思ったわ」と同じ山賊のような笑いをするため強張った頬を無理やり持ち上げた。「浩輔とホテルとかありえないから」亜美は大きく口を開けて笑っている。


 もっとずかずか「ベッドの上ではどんなかんじなの」と聞けばよかったけど、何だかそれは聞けなかった。亜美は女性らしくなっていたし、長年会っていなかったからか、これ以上冗談っぽく話せる自信がなかった。亜美の満足度を満たし、店員にお勘定を伝え、だいたい半分の割り勘を出して店から出た。


「その人と結婚したら、式の招待状送るわ」と亜美は言い残して別れた。俺は妄想の亜美とも決別しなくてはいけない。なんだかんだもう大学卒業して以来彼女がいない。好意の無かった亜美を妄想し続けて逃し続けたのか。いや、こんな気持ち悪い俺をみんな見抜いていたのかもしれない。


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