スナッフフィルム

Tくんは数年前、仕事の関係でしばらくイタリアに住んでいた。


飲み歩きが好きなTくんは、イタリアでもよくバルに通っていて、そこで会った人と雑談しながら酒を飲んでいた。


そんなある日、バルで陽気なイタリア人に話しかけられた。


「おい日本人、好きなサッカーチームはどこだい?答えによっては戦争だ」

「ナポリだ、マラドーナは永遠のヒーローだよ」

「おお、日本人!わかってるじゃないか、最高だ!」


Tくんと好きなサッカークラブが同じだったこともあって、そのイタリア人とすぐに打ち解けた。名前を聞くと「マルコ」と答えた。年上だが陽気で人懐っこいマルコとは仲良くなり、バルで飲んだ後マルコの家で飲み直したり、サッカー中継を一緒に観たりするようになった。



ある日、Tくんがマルコの家で飲んでいた時「面白いものがある」と言われて一本のDVDを見せられた。サッカーのプレー集かなと再生する。それはサッカー映像と少し毛色が違うものだった。



映し出されたのは薄暗い部屋、その中央にある椅子に座っている男の映像だった。男は手を後ろに組まされ、縄で椅子に固定されていた。


SMなのか?陽気なマルコのイメージに合わない映像に「なんか趣味悪いなぁ」と思っていた。


1分ほど観ていると、映像に変化があった。


背後のドアから人が入ってきたのだ。


仮面をつけた人、おそらくそれも男性だろう。手にはナイフを持っている。


仮面の人は椅子の男に近付いていき、そのナイフを椅子に座っている人の首筋に向ける。そして一気に突き刺した。


首からは血が吹き出し、椅子に繋がれた男は、椅子ごと倒れ込んだ。



暗転。



見せられたDVDは殺人の一部始終を録画した、所謂スナッフフィルムだった。



何がどうなった?


これは本物なのか?


作り物なのか?


いろんな事が頭をよぎる。



そうしているうちに、画面が明るくなった。


また同じように椅子に繋がれた男が中央にいた。そして同じように後ろから仮面の人が現れる。今度は鉄パイプのようなものを持ち、男の後頭部に向かって何度も殴打。椅子に繋がれた男は動かなくなった。


暗転。


そしてまた次の殺人が始まる。

また同じ部屋。中央に椅子に繋がれた人が仮面の人に殺される。どうやら仮面の人は毎回違うようだった。


本物なのか、偽物なのかわからず、だがやけにリアルな殺人に動悸が止まらなくなった。



4本ほど見たところであることにTくんは気付いた。


椅子に繋がれた人の腕にタトゥーがあった。

このタトゥー、1本前の仮面の人の腕にあったものと同じものに見える。


同一人物?


そう思ってると次の動画が始まった。


椅子に繋がれてるのは、やはりさっき殺す側だった人だった。一つ前の映像で殺す側だった人が、次に殺される側になるルールなのだろうか。


しばらくするとドアが開き、仮面をつけた人が入ってきた。


手には斧を持っている。


少しずつ近付くと腕を振り上げ、繋がれた人の後頭部に向かって、一気に、斧を叩きつけた。


吹き出す血。


椅子の人は少しずつ身体の力が抜けていき動かなくなった。



ただそこからは今までの映像と違った。


仮面の男がカメラに近付いてきたのだ。

そしてカメラの方を見るとおもむろに仮面を外した。



マルコだった。



マルコがカメラ目線で笑う。そこで動画は終わった。


これは一体なんだったんだ?


不安になりマルコが座ってる方に恐る恐る視線を向けた。マルコは動画と同じ顔で笑っていた。



「大丈夫、次はもう決まってるんだ、君じゃないよ」



その後、Tくんは気分が悪くなり、そのまますぐにマルコの家を後にした。


これがきっかけで、マルコとはバルでは顔を合わすものの、家に行くことはなくなった。そうこうするうちに日本に帰ることになり、マルコとはそれっきりとなった。



帰国後もマルコとは連絡を取ってはいない。だが多分あの部屋で殺されていて、この世にはいない、Tくんはそう思っている。

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短編集 蓑虫 @minomushi1981

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