第3話 人間は、成長しない面と成長する面がある

 真緒との偶然の出会いの後、少し歩いて家に帰った俺は、まず部屋の掃除から始めた。改めて、昔の俺の部屋が汚部屋過ぎたことを実感し、散乱している色々な物の整理から始める。


 一人暮らしを経験してからというもの、家事の大切さと両親の凄さが嫌というほど分かった。家事は本当に大変だし、生活するためには最低限の事はしなくてはならない。寂しさもあって、一人暮らしを始めた時は、本当に病みかけたな。


(少しでも、家では自分に出来る事をしよう)


 そう決意し、一回目の人生で学んだ教訓を存分に活かすことにしよう。

 何だか妹の彩羽が、疑うような表情をして俺を見ているが、ここでは無視することとする。ごめんね、自堕落すぎた兄で。別にやましいことはないからな。だからそんな疑う顔しないで。





◇◇◇



 そんなこんなで楽しみながら、すぐにやり直しの二回目の人生にも慣れて、いよいよ二回目である高校の入学式の日がやってきた。二回目だが、また色々な意味で緊張する。

 でも大丈夫。タイムリープした俺は、最強なはず! 最強ラノベ主人公のように、きっと今度は幸せな展開が待っているんだ!


 タイムリープした、という強い精神を持ち、振り分けられたクラスの教室へ向かった。二回目なので何か困る事もなく、スムーズに向かうことができた。


「あ、ヒロ! ヒロも進学コースだったんだ。知り合いがいてよかったぁ……」


 教室に入ると、幼馴染の真緒が話しかけてきた。おい、やめろ! 他のクラスメイトから、何か嫉妬と興味が混ざった怖い視線がめちゃくちゃ刺さってるから!

 真緒と俺じゃ、あまりにもレベルが今は違いすぎるんだよ! 

 全く、無自覚すぎるんだよなあいつ……


 ちなみにこの東松高校には、進学コースがあって、二クラス存在する。成績がよっぽど悪くなければクラスが変わる事もなく、三年間同じクラスメイトだったりするので、友達がいなければ地獄ではあるが、良いクラスだと楽しめる。

 また自分から希望を出せば、総合コースに変更できる。総合コースは、進学コースより少し緩い感じで、レベルも違う。二年生でコースは最終決定になるので、二年から三年に上がる時のコース変更はできないので、その点は注意しなければならない。


 えっ、俺はどうしたのかって? 

 一回目では何となくで入った進学コースを後悔し、二年から総合コースで遊んでました。オタ活の事しか脳内になかった俺は、アニメやラノベに没頭しましたね。

 まぁ、二回目では頑張ってみよう。なんせ、タイムリープしてるのだからね!


「真緒も進学コースだったんだな。改めて、よろしく」


「うん! 高校生活、一緒に楽しも~!」


「お、おう」


 そう言いながら、真緒は少し笑う。相変わらずというべきか、俺は女子への耐性がないので、何だか上手く言い返す事ができなかった。 

 人生経験はあるのに、女子とのコミュニケーションの経験が全くないのが、本当に寂しい。

 ただ一回目の人生では、真緒と話す事はほとんどなかった。再会したものの、気まずくて話したくても話せなかったのだ。そういった事を考えてみれば、大きな進歩と言えるだろう。


 俺は真緒との会話を終え、改めてクラスを見渡す。

 おちゃらけてた奴、容姿が優れてる奴、物静かな奴、親友だった奴……細かくは覚えてないが、ある程度のキャラや特徴は覚えているので、何かに活かせそうだ。

 

 えーとこの後は……特に変わりがなければ、“あいつ”に話しかけられるんだっけか。


「あ、もしかしてそのキーホルダーって、今人気のアニメの……?」


 はいビンゴ。どうやら、基本的な人生のイベントは、大きくは変更がないようだ。

 俺と同じオタクであり、高校時代の唯一の親友……有山ありやま優斗ゆうとに、二回目の高校生活でも話しかけられた。


「そうだよ。俺、アニメとか好きでさ。俗にいうオタク、というか」


「僕もアニメ好きなんだよね。よければ、仲良くしてくれないかな?」


「もちろん。こちらこそよろしくな。えーと、優斗って呼べばいいか?」


「あれ、名前言ったっけ……? というより、僕はなんて呼べばいい?」


「あっ……宏隆でいいよ」


「了解! よろしくね、宏隆」


 そう言って、優斗は自分の席に戻っていく。

 一回目の人生と同じように、仲良い感じで接してしまったことは、少しやらかしてしまった。優斗は違和感を感じていたみたいだし……余程の事がない限り、タイムリープしたことがバレることはないとは思うが、そこら辺は上手くやらないといけない。

 優斗は大人しい系の男子で、本当に親切で優しいので、優斗にはバレても問題はないとは思うが、何が起こるか分からないからな。タイムリープした事はバレないようにしないと、人体実験でもされたら堪ったもんじゃない。


 まぁ、ここから華のある第二の青春が始まるのだ。そして、今度は幸せな人生を過ごして、幸せになる。結婚もしたいし、お金持ちにもなりたい。色々な所に旅行したいし、仲が良い人も増やしたい。

 タイムリープしたことも活かして、俺は成功するんだ……!



◇◇◇



 そう決意したのが、今となっては懐かしい。

 俺の名は、畑 宏隆。アニメ好きのオタクの高校生で、ただいまタイムリープをして二回目の高校生活を過ごしている。

 タイムリープをして、はや一年。さぞかし最強俺様主人公ムーブをして、二回目の高校生活を謳歌している事だろう……と、皆さん思ってないですか? どうですか?

 ええそうです。二回目の高校生活を、現在進行中で過ごしています。


 勉強に関しては、色々と役立った。過去の記憶というものは、一回思い出すと便利なもので、嘘のようにスラスラと覚えていき、勉強は調子が良い。

 親や先生が、復習しろとしつこく言っていた理由が、よく分かる。復習って、本当に大事ですね。まさかここで、その大事さを理解するとはね。

 優斗ともまた仲良くなる事ができたし、学校行事も積極的に参加し、一回目の時より楽しめた。

 真緒を含め、クラスの他の奴らともある程度良い関係だし、一回目の人生よりは充実しているだろう。ただ……



 ほとんど変わらねぇっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!



 何なの俺? また懐かしい気持ちになって、一回目と変わらないようにゲームしてるの? 

 リアルタイムで過去の名作アニメ観れる事に、興奮している場合じゃないんですよ! いや確かに、これもタイムリープの利点だけども!


 一回目の人生が金魚の糞とするなら、今は人糞と言ったところだろうか。

 結局だらけてしまって、このままだとまた似たような道を通ってしまう。一回目よりは良くなったが、タイムリープしたからと言って、二回目の高校生活で無双できるわけではなかったのだ。


 今までに、観たことや読んだ事があるタイムリープ系の作品を思い浮かべてみる。

 あれ? 嫌な過去や未来を変えようとして、めちゃくちゃ努力してるじゃん。めっちゃ主人公偉いじゃん。成長の過程には、努力大ありじゃん。


 俺は、なんて大バカ者なのだろうか。人生や未来を楽観視して、また適当に生きているだけじゃないか。本当に、俺ってダメ人間すぎるな。

 もうすぐ、高校二年生になる。一年無駄にしてしまったが、まだ時間は残っている。


 努力するしかない。また悲惨な人生をたどらないように……今度こそは幸せに過ごすために。

 無理は禁物だが、俺の一番の気にしていた弱々なメンタルは、タイムリープで鍛えられた。人生の難しさや闇、大切な事も学んだし、後悔しないように自ら行動を起こした方が良い事も学んだ。


 少しずつでもいいから、着実に頑張っていこう――


 

 


 





 

 

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【不定期更新】せっかく神に助けてもらったのに、このままだと高校生活2周目も変わらないので頑張って努力します 向井 夢士(むかい ゆめと) @takushi710

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