第2話 こうして俺は舞い戻る

 神との会話を終えて目が覚めると、いつもの地獄のオフィス……ではなく、少しシミのついた天井が見えた。見覚えのある、少し小汚い天井だ。

 どうやら俺は、本当に過去に戻ってこれたみたいだ。カレンダーや本棚、スマホなどで部屋の様子を見ると、昔を実感できて何か変な感じがする。紛れもなく、ここは俺の部屋だ。


 スマホで日付を確認すると、今は中学校の卒業式と高校の入学式の間の春休みのようだ。一周目の時は、ここから華の高校生活が始まると思ってたな。非常に懐かしい。

 ただ現実はそう甘くなく、特にこれといった青春イベントもなかった。勉強や運動ができるわけでもないので、数少ない友達とオタクトークなどをして、少し楽しむぐらいだった。

 今になって考えてみれば、高校生活という時間の大切さや貴重さ、勉強がいかに重要であることが分かる。首がもぎ取れるほど頷きたい。


(せっかくだから、近所を歩いてみるか……)


 そう思って自分の部屋を出て、衣類などが収納されている物置き部屋へ向かう。久しぶりの実家の風景に、辛い社会人の時の思い出が重なって少し泣きそうになる。社会人になってからは、忙しくてなかなか帰省できなかったものだ。


 スマホの内カメラで自分の姿を見てみると、そこには間違いなく昔の俺の姿が写っている。あまり変わってはいないけど、どこか若さを感じられて少し明るい? 感じがする。まぁ社会人の時は、顔死んでたからね。それはそれは酷い表情だったね。そりゃ彼女もできませんわ。


「あ、おにぃ。出かけるの?」


 俺が一人の世界に入り込み、昔を懐かしんでいるところで、俺は話し掛けられた。幽霊……なんかではなく、俺の妹の彩羽いろはが、物珍しそうな表情で俺を見ている。

 彩羽も当たり前だが、若い。彩羽とは二歳差なので、戻ってきた過去だと、中学二年生の年に当たると考えると、やっぱり若い。大学生や社会人などで大人になるにつれて、深く感じるよねこーいうの。年を取ってから、やっぱ分かるもんなのかね。

 彩羽も俺と同じように受験に失敗し、俗にいうチャラい量産型女子大学生になっていたが、今はまだ純粋で清楚な姿のままで何か安心する。この方が、可愛くてモテるのにな。


「ちょっと散歩でもしようかなってな」


「おにぃが外に自ら出ようとするなんて……好きな人でもできた?」


「そんな事はねぇよ。ただの気まぐれだ」


「ふーん。まぁ気を付けてね」


 俺ってそんな外に出るの珍しかったの? チンアナゴか何かだと思われてる?

 まぁオタクって、インドアの生き物だから? アニメで健康になっているからオールオッケーなのだよワトソン君。


 そんな脳内漫才を繰り広げつつ、俺は着替えて外に出る。良い天気に、久しぶりの風景と何か昔を感じさせる空気が心地いい。


(ああ、本当に戻ってきたんだな。”過去”に)


 ラノベを読んでいるせいもあってか、脳内は最強主人公気分だ。

 タイムリープとかこういう展開って、絶対幸せになるじゃん? なんか絶対イベント起きるじゃん? すなわち最強じゃん? 

 俺もモブから主人公に大出世だね。やったね! 神は実在したんだ!


 そんなノリノリで散歩をしていると、前から颯爽と走ってくる人影が見えた。

 俺の実家周辺は、いくつも団地があって、ご近所付き合いとやらも順調で、良い所だという印象があった。

 俺が大学生になって家を出たあたりから、子供同士の付き合いが減ったために、どこか活気がなくなったっけ……小学生の頃は、色々な奴とめちゃくちゃ遊んでたのにな。

 

 そんな過去を思い出し、ご近所さんは誰だクイズを開催しようかと思っていたが、その俺の心は綺麗に打ち砕かれた。


「あれ、ヒロじゃん。何してんの」


 顔とスタイルが良く、カジュアルボブの綺麗な短髪に、体操服を着ていて、さらには俺をヒロと呼ぶこの女……俺の幼馴染の、上井うえい 真緒まおだ。

 近所という事もあって、小学生の頃は一緒によく遊んでいた。中学生になってからは、クラスも離れて疎遠になったが、高校でも同じクラスだったりと、なんやかんやの腐れ縁である。


 前の人生では、疎遠になってから話そうと思っても、なかなか話す事ができなかった。素直に気まずいし、スクールカーストも大きく違うので真緒に迷惑をかけてしまうと思ったからだ。

 それに、真緒は何かがきっかけで、ある時から大きく雰囲気が変わってしまったのだ。関りがなかったため、何があったのか詳しく分からなかったが、後悔したという思いもある。


「いや、ちょっと歩いているだけだよ。そういう真緒こそ、何してんだよ?」


「私は、日課のランニング。てかさ、ヒロってどこの高校行くの?」


「東松高校だよ。まぁ、無難な選択かな」


 真緒は運動好きという事もあってか、よくランニングをしていたり、色々なスポーツをしていたっけ。インドアの俺からすると、尊敬の念が尽きない。


 また俺が通っていた……というかこれからまた通う東松高校は、偏差値もそこまで高くなく、学校の雰囲気も良い感じで、かなり人気の高校だ。

 中学時代はまだギリギリ勉強していたと言えるが、高校に入学できたことと、難易度が急に上がって挫折したこと、単に勉強が嫌いだったことなどの様々な要点が重なり、大学受験には大きく失敗してしまったが。

 まだ少し勉強の知識は残っているし、一回は学習したことなので、二回目では多分無双できるでしょ。ついに来たな、俺の時代が!


「え、一緒じゃん! 中学で少し疎遠になっちゃったけど、また高校で一緒になれるといーね。同じクラスになるとか、何かあったらまたよろしくね」


「そうだな。ありがと、真緒」


「感謝されることでもないよ。あっ、また時々連絡してもいい? 連絡先変わってないよね?」


「お、おう。特に変わってないと思うけど……」


「了解! じゃあ、高校でもよろしくね~!」


 一回目の人生で失った真緒との接点も、たまたま今回のやり直しの人生で、取り戻すことができた。

 やっぱ、タイムリープって最高だな!

 





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