第8話 わりに一言一句覚えている件について

 ちょっとした冗談のつもりで、このエッセイを書き始め、わたしは「覚えられない」のではなく、「覚えているゆえに出来ない」のではないかと思いました。

 どんなふうに罵倒されたのか、とか、一言一句覚えていたりします。

 ゆえに、このエッセイもするする書けてしまいます。


 本来このような「言われた嫌な言葉」は忘れていくべきなのです。

 でも、少しも忘れられません。

 むしろいつでも取り出せてしまう。


 こんなことも覚えています。


 あるとき、バースディプレートについての注文を受けました。

「バースディプレートが欲しいそうです」

「それは以前に教えました。やってください」

「……」必死に思い出そうとしました。

「遅い! いい加減、覚えてください! これはこう! もう言いませんよ」


 覚えているのは、二カ月前に一度教えてもらった、という事実です。

 途中からは映像が頭に残っていたのですが、どこからそれが出て来たのかが、分からなかったのです。


 そうか。

 二カ月前にたった一度教えてもらったことも、完璧に出来ないと怒られるんですね。

 みなさん、優秀ですね! 天才か!?


 ちなみに、「どこからそれが出て来たのか」については、気づいたらオーナーさんが持って来たので、分からなくても当たり前な気がします。



「それは以前に教えました」「もう言いませんよ」

 このように言われているので、二度と質問をするのはやめようと思っています。


 でも、こんなことも言われます。

「分からなかったら聞いてください」

 だけど、聞いたら怒るし、それに「『分からないこと』が分からない」という場合は質問出来ませんよね? 無知の無知なのですから。


 うっかり、「『分からないこと』が認知されていないのに、どうやって質問するのですか?」と言いそうになりましたが、留まりました。



 認知されていないことは、質問のしようがないのです。

 そして、「それは以前に教えました」「もう言いませんよ」と言われているので、質問はしないことにしたのです。


 わりに一言一句覚えていますよ。

 ふふふふふ。

 言葉に関する記憶力は高いのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る