円、大好きなひと

へい!

第1話

1(お前視点)

 大好きな人が死んだ。


 お前は冷たい部屋の片隅で為すすべもなく、しくしく泣いている。

「なんでだよゥ。なんでだよゥ」

 嘆いてもどうにもならないのはわかっている。それでも嘆いてしまうから人間というのは実に厄介だ。

 もっとドライになれんもんかね? コンピューターみたいに。

 なれるわけがない。人間はコンピューターほど賢くないし、コンピューターほどバカじゃない。

 迷い苦しみ、ひねって転んで転がって、ぐるぐる回って。

 そういうもんだ元々。だけど、今日は何をする気にもならない。

 お前は大の字になり、ふてねした。今日は仕事ズル休みしてやろう。

「ん」

 何かの音が大きくなる。

 窓の外を見ると一台のヘリコプターがこっちに向かってくる。

「うわっ」

 ずがあああああああああああああん。

「うきゃあああああああああ」

 

【しばらくお待ちください。】

 

「こちら報道局です。緊急ニュースが入りました。愛する人を失って途方に暮れていた尊(たける)氏のアパートにヘリコプターが急に突っ込みました。繰り返し報道します。愛する人を失って」

 

「へへっ久しぶり。たけちゃん」

「げ。円(まどか)」

 ヘリコプターから降りたその少女は紛れもなく、円その人だった。

「いったいぜんたい」

「へへへ。あたし、ヘリの免許とったんだ。びっくりした?」

「びっくりしたというか」

 お前は、部屋を占拠するヘリコプターを眺め、ため息が出た。買ったばかりの五十万円のエレキギターが完全に潰れてる。

 もちろん、大好きなあのコの遺影も粉々だ。

「お前なぁ。無神経なとこは全然変わってないね」

「てへっ不況の世の中、たけちゃんみたいに繊細だと生きてけないよ」

「もうっそれが無神経ちゅうんだよ」

 お前はむかついて、ヘリのボディにパンチした。

「硬ェ!!」

 お前はあまりの痛さに、ぴょんぴょん飛んだ。

 円は、はははと笑った後、お腹すいたなとぬかしやがる。ほれ、完全に無神経。部屋をめちゃくちゃにしておいて、よく言うよ。おー痛え。

「たけちゃんのスパゲッティ食べたいなぁ」

 円が上目使いでウインクする。

 お前はこれに昔から弱かったのだ。

「わかったよ。作るよ」

「やったぁ」

 

【コマーシャル】

 

 お前と円はベッドの上で寝ていた。要するにまぁ何だ。うははははは。気にすんな。

 ヘリコプターはうまいこと部屋から出し、駐車場に停めた。部屋の掃除はまた今度しよう。

 お前は煙草に火をつけた。

「ふィ~。しかし、円のやつ、何で急にオレんとこに来たんだろう」

 お前の隣で、円はぐーぐー寝ている。

「ま、いっかぁ」

 

 それから、すぐにわかった。円は家出したのだ。円のお父さんから電話があった。むちゃくちゃ怒っていた。

「尊くん! 今すぐ円を連れてきなさい!」

「はぁ」

 円の方を見ると、首を横に振っている。

 めんどくせえなぁ。

 円を正座させた。

「なんで家出したのよ」

「だって、お父さん、あたしを勝手に結婚させようとするんだもの」

 あ。そういうことね。よくある話だ。

 だからって、ヘリコプターで突っ込まれたお前の立場はどこにもない。

「しょうがないよ。お前の父さん、大会社の社長だもの」

「好きじゃない人と結婚するなんていや!」

 やれやれ。ガキだなぁ。こいつは。

「もうわかったよ。足くずしてよし」

「てへへへ。足しびれた~」

 無邪気に笑う円。この笑顔に昔から弱いんだよなぁ。怒る気が失せる。

 まぁとはいえ、大人としては、これでよしとはならない。何とか説得して、こいつを結婚させねばならぬ。あれほど、お父さんが怒ってるということはよほど大事な結婚なのだろう。会社の存続に関わるものかもしれぬ。大量の会社員を路頭に迷わすわけにはいかぬ。

 円には悪いが犠牲になってもらう。

「たけちゃーん。腹へったー」

 とはいえ、こいつはけっこう強情だから、無理矢理、家に戻すことは不可能だ。というより、戻したら、こいつ、また、お前んとこにヘリコプターで突っ込むかもしれぬ。それは絶対いや!

「うーむ。難しいなー」

「たけちゃーん。ハンバーグ作ってよー」

 うるさいなぁ。誰のために悩んでると思ってやがるんだ。

 ハンバーグを作りながら考える。

 というより、相手の男はどんなヤツなんだ。

 それにもよる。

 例えば、イケ面で優しくてファッションセンスがよくて。

 とかそういう男性ならまぁよし。

 政略結婚だから金持ちには違いないだろう。

 しかし、顔がドラえもんで、すぐに暴力を振るい、やたらに道路にタンを吐く男だったら……。

 それは円がかわいそうだ。

 お前は男に会いに行くことにした。

 とはいえ、円が教えてくれるわけない。どうしたものか。

 

 ある夜、寝ている時に、隣で円がうーんうーんとうなっていた。

 これは間違いない! 結婚相手が夢に現れたのだ!

 お前はチャンスだと思った。今、円の夢の中に入れば、男に会うことができる。

 お前は気を集中させた。

「円、円、円」

 呪文のように唱える。

「ええい!」

 その瞬間、お前はものすごい勢いで体ごと、きみの頭の中に吸い込まれていった。

「わあああああ。新感覚ううううう」

 ストンと着地した。


「ほう。これが円の夢の中か」

 あたりをきょろきょろ見渡す。ちょうど目の前に、焼きそばの屋台があった。

 お腹がぐゥと鳴った。毎晩、きみがお前の分まで食べちゃうので腹ぺコなのだ。

 お前は屋台に駆け寄った。

「おっちゃん。一個ちょうだい」

「あいよ!できたて今あげるからね。旨いぜえ?」

「やったぁ」

 お前はわくわくしながら、おっちゃんが焼きそばを焼く作業を眺める。いい匂い。すでに目的を見失ってるお前。何しにきたんだっけ?お前。

 まぁいい。焼きそばがこんなにおいしそうなんだもの。きっと大した用事じゃない。

「あいよ兄さん。お待ち」

「わぁ。すげえ」

 お前は目を輝かせる。こんな焼きそば見たことねえ。煙がもくもく。食欲を誘う。うーん。いい匂い。

 まず肉の量が普通の倍だ。

「おっちゃん。これ、何の肉?」

「へへっ気づいちまったか。そりゃ松阪牛さ」

 えええええええええええ。

 マジかよ!

 お前はがたがた足が震えた。

 まさか、ここで松阪牛が登場するとは。

「おっちゃん、ウソついてんじゃないだろうね」

「わしの目を見ろ。ウソをつく男の目か?」

 なんかウソっぽい。

 一口、肉を食ってみた。

「うめえええええ。マジ松阪牛だああああああ」

「ほれ見ろ」

 おっちゃんは腕を組んで、へへーんと得意げである。

「おっちゃん。こんなんして採算とれるのかよ」

「へっへ。今は不況だ。安くて旨いものを。それがうちのモットーだ」

「へえ」

 ばくばく食う。

「といってもね。うち、実は松阪牛を飼ってるから安いのは当たり前なの。見にくる?」

「ほんと?」

 お前はよだれが出てきた。

 焼きそばをあっという間に平らげ、お前はおっちゃんの後についていった。

 屋台から少し離れたところに、小さな牛小屋があった。

「あっ山本さん!」

「おい!吉田、隠せ!」

「あわわわわわ」

 うわぁ。すげえ。牛がしゃべってる。

 牛たちは急いで、おっちゃんの前に整列した。牛臭い。

「ん。お前ら。今、何を隠した」

「いや別に。えへへへ」

「怪しい。この野郎!」

 おっちゃんは、一匹の松阪牛に詰め寄った。

 すると、牛は、緊張して手からするりと、牌(パイ)を落とした。

「またお前らマージャンやってたのか」

「す、すいやせん」

 松阪牛たちはぺこぺことおっちゃんに頭を下げた。

「兄さん。かっこ悪いとこを見せちまったねえ。こいつらわしがいねえと、すぐに仕事をさぼって遊びやがる」

 松阪牛の仕事って何よ????

「おい。お前ら、ランニングに出かけるぞ」

「えええ」

「やだぁ」

「うるさい! さっさとジャージに着替えろ!」

 松阪牛たちはしぶしぶ、わらの下からジャージを取り出して着た。みんな体がでかいからはちきれそうだ。

「何でランニングするの?」

「はっは。いい肉になるにはね。寝てるだけじゃダメだ。肉が硬くなっちまうからね。運動せにゃあ」

 おっちゃんは自転車にまたがった。

「ようし。お前ら。行くぞ」

「ふえええい」

 気のない返事である。松阪牛たちはおっちゃんの後を追った。

 その後をお前はおっちゃんに借りた原付で追いかけた。

「ピッピッ」

「まっつざか」

「ピッピッ」

「ぎゅう。ぎゅう」

 おっちゃんの笛に合わせ、牛たちは掛け声をかけながら走る。尻尾でぺしんぺしんと自分の尻を叩いたりしてる。

 汗が流れ、実に牛臭い。

 いやぁ。しかし、学生時代を思い出すなぁ。あの頃はお前も四番のエースで、マネージャーは円。

 む。

 円???

 何か心に引っかかる。

 円??????

「ピッピッ」

「うまくて」

「ピッピッ」

「やすい」

 お前は原付にまたがりながら、うーむと悩む。円。はて。お前は円に何か用事があったのではないか。だって、こんなに気になるんだもの。何か用事があるに違いない。

 でも、全然思い出せない!

 お前は、腕を組んで、原付の上でうーんとうなっていたら、電柱に激突した。

 

【しばらくお待ちください。】

 

 お前が目を覚ませたら、ちょっと不気味な部屋にいた。壁も床もみな黒色。ドクロやプロレスラーのポスター。ヌンチャクや鉄アレイが床に転がってる。黒い布団の中にお前はいた。窓の外が実にのどかな田園風景でギャップが……。

「うーん。誰かに助けられたのだな」

 黒いドアが開いた。

「あっ円」

 円が、黒いお盆に黒いコーヒーカップを乗せて持っている。

 なぜか、黒い服を着てる。

「誰だ。円ちゅうのは」

 え。きみじゃないの????

「いや。円だろお前。知らんふりすんなよ」

「しつこいやつめ」

 円が、あっつあつのコーヒーをお前の顔にぶっかけた。

「あじいいいいいいいい」

 お前はベッドの上を転がりまわった。

「ぎゃははははは。おもろい。おもろい」

 円が手を叩いて喜んでいる。こいつ、こんなキャラだったっけ???

「なんでこんなことするんだよゥ」

「やかましいわボケ。助けてやったのに生意気な」

 こんなしゃべり方じゃないはずなのに。完全にキャラが変わってる。

「円じゃないつうなら、誰だよお前」

「それはこっちのセリフじゃい。お前こそ誰じゃい」

「オレは尊だよ」

「オレは、マド夫だ」

 はぁ。なんじゃそれ。疲れる。

「わかったわかった。マド夫でいいよ」

 円じゃなかったマド夫はバカにされたと思って、黒い竹刀でお前をぶった。

「いてええええええええ」

「生意気なことをぬかすなガキめ」

 また黒いドアが開いた。

 お前は腰を抜かせた。

 お前が目の前にいる。

「え。オレ?ええええええええ」

「マド夫くん。だぁれ。この人」

「尊というらしいぜ」

目の前にいたお前そっくりの男は、服がピンク色でピンクのスカート。髪にはピンクのリボンまでしてる。気色悪い。

「あのそのあの」

 何と言ったらいいかわからん。

「き、君。誰???」

「あたし?あたし、たけみ」

 うう。名前までおねえだし、お前と被ってる。

「あの。マド夫さん(叩かれるのが怖いのですでにさん付けしてるのが情けない)」

「なんじゃ」

「このお方とはどういう関係で?」

「ああ。たけみか。こいつはオレの彼氏や」

 お似合いのカップルだよ!!!

 でも、お前にそっくりなのですげえ複雑な気分。

 またまた黒いドアが開いた。出入りの多い部屋だな。

「あっ」

「親父っ」

 あ。円のお父さんやん。

「円っ」

「な、なんだよオレはマド夫だぜ」

「ふざけんな! 円!」

 なんだ。やっぱり円やん。

「行くぞ! 来い!」

 円のお父さんが円マド夫どっちや。まぁそいつの腕をつかみ連れていこうとする。

「いやだ!絶対いやだ!」

「どういうこと?」

 お前はお前にそっくりなたけみに尋ねた。

「マド夫くん、結婚させられるかもしれないの」

「ふうん」

 たけみは円と結婚してるわけちゃうねや。

「どんな相手なの」

「それが……」

 たけみはお前に耳打ちした。

「ええっ。ダークラビット???」

「そうなのよ」

「誰それ」

 たけみはズコーーーーーーッとこけた。

「し、知らないのに驚いたの???」

「てへへ。申し訳ない。話の流れがそんな感じだったので。ダークラビットの説明してよ」

 そんなこと言ってるうちに、円マド夫どっちや。もういい。まどは、お父さんに耳を引っ張られて、外に出て駐車場に停めてあったヘリコプターに乗り込もうとしていた。

「やばいぞ。たけみ。飛んでいっちゃう」

「困ったわね。飛びついて」

「お、おう」

 お前とたけみは、すでに飛びかかっているヘリコプターの足に捕まった。

 そのまま、ヘリコプターは上昇。

「うわああ。怖えええ」

「落ちたら絶対死ぬわよう」

 眼下に広がる家々はすでに米粒である。強い風。体がちぎれそう。

 その時、たけみの手がヘリの足から離れた。

「た、たけみいいいいいい」

「いやあああああああああ」

 しばらくして、民家の屋根を突き破る音が静かに聞こえる。おそらく、この高さなら即死であろう。

 お前は複雑でならない。なにしろ、たけみはおねえみたいなとこはあるが顔がお前にそっくりなのだ。お前が死んだような気にもなった。

 というより、お前ももう限界だ。腕がちぎれる。手を離せばラクになる。しかし、それは死を意味する。

 お前は歯をくいしばり、冷や汗を流し、ヘリが下降するのをじっと待った。しかし、一向に下降する気配がない。

「もう駄目だ。限界だ。もう無理なんだ」

 とその時である。

 上の方で声がした。

 ??????

「待ってくださいよ!」

「もう待てない!印刷所の人だって徹夜で待ってんねん!」

 おお。この声は。作者と編集者。

 あっとお前は思った。これは原稿の中だ。となれば、原稿の外に作者がいるのは当たり前の話ではないか。

 お前は大声でわめいた。

「助けてええええええええええええ」

「? 何だ。大崎さん。何か聞こえましたか」

「おい。原稿用紙から声がするぞ。行ってみよう」

 お前はしつこく叫び続けた。

「ここだあああ。ここだよおおおお。助けてえええええええ」

 作者と編集者が原稿の中を覗いて驚いてる。

「おい。主人公、大ピンチやないか」

「これはまずい。主人公がヘリから落ちてしまえば話が終わってしまう。何とかしないと」

「うぬうう。油断してた。口論してるすきにキャラが勝手に動き始めたのだ」

 青い空を突き破り、大きな腕が四本飛び出す。 

「おい。捕まれ。早く」

「落ちるぞ」

 お前は一生懸命、大きな腕に腕を伸ばした。

 その瞬間、あっけなく、本当にあっけなく、するりと落下。

「うわあああああああああああああ」

 

 屋根を突き破る。

 湯船に着水。

 背中を洗いながら、びっくりしてるじいさん。指さしてる素っ裸のちびっこ。

 つまり、ここは銭湯!

「つめてぇ!」

 お前は水風呂から飛び出す。

 あーあ。服びしょびしょや。へーっくしょん。

 男の子がちっこいちんちんを揺らせながら、お前に言った。

「尊さんだぁ。ホンモノの尊さんだぁ」

 え。お前のこと知ってるのか。

「オレのこと知ってるの?」

「ぼく、『円、大好きなひと』読みましたよ。最後、円ちゃん、ダークラビットと結婚してしまってかわいそうでしたね」

 な、なにいいいいいいいいい。

 ま、ま、まさか、お前がもたもたしてるすきに小説が終わってしまったというのか。

 こいつはまずい。

「坊や。ダークラビットと円はどこにいるんだい?」

「え。尊さん知らないの。あ。そうか。尊さん、ダークラビットに殺されたものね」

 なにいいいいいいいい。そういう展開いいいいいい????

「あれ。でも、今いる尊さんは一体。あ。そうか。小説の話だから本当に死んだわけじゃないのかな。確かに映画で登場人物が死んでも俳優が実際に死ぬわけじゃないものな」

「そんなことはどうでもいい!坊主!質問に答えろ!」

「う、うん。魔法の城に二人で住んでるよ」

「へーっくしょん」

「尊さん。着替えていった方がいいよ」

「お、おう」


2(神の視座)

 その頃、円は、魔法の城の最上階にあるベッドルーム。ピンクいベッドの上で、ダークラビットに迫られていた。

「ぐっふっふ。いいだろ。いいだろ」

「いや! 近寄らないで! 変態!」

 ダークラビットは、気の強いおなごじゃなぁそんなこともまたええなぁと思い、ニヤニヤしていた。

 円は家に帰りたくて帰りたくてたまらない。大好きなお笑い番組がやる時間だ。

「ぐっふっふ。太もも。太もも」

 円はムカついてきて、ポケットにしまっておいた痴漢撃退用のビリビリするやつを取り出し、ダークラビットに当てた。

 びりびりびりびり。

「むぎゃ。むぎゃ。むぎゃああああああああああ」

 ダークラビットは衝撃のあまり、ベッドの下へ転げ落ち、失神した。


3(ダクラビ視点)

「うーん。どこだここは。あ。そうか。円ちゃんにビリビリやられて、それで」

 見渡すと、野原の真ん中。そこには若い男がいる。

 男が叫んだ。

「円を返せ!」

 え。こいつ、円ちゃんと関係あるヤツか?

「そんなこと言ったって、わし、何が何やら」


4(お前視点)

「しらばっくれる気か。こいつ」

 お前は叫んだ。いつの間にか、どういう経緯かようわからんが目の前にダークラビットがいる。なぜか、野原の真ん中。いや、まだ名前を聞いとらんのでわからんけど、見た目がうさぎなので間違いない。

 それにしても、メタボリックなうさぎだなぁ。長い耳以外、ブタだぞ。

 お前はポケットにしまっておいたビリビリするヤツを取り出した。

 お。ダークラビットのやつ、ビビってる。ふん。大したことねえな。くそブタめ。

 お前はダークラビットにビリビリするヤツを向けた。

 びりびりびりびり。

「うぎゃああああああああああ」

 ダークラビットは倒れた。

 

5(ダクラビ視点)

「うーん。頭くらくらする」

 なんだかあたりが暗い。夜なのか。

 前を見る。よーっく目を凝らして見ると、さっきの男。

「またか!」


6(お前視点)

「何やこいつ。不死身か」

 お前はもうたじたじだ。また、シチュエーションが変わってる。もう野原じゃない。でも暗くてどこかようわからへん。しかも、ビリビリが全然効いてない。くそう。どうしたらええんや。

 そうこうしてるうちに、ダークラビットがお前に向かってものすごいスピードで直進し、体当たり。

 お前は崖から落ちた。ええっ。そんなとこで戦ってたのか。

「うわあああああああああ」

 海に着水するかと思ったら、トランポリンに着地。

 跳ね上がった。

「うわああああああああああ」

 また、目の前にダークラビット。

 また、落下。「うわああああああ」

 崖の上とトランポリンを行ったり来たり。


7(神の視座)

ダークラビットが退屈になってきてスマホをいじり始めた。

「ぐふふふ。円ちゃん。かわいいなぁ」

 大崎さんが腕時計を見ながら大声で叫ぶ。

「結末まであと少しですよ!」

 ダークラビットは、スマホを見ながらため息をつく。「円ちゃんのバニー姿、萌える」



 お前は、上へ行ったり下へ行ったりの繰り返し。

「き、き、気持ちわるううううううううい」

 

 

 神も仏もないのか!!

 とその時。

 ずがああああああああああああん。

 暗闇を突き破って、ヘリコプターが突っ込んだ。ま、まさか……。

「円!」



「うわああああああああ」

「あーれー」

 大崎さんとダークラビットは抱き合いながら、崖から落ちた。



8(お前視点)

「ほれ。たけちゃん」

 円が手を伸ばす。トランポリンから飛び上がったお前は手を伸ばし、円の手をしっかり握った。

 そして、ヘリの中に持ち上げられた。

「え。円。どこから来たの」

「そんなことどうでもいいでしょ。ほれ。たけちゃん。あたしにしっかり捕まって」

「う、うん。あ。おっぱい触っちゃった」

「いやん!」


 円はヘリを加速させた。

「わああああ。どこ行くのおおおおお」

「あ。光が見えてきた」

 ずがああああああああああん。

 

 PC(あるいはスマホ)の画面を突き破る音。



おしまい




Take2

「うるさい!だまれ!」

 と、尊は悪魔に怒鳴った。悪魔は、尊に言う。

「お前なんて立派な柔道家になれんよ」

「うるさいうるさいうるさいうるさい」

 悪魔はかちんときて、コーヒーを尊にかけた。

「ううう。むかつく」

「ざまーみろ」

 尊は泣きたい。男の子だから泣かんが。女の子とは違う。女の子はすぐ泣くよ。

 悪魔は調子こいて、マヨネーズも尊にかけた。これはやり過ぎ。尊はかちんときて、悪魔を投げ飛ばした。

「うわああん。うわああん。柔道家はむやみに投げないよ。うわああん。うわああん」

「しまった!」

 尊は反省した。悪魔にキャンディをあげた。

「ひっくひっく。もっとちょうだい」

「生意気な!」

 尊は、また悪魔を投げ飛ばした。悪魔は壁に激突。死んだ。

「へへっ!やったねー!」

 悪魔に悩まされてた尊はルンルンで寝た。


 翌朝、尊は寂しかった。

「うううう」悪魔が現れない。悪魔は実は尊の友達。寂しいに決まってる。

「悪魔ーっ」

「呼んだ?」

 尊はびっくり。

「死んだんじゃ?」

「死んでも関係ないよ。悪魔だもん」

 尊は嬉しくなってきた。当たり前だろーよ。

 尊は、悪魔と、可南子の家に行った。

 干してあった下着を盗んだ。悪魔と一緒だと調子こいて悪事を働く尊。サイテーだな。

 可南子のおばあちゃんが出て来て、「あたいの下着返せ」と怒鳴った。

 尊はびっくり。すでに頭からパンティをかぶっていた、ド変態尊。おばあちゃんのパンティと知って興ざめだ。

「ごめんなさい」

「ゆるさん」

 おばあちゃんは、竹刀で尊の頭を叩いた。

「痛い。やめて」

「死ね!死ね!死ね!」悪魔がゲラゲラ笑ってる。

「悪魔!ひどいよー!」

「なに独り言ゆうとる」

 おばあちゃんに悪魔は見えないようだ。悪魔はそれをいいことに、おばあちゃんに膝かっくんした。

「あひゃっ」

 おばあちゃんがひるんだすきに、尊と逃げた。

 公園で一休み。

「悪魔。肉まん食おうぜ」

「いいね。尊ちゃん」

 ふたりはハイタッチ。

「いぇー!」

「いぇー!」

 楽しそうな尊。

 肉まんをコンビニで買う。

 コンビニの前で食べながら、話す。

「尊ちゃん。自爆テロとかしないの?」

「しないよ」

「楽しいよ」

「でも、生きたいもん」

「情けないねえ」

「ふん」

 ふたりはまた、にらみあった。

「尊ちゃんのばか!」

「悪魔のばか!」

 悪魔は、尊を射殺した。

「やったな」

 怒って、尊は悪魔を射殺した。悪魔は痛くて痛くてわんわん泣いた。何やってんだか。ふたりとも、射殺されたなら、きちっと死になさいよ。

「ごめんね」

「あんまん買って」

「いいよ」

 おいしそうに、あんまんを食べる悪魔。

 お金がなくなって、悲しい尊。

「お金ほしいなあ」

「銀行強盗しよう」

「いいね」

 尊はコンビニで拳銃を買った。

 銀行強盗するつもりだったが、急に死にたくなってきた。先週、可南子にふられたのを思い出したのだ。

「肛門拳銃自殺しよっと」

「なんで?」

「おもしろいじゃん」

 尊は、ここでは恥ずかしいからと、部屋に戻り、お尻に拳銃を突っ込んだ。

 悪魔があわてる。

「冗談だろ?尊ちゃん」

 尊の目はまじだ。これがギャグ小説だってこと、すっかり忘れてる。

「や、やめろよ。お金あげるから」

「わかった」

 悪魔はカチンときた。

「結局、カネか」

「柔道家はカネだよ」

「うそこけ」

 悪魔は、尊の根性を何とかしたかった。尊の腐った考えを叩きのめしたかった。


 しかし、尊は大の字になり、ふてねした。今日はもう寝てしまおうと。柔道の稽古はさぼろうと。悪魔は、いまいましいやつだ、という顔をしている。

「ん」

 何かの音が大きくなる。

 窓の外を見ると一台のヘリコプターが悪魔と尊の方に向かってくる。

「うわっ」「ひっ」

 ずがああああああああああああああん。

「「うきゃあああああああああ」」

 

【しばらくお待ちください。】

 

 「へへっ久しぶり。たけちゃん」

「げ。円」

 ヘリコプターから降りたその少女は紛れもなく、きみその人だった。

「いったいぜんたい」

「へへへ。あたし、ヘリの免許とったんだ。びっくりした?」

「びっくりしたというか」

 尊と悪魔は、部屋を占拠するヘリコプターを眺め、ため息が出た。いろんなもんが粉砕してる。

「お前なぁ。無神経なとこは全然変わってないね」

「てへっ不況の世の中、たけちゃんみたいに繊細だと生きてけないよ」

「もうっそれが無神経ちゅうんだよ」

 尊はむかついて、ヘリのボディにパンチした。

「硬ェ!!」

 尊はあまりの痛さに、ぴょんぴょん飛んだ。

 きみは、はははと笑った後、お腹すいたなとぬかしやがる。ほれ、完全に無神経。部屋をめちゃくちゃにしておいて、よく言うよ。おー痛え。と、尊は情けなく思う。

「たけちゃんのスパゲッティ食べたいなぁ」

 きみが上目使いでウインクする。

 尊はこれに昔から弱かったのだ。

「わかったよ。作るよ」

「やったぁ」

 悪魔が尋ねた。

「おい。尊ちゃん。このコだれ?」

「円だよ」

 きみが、この変なコだれと尋ねる。悪魔さ、と尊は答える。

「えっ。すごっ。カッコいい」

 悪魔は少しビックリした。普通は悪魔の姿を見ることはできない。ってことは、きみは普通じゃないってことか。ヘリコプターで部屋に突っ込むくらいだからな。

「悪魔くんはスパ好きー?」

「好きだよー」

「円も!」

 尊は、んもうと思いつつ、腕が鳴った。料理は大好きなのだ。





おしまい



Take3

 ダークラビットが、







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