SNS彼女

@misaki21

第1話 SNS彼女

 彼女と出会ったのは、当時流行っていたMMORPGの中でだった。

 まだ初心者だという彼女にあれこれ教えているうちに打ち解けて、ゲーム外での話もするようになった。

 会社の愚痴もあれば日常の他愛ない雑談もあったが、この時間が私には癒しになっていた。

 強いモンスターと協力して戦い、といっても彼女は微力なのだが、勝利を喜びあったことも幾度となくある。

 そのゲームにはマイルームという自分専用の部屋があって、私は彼女をそこに誘っては、何をするでもなく二人きりで過ごした。この至福の時間は今でも忘れられない。

 1年くらいそんな関係が続いたある日、私は「会いたい」と言ってみたが、住まいが遠いから、と遠まわしに拒絶された。

 それから更に1年ほど経過し、ゲームがバージョンアップしたのを機に、彼女の仲間は皆散り散りとなった。

 私もログインしなくなり、しかしSNSでの連絡先を聞いていたので会話は続いた。

 しつこくない範囲で「会ってみたい」と告げるが、彼女の返事はいつも曖昧だった。

 SNSではその秘匿性からかなり際どい会話もしていたが、彼女は嫌なそぶりを見せることなく、私の会話に応えてくれた。

 こちらは関東、彼女は九州なので物理的に会うのは難しい。

 それでも、と何度も「会いたい」と繰り返していた。そして気付く。私は彼女に恋をしているのだと。

 彼女はいつも会話をはぐらかすので本心は解らないが、ゲームからSNSに移っても相手をしてくれるのだから、少なくとも悪い感情は抱いていないだろう、と。

 数日後、いつものようにSNSで連絡を入れるが、返信がない。

 いつもなら数秒で返ってくるのに、どうしたのだろう。しかしまあたまにはこういう日もあるか、と気に留めなかった。

 それが2か月に及ぶまでは。

 SNS以外での連絡手段を知らないので様子は解らない。ひょっとしてPCに向かえないような病気や怪我なのでは、とやきもきするが、だからといってできることはない。ただ待つだけだ。

 何事もなければ良いのだが……。


「遺品を整理してたら、お兄ちゃんのPCにSNSのログが一杯あったんだけど、これ、どうする?」

「どうするもなにも、本人がいないんだから処分するしかないわね」


――おわり

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