サンタクロースvsなまはげ 来訪神頂上決戦

金澤流都

来訪神最強決定トーナメント決勝

「来訪神最強決定トーナメントもいよいよ決勝戦、そして去年と同じカードになりました! 『北欧の赤い老爺』ことサンタクロース、『男鹿のアイデンティティ』ことなまはげの二柱が決勝に駒を進めました。実況はわたくし花野、解説は地の文さんです。解説の地の文さん、この勝負になにを期待しますか?」


 いやわたしを解説にされても困るのだが。そもそもなにで勝負するのだろうか。まあ楽しそうなので解説していこうと思う。

 サンタクロースはいまでは日本に知らないものはないだろう。一方でなまはげも、大晦日のえねっちけーニュースで必ずと言っていいほど「大晦日の各地の様子」として取り上げられるので、ネームバリューはサンタクロースと変わらないはずだ。この期待値の高い双方がどんな戦いを繰り広げるか、大変期待している。


「選手が入場してきました! サンタクロースが空からトナカイのそりで飛んできます!」


 グーグルでもサンタクロースはちょうどこの「架空バトルスタジアム」の上空を飛んでいることになっているようである。なまはげも、スタジアムの中にしつらえられた山から、のしのしと赤面・青面ともに降りてきた。


「なまはげというのは未婚男性しかなれないそうですが、ずいぶんじじくさい動きをしますね」


 男鹿半島のある秋田県は日本一高齢化の進んだ土地で、若い男性というのがそもそも少ない。だからいい歳をしたおじいさんがあの面をつけているのである。


「そうなんですか……今回の試合内容は『どちらが教育にいいか』です。2連続かつ相手の札を挟まずにマルの札を取ったほうの勝ちです!レフェリーを紹介します、教育ママのみなさんです!」


 いやそんな昭和に滅びた人たちがレフェリーを? 地の文はギリギリ平成生まれよ?

 教育ママのみなさんはどうぶつの森のピティエみたいな顔をしている。いまどきこんなステレオタイプな教育ママおらんでしょうよ……。


「おーっと、早速サンタクロースに子供たちが群がっている! サンタクロース、次々とニンテンドースイッチを配っている! あっ、教育ママの一部がバツの札を上げました! ゲーム脳になると判断したようです!」


 ゲーム脳というのは平成が生んだウソ科学だと思うのだが。スイッチくらい与えてやればいいのだ。そんで「棋士・藤井聡太の将棋トレーニング」をやらせればいいのである。もしかしたらプロ棋士になって竜王戦のファイトマネーを稼いでくるかもしれないではないか。


「なまはげが反転攻勢に出ました! さきほどサンタクロースからスイッチを受け取った子供に『わりぃ子はいねがぁ』と声をかけて泣かせようとしている! しかし令和の東京キッズ、中に人が入っているのを知っているからか怖がらない!」


 そりゃあそうでしょうなあ……。男鹿半島の子供たちは幼いころから「なまはげは怖い」と刷り込まれて育つそうだが、このスタジアムに集められたのは世の中にスレてしまった東京キッズなんだろうし……。


「教育ママがなまはげにマルの札を上げました! あっ、サンタクロースが配るものを変えた! いろはかるたと偉い人の伝記の本だ!」


 いやそれのび太くんのクリスマスプレゼント!!!!

 でも確かに書籍やみんなで遊べる非電源ゲームというのはいいチョイスなのかもしれない。わたしも伝記ではないが、子供のころクリスマスに児童書を買ってもらって喜んだ記憶があるし、お正月にかるた遊びをして楽しんだこともある。


「教育ママがサンタクロースにもマルの札を上げた! のび太くんのクリスマスプレゼント作戦が功を奏したようです! なまはげが劣勢に変わりました!」


 配るものを変えるという手段をとれるサンタクロースに対し、なまはげができるのは脅すことだけである。これではなまはげが劣勢になることもやむなしか。そう思った瞬間、なにかが起きた。


「く、クランプスです! クランプスが乱入してきました! 子供を地獄に運ぶかごも背負っています! 一回戦で敗退したクランプスの乱入に、サンタクロースもナマハゲも呆気に取られています!」


 クランプスは子供たちを追い回している。令和東京キッズもマジもんのクランプスには怯えて逃げ回るしかできない。しかしそのとき、なまはげが赤面も青面も、包丁を掴んで体を大の字にし、クランプスを止めようとしたのだ!


「あーっと! クランプスとなまはげが戦っています! クランプスはなまはげと同じく悪い子を懲らしめると言われていますが、まさかのキャラかぶりです! なまはげ、クランプスから子供たちを守ろうとしている! ああっ、教育ママたちがナマハゲにマルの札を上げた!」


 そりゃあ秋田県は少子高齢化で子供は宝だからしかたがなかろう。子供が宝すぎて修学旅行の日程をテレビコマーシャルで流すくらいの土地なのである、なまはげが子供を守らないでなにを守るというのか。


「状態は拮抗しています! おっと、サンタクロースがクランプスに声をかけた! そうです、クランプスはサンタクロースの手下なのでした! クランプス、すごすごと帰っていきます! ここで試合終了のホイッスル! 引き分けです!」


 結局なまはげとサンタクロースの戦いは決着しなかった。きっと来年も、子供たちのもとにサンタクロースとなまはげが来るのだろう。


「おや? サンタクロースの袋がなにやら輝いていますね……?」


 ……まさか。


「サンタクロースの袋が膨張しています! もしやこれは爆発オチか!?」


 ドカアアアアアアアアン!!!!


 メリー・クリスマス! そして、みなさま良いお年をお迎えください!

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サンタクロースvsなまはげ 来訪神頂上決戦 金澤流都 @kanezya

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