評価されたクラフター

セスからの虹竜の素材による装備作成依頼を終えてからおよそ1年が経過した。

その間にクレイ達の工房も様々なことが起こっていた。

一番の影響はセスが旅立ってから三か月後。冒険者ギルド間である情報が流れた。

とある冒険者率いる大規模パーティーが山岳地帯に出現した中級の龍種を討伐したとの情報だ。

中級の龍種という強力な魔物に対し、かなりの被害を覚悟していたのだが、そんな中一人の冒険者が八面六臂の活躍をした。

その冒険者は輝く鎧を着こなし、様々な属性が迸る剣を振るい、最前線で龍と戦っていた。

ブレスを切り裂き、爪を受け止め、尻尾によって薙ぎ払われても即座に立ち上がってまた向かう。そんな冒険者のおかげでけが人は多く出たが、死者を出さずに龍の討伐に成功した。

そんな冒険者が使っている武器防具はどこで手に入れたのかと問われるとその冒険者はこう答えた。


「俺の故郷で少し前にできた工房で作ってもらったんだ。そこは俺の弟分が経営している工房でな、まだ少数だが鍛冶師と裁縫師、革細工師がそれぞれ一人ずつとクラフターが二人の5人で経営しているんだ。そこに素材を持って行って作ってもらったんだよ」


そういった冒険者に対して首をかしげる者達も多かった。

それは鍛冶師などはまだしも、なぜクラフターが工房を経営しているのかがわからなかったからだ。しかし、そこの工房のクラフターはかなりの付与の腕をしており、今までのクラフターのように軽微な付与を短時間使えるというものではなく、ほぼ永続的に有能な能力を付与することができるとのこと。

そして持ち込む素材によってはその素材が持つ特殊な能力を引き出してくれるとのこと。


「ああ、それとその工房は辺境伯であるケルビ・ウォン・スタービル様の持つ武器も作ったらしく、その武器を辺境伯も気に入っているらしい」


と言っていた。その言葉からその工房の実力は確かな物であると判断されると共に、下手なことをすれば辺境伯が敵にする可能性があると貴族たちも判断した。

それゆえに工房のほうではお客や武具や服の作成の依頼や付与の依頼をする人が増えたが、無茶な要求をしてくる人はそこまで増えなかった。中には素材を持ってきてその素材を作って装備を作ってほしいという人も増えてきた。

そして増えた物はお客だけでなく…。


「レン親方!こんな感じでどうでしょう?」

「んー…まだ少しムラがあるな。でも、だいぶ良くなってきている。あとはそのムラがわかるようになろうな」

「わかりました!」

「アルマ師匠。すいませんこの革なんですけど…」

「ああ、これね。これは少し他の革と違って硬いのよ。だから少し湿らせながらやっていくと…」

「あ、本当だ。ありがとうございます」

「シェリー師匠。シャツと上着こんな感じの色合いでどうでしょう?」

「ん~…いいと思うよ。ただ、上着に関しては少しシンプルすぎるね。ちょっと色付けてある糸を使って少しアクセントを加えてみてもいいかも」

「わかりました!」


セスの活躍の影響からか、レン達にも弟子入りを志願する子達が現れた。そしてそれは当然クレイにもいて…。


「トリス先輩。付与ってこんな感じでいいんですかね?」

「どれどれ…?…そうですね。これで大丈夫です」

「よかった…。でも、これだと一つしか付与できませんよね?」

「ええ。でも今はそれでいいんです。付与に慣れることがまず肝心なので」

「わかりました」


新しくクレイの元に弟子入りした子達の面倒を先輩でもあるトリスが見ている。


「調子はどう?」

「あ、師匠。こちらは問題ないです。そちらはどうですか?」

「一応一通りまとめたけど、これで納得してくれるかどうか…」


そう言ってため息を吐いた。

クラフターであるクレイは今までまともな付与もできないと言われていたクラフターの常識を覆させた。

その結果、王都の生産ギルドほうからクラフターの教育のために呼び出しがされたのだが、まだ自分が若く、経験が浅いということからその呼び出しを断った。

その代わり判明した付与の手法を書き起こして生産ギルドのほうへと送ることになった。

しかし、その手法というのを文字にするのがなかなか難しい。

実際にその場で教えるとなると魔力の動かし方などを感知して教えることができるが、文字にするには万人に理解できるように書かなければならない。それがなかなかうまくいかなかった。


「まあ、不足な部分はまた向こうから連絡が来ると思うし、いざとなったら何人か人員をこっちに送ってもらえればその人たちに教えるからね」


クレイもトリスに教えることができたのでクラフターであれば教えることはできる。しかし、やはりまだいろいろと学んで挑戦しているところ更なる発展を望めそうなのがクラフターの現状だ。それをしている以上あまり教えることに時間を割きたくはない。


「あ、お兄ちゃーん。素材持ってきたから装備作ってほしいって人が来たんだけど」

「うん、わかったすぐに行くよ」


人が増えてやることが増えてきたので妹であるケティも本格的に工房の受付として手伝ってくれている。たまに母親もこちらで接客をしていることもあって、それなりに繁盛している。


「お、クレイ、また新しい素材か?」

「どうだろうね。素材持ち込みも最近増えてきたし、今度はどんな素材なのやら」

「今度の依頼はなんだろうねー。この間は革で作られたバックだっけ」

「そうね。貴族の人が見た目とか気にしててそこそこ神経使ったわ」


ケティの声が聞こえたのか、レン達がこちらへときた。


「んじゃ行こうか。今度はどんな物が来るんだろうね」


クレイの言葉にレン達もどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。


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というわけで今回で最終回となります!


本当はもう少し書きたいことも有ったのですが、どうあがいても同じ展開(素材を受け取り、それに付与して装備を作る)になってしまうので少々中途半端ですがここまでとさせていただきます。

クラフトメインの職業であったとしても、最初から大抵の物が作れるか、戦闘などもこなすというように徐々に成果を上げて職業自体が評価されていくという物語を書きたかったのですが、あまりにも自分の文才と知識が不足していると痛感しました…。


幸いなことに同じく更新しているS級探索者のほうがたくさんの方に読まれ始めており、ありがたい限りです。クラフターに関してはここまでですが、また何かしら新しい物語を書いていきたいと思っておりますので、もしまたどこかで見かけたらよろしくお願いいたします。


それではゆっくり更新ながらもここまでお付き合いいただきありがとうございました。また別作品でお会いしましょう。




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不遇職と言われたクラフターを優遇職に! 黒井隼人 @batukuro

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