魔剣の紹介


作られた虹竜の魔剣のテストのために裏庭へと来ていた。


「さて、とりあえず魔剣の特徴だけど…そこらへんはレンが説明したほうがいいかな?」

「そうだな。と言っても付与に関してはクレイに任せるが…剣の状態に関しては俺が説明したほうがいいだろう」


そう言ってレンは鞘に納められている剣を抜いた。

両刃で作られた剣。両手剣と片手剣の中間ほどの長さのその剣は刃がキラキラと様々な色で輝いている。


「ほう…なかなかよさそうな剣だな」

「そりゃ自信作だからな!虹竜の骨を軸にしてそこに鱗や堅殻などの硬さをメインにしてクレイが作り出したインゴットを打ち付け鍛え上げた。それがこの魔剣だ」

「ふむ。重さは?」


そう問いかけつつレンから剣を受け取る。


「…悪くない。見た目に反しては軽いが、それでも軽すぎるってことはない。振った際に手首に負担がかからず、それでも攻撃にきちんと勢いが乗る。絶妙な重さだ。にしても刀身の長さが中途半端だな。両手剣用のロングソードよりかは短いが、片手剣用のショートソードより長い。なんでこの長さに?」

「俺もそこは悩んだんだが、ロングソードほどの長さにすると振った際の動きが大ぶりになるだろ?そうなると攻撃をした後の隙が大きくなりそうでな。俺達の鎧で防御力はかなり高くなっている。とはいえ攻撃は受けないに越したことはない。かといってそれを気にしてショートソードと同じようにすると重さが軽くなりすぎて攻撃に勢いが乗りにくくなる。それら二つを考慮したところ、両手でも片手でも扱える長さと重さ。その二つを両立するにはこれくらいがちょうどいいと判断したんだ」

「なるほど…な!」


説明を聞き終えると共に右手で剣を振るう。ヒュンッという音と共に刃が振り下ろされる。

そのまま手首を返して振り上げる。その後も何度か右手で振るった後に少ない動作で左手へと持ち替えて再度数回振るう。その後両手で持って剣を振るうとブンッ!と片手の時よりも重い音が聞こえてくる。


「ふむ。確かに片手でも両手でも問題なく振れるな」

「それならよかった。作る物話している時に盾の話が出てこなかったから剣だけで戦えるように考えていたんだ」


よくある両手剣のような物を作れば動きが鈍くなる。剣を盾のように扱うこともできるが、そうなると剣の長さも横幅も長く広く取らないといけない。そうなるとなおのこと動きにくくなるだろう。だから回避もできるように立ち回れるサイズを目指した。


「それで、これにも付与がされているんだろ?」

「うん。その剣には5つの属性が付与されているよ」


そう言いつつセスからクレイは剣を受け取る。


「火属性」


そう言って剣に火を纏わせる。


「水属性」


火が消え、今度は水が渦巻く。


「風属性」


水が霧散し、風が渦を作り出す。


「氷属性」


渦巻いていた風が周囲へと放たれ、キラキラと剣の周りに氷の粒ができていく。


「雷属性」


氷の粒が溶け、刃にバチバチと雷が迸る。


「と、まあこんな感じですね」

「ほうー」


軽く属性の発動をしてからセスへと渡す。


「魔力を流せば発動するのか?」

「ええ。属性をイメージして魔力を流せばその属性が発動します」


そう言われ、セスは集中して魔剣へと魔力を流す。

先ほどクレイがやったように火、水、風、氷、雷と発動していく。


「なるほどなぁ。戦闘中にやるのはなかなかに難しそうだ」

「まあ、そこらへんは慣れかな。というか、それくらいできないと虹竜の素材で作る必要はないでしょ」

「確かになぁ」

「ちなみに複数の属性も発動させることもできます。僕ではまだ二つが限界ですが…場合によっては三属性以上もできるかもしれません。まあ、属性同士の相性もあるので何ともですが」

「ほう…」


興味深そうに息を吐き、セスは再度魔剣に魔力を流す。

すると剣に火が纏われ、そこに風が渦巻き火の竜巻が作られる。


「ふん!」


振り返りざま剣を振るい、火の斬撃が風と共に飛び裏庭の端にある木人形に直撃すると火柱を上げて木人形を炭と化した。


「なかなかいい威力だな。だが、やっぱさっきより集中しないといけないか」

「そこらへんは慣れかもね」

「だな。それじゃあ装備の説明は以上か?」

「うん。どう?気に入った?」

「ああ、十分だ。予想以上だな」


剣を納め、満面の笑みを向けてくるセスにクレイ達の表情にも笑みが浮かぶ。


「しばらく見ないうちに、ずいぶんと成長したんだな、お前たちも」

「当然。セス兄が村を出てからずいぶんと経ってるからな」

「選定の儀式でちゃんと職業を得たしね」

「それに私たちは一人じゃないし」

「そうそう。新しくトリスさんも来てくれたからね!」

「あはは…私としてはまだまだ未熟者ですけどね」

「そんなことないよ。トリスが来てくれたおかげで僕もいろいろと気づけたことも多いからね」

「師匠…ありがとうございます!」


クレイの言葉にトリスは笑みを浮かべていた。


「うんうん。これなら大丈夫そうだな」

「大丈夫そうって…何が?」

「実はな。今俺は一つ依頼を受けていてな」

「依頼?何かの討伐とか?」

「ああ。ここからは結構離れているんだが、国の端のほうにある山にちょっと厄介な魔物が住み着いたらしくてな」

「厄介な魔物?」

「詳しいことはまだ調査段階なんだが、どうも中級の龍種じゃないかって言われているんだ」

「それってまずいの?」

「何とも言えん。実際住んでる場所が国の端の山岳地帯だから影響がないともいえるんだが、いかんせん中級の龍種だ。その影響力はかなりでかい。もしそいつが血気盛んな奴で暴れ始めたらそこらへんの生態系はもとより、周囲の領地にまで影響を与えかねない。だから必要であれば討伐も検討しないといけないんだ」

「その討伐依頼をセス兄が受けているの?」

「俺だけじゃないがな。まあ、そんなわけでその討伐に行く前にせっかく虹竜の素材を手に入れられたわけだからそれで装備を作り直そうと思ってな。そこでお前たちの噂を聞いてな。頼んでみたくなったんだよ」

「へ~…でも、それで何が大丈夫そうとか言う話になるの?」

「いいか?こういう装備って言うのは作れば当然人目につく。そしてその装備をしている人物が活躍すればその装備がどこで作られ、誰が作ったのか。そういった物が気になってくる」

「まあそうだな」

「そこで俺が活躍できたとして、俺の作った装備をどこで作ったか言うことになるんだよな」

「私たちの工房の事を宣伝してくれるってことだよね?」

「そうなる。で、そうなるとそれなりに高いランクの冒険者がお前たちのところに依頼に行くことになるかもしれない。それだけで止まればいいが場合によっては貴族なども行くことになるかもしれない」

「あー…貴族なら前に一回依頼受けたことあるぞ」

「え、そうなのか?」

「うん、トーマス親方のツテで辺境伯さんの武器を作ったことがあるよ」

「あー…なんか噂で聞いたぞ。なんか火属性の籠手だかを持っててどこで手に入れたかいろんな憶測が出てたとかなんとか。あれ、お前らが作ったやつなのか」

「うん。拾った火竜の鱗で作ってほしいって依頼でね。いろんな武器使う職業だったから武器を扱うのに邪魔にならない物でその上それ単体でも戦える物ってことで作ったんだ」

「なるほどなぁ…あとで親方に確認しておくか」

「確認って何を?」

「いや、辺境伯の依頼を受けたのならお前らの後援になってくれているかもしれないからな。それなら俺もいろいろと安心だが、違うならたやすくそんなこと言えないからな」

「後援になってるとなんか違うのか?」

「そりゃな。辺境伯って言うのは貴族の中でも結構位が上のほうだ。その辺境伯が後援になっている工房や店に対して権力を行使して何か無理矢理やらせようとすると、それは後援である辺境伯に同じことをやっているということになる。平民だと断りにくいやばめの依頼とかも辺境伯を盾に断れるってことだな」

「なるほどー」

「これから貴族との取引が増えるとしたらきちんとその依頼の裏も考えておかないとな。妙なもめ事に巻き込まれかねないから。そこらへん親方と相談しておくといいかもしれないぞ」

「わかった」


セスの言葉にクレイは頷いた。


「さて…じゃあ頼んでいた物は受け取ったし、俺は親方と少し話してからまた村を出るよ」

「そっか。でもこれからはたまには顔見せてよね。おばさんだって心配してたんだから」

「そうだな。この装備のメンテナンスとかもあるし、そういう時にまた戻ってくるよ」

「それ以外でもたまには戻ってきてほしいけどねー。あ、なんか面白い素材あったら持ってきてくれない?」

「あー…できたらな。素材によってはギルドで引き取っている物もあるから確約はできないぞ」

「それでいいよ」

「あいよ。んじゃまた来るよ。元気でな」


そう言って手を上げてからセスは工房を後にした。


「…さて。今日営業休みにしてあるし…どうする?」

「せっかくの休みだし、今日は一日のんびりしてようか」

「だね。ここ最近虹竜の加工ばっかだったし」

「だな。と言ってもまずは片付けからだけどな」

「そうですね。では私もお茶の準備をしてきますね」

「よろしく。その間にそれぞれの作業部屋を片付けておこうか」


そう言ってそれぞれ適当に雑談しながらクレイ達は工房へと戻っていった。


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