作成した装備の紹介


虹竜による製品が完成し、確認や調整などを済ませた翌日。セスには恋の日に来てほしいと告げておいたので、その要望通りにセスが工房を訪れた。

ちなみにその武器の性能上、それなりに騒ぎになりそうだったので今日一日は工房の営業はお休みにしてある。


「おう、来たぞー」

「あ、セスさん。ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」


入ってきたセスをトリスが迎え入れ、工房の奥の方へと案内する。


「今日は工房は休みなのか?」

「ええ。性能などを確認している間に他のお客さんから呼び出しなどされても大変ですし、それに騒ぎになっても困りますからね」

「騒ぎ?」

「工房を営業し始めたころにいたんですよ。性能がいい武器とかを試し振りしている時にそれを見て欲しがるお客さんとかが…。基本的にそれは試作品だったり、付与のテストで作った物で販売できる物ではないのですがね…」


最近では定休日にテスト運用をするようになったのでそういうことを言われることも少なくなったが、それでも今でもそういう店頭に置いていない物を求める人たちは一定数いる。


「それだけ需要があるってことなんだろうな。まあ、付与がついている有用装備なんてそうそうないからな」


クレイやトリスはそうでもないが、他のクラフターは一時的な付与しかできない。それゆえに微弱であろうと能力を持つ装備というのはダンジョンや魔物のドロップ品などでしか手に入らない魔道具と呼ばれる物しかなかった。それゆえに切れ味上昇といった物であってもほぼ永続的に付与されているのであればその値段は跳ね上がってしまう。

そんな中でこの工房の武器防具にはそこまで高い能力でないにしろ、能力が付与されており、それが比較的に安価な値段で手に入る。少し支払うお金を上乗せすればその能力もある程度は自由に変更できるとわかれば需要も高まる。

現時点ではまだそこまで認知されていない故にそこまで忙しくはないが、これが認知され始め、その上に素材を持ち込めば更なる上位の装備すら作ってもらえると知られたらかなりの忙しさになるだろう。


「師匠もそのうち手が足りなくなるかもしれないねーって言ってましたからそこらへんもどうにかしないといけないかもしれませんね」


そんな話をしながらトリスはそれぞれの作業部屋へと続くリビングへとセスを案内した。


「師匠、皆さん、セスさんをお連れしました」

「お、セス兄来たか」

「やっほー」

「待たせたわね」

「おう。物はできたみたいだが…それか?」

「うん、そうだよ」


クレイ達の後方には布で隠された何かがいくつか並んでいる。一つの布で隠されているので具体的な数はわからないが、それでもそこそこの数になって居るのはわかる。


「それじゃ、焦らしても意味がないし、さっさと見せちゃおうか」


クレイの言葉に頷き、シェリーとアルマが布を取っ払う。

そこにあったのは三つのマネキンと一つの剣を置くためのソードラック。それぞれに装備が備え付けられ鎮座していた。


「ずいぶん作ったな。というか、虹竜の素材で服まで作れるのか?」

「素材を加工して様々な材料を作るのがクラフターなんだ」

「へぇ…それじゃあさっそく装備の紹介をお願いできるか?」

「じゃあまずは私からね」


そう言ってアルマは自分の作品である服一式をマネキンから外す。


「はい、とりあえず着替えてもらえる?」

「あいよ。どこで着替えればいい?」

「ああ、客間が一つ空いているからそこ使っていいよ」

「案内しますね」


トリスに案内され、客間へと向かった。それから数分後、しっかりアルマから渡された服を着たセスが戻ってきた。

黒のズボンと水色のTシャツ、着ている状態では見えないが白のインナーも今着ている。


「ずいぶんと軽いし着やすいな。それに伸縮性もあるからか体にぴったりなのに苦しくねぇ」

「お気に召したかな?」

「ああ。これも全部虹竜の素材で作ったのか?」

「うん。トリスとクレイにお願いして、鱗とかを糸にしてもらってね。そこから布を作って色を調整してそれぞれ作ったんだ」

「ついでにいろいろと付与もしてね」

「付与の能力は?」

「『伸縮性』と汗とかを吸収するための『吸水性』、そして吸水したことによって服が濡れた時ように乾燥させるための熱属性と風属性を相互干渉状態で、それと耐熱と耐寒だよ」

「またずいぶんとてんこ盛りだな…属性の解放方法は?」

「魔力を流せば発動するけど、濡れていないと発動しないよ」

「なんでだ?」

「んー…確認作業中に誤作動することが多くてね。水に反応するようにしたんだ」

「そう言う調整までできるのか」

「うん、何とかやった」


基本は魔力を流すことで発動するのだが、それに条件を連動付与させることで特定の条件下でのみ発動できるようにした。

ちなみにこれを見つけるのに一日徹夜したのだが余談なので置いておこう。


「耐熱と耐寒は着ている場所だけか?」

「そうだね。肌が露出しているところまでは影響を与えないけど、体を覆っているから大抵の暑さや寒さになら耐えれるよ」

「ほー…これなら行くことができなかった火山とか雪山にも行けそうだな」

「あ、そういうところ行かなかったんだ」

「火山は暑さで体力が奪われるからなー。雪山も着込めば行けるがその分動きが鈍くなるから…」

「まあ、気候的な暑さや寒さには耐えれるけど、溶岩とか氷河みたいなのは耐えきれないからそこらへんは気を付けてね」

「ああ、わかってる。服はこんなもんか?」

「うん、そうだね」

「じゃあ次は…」

「私の革鎧よ。これは基本的に服の上、そして鎧の下に着込むことを前提にし、野営時など鎧を着れない時の防具として作ったわよ」


そう言ってマネキンから外した革鎧をセスへと渡す。


「ふむふむ。確かに革だからか全体的に軽いな。これは…翼膜がベースか?」

「よくわかったね。翼膜をベースに革にしてそこに付与をかけた感じだよ」

「ほう…」


話を聞きながら手慣れた感じで革鎧を着ていく。虹竜の翼膜がベースだからか、これは見る角度によって色が違って見える。


「これ目立ちそうじゃねぇか?」

「んー…どうだろ?もともといろんな色に見えるってことはその分周囲の色の影響も受けやすい気がするんだよね…」

「あー、確かにそう言う考えもあるか。まあ、どっちにしろ野営時がメインなら着るのは夜だからそこまで影響がないか。それでこっちの方の付与はなんだ?」

「こっちは服と同じく乾燥の二つの属性。それと野営時の戦闘のための衝撃吸収と斬撃耐性、それと火耐性と雷耐性だね」

「乾燥は何のために?」

「鎧の下に着ることが前提だから蒸れると思ってね。革だから腐ったりカビたりする可能性もあるからそれを防ぐためだね。こっちも同じように誤作動しないようにしてはあるけど、やりすぎると乾きすぎてパサパサになるからやりすぎないように気を付けてね」

「なかなか加減が難しそうだな。まあそこらへんは気を付けておこう。にしても火耐性と雷耐性とはなんでだ?」

「雷耐性は鎧を貫通する可能性があるからだね。火属性は服に付与できないのもあって燃焼が怖くてね」

「あー、そっち方面も気にしないといけないのか」

「そうそう。それに野営時に戦うことも考えて斬撃耐性と衝撃吸収を付与したからそれなりの防御力にはなっていると思うよ」

「ふむふむ」

「どう?動きにくいとかはないかしら?」

「んー…大丈夫そうだな。張っている部分もないし、緩くて滑るなんてこともない。ちょうどいい感じだ」

「それならよかった」

「防御力としてはどれくらいあるんだ?」

「あー…それ調べたかったんだけど…」

「調べ方がね…わからなかったんだ…」

「あー…まあ確かに牙や爪でも四足歩行か二足歩行かで力のかかりかたとか違うからな…確かに調べきれないか」

「うん。まあ、それなりの防御力ではあるはずだよ。基本的には野営時のみで、メインの戦闘時はレンが作った鎧のほうを頼ったほうがいいと思うからね」

「それもそうだな。それじゃあさっそくそのレンの鎧だが…」

「おう!しっかりとプレートメイルで作られているから防御力はピカ一だぞ!」

「兜も作ったけど使う?」

「あー…基本俺ソロだから兜までつけていると視界狭まるからあんまり利点ないんだよな…」

「そうなんだ。じゃあこれどうしよっか」

「アイテムバックあるし、それに入れておくよ。使うことはあるだろうし」

「わかった。んじゃあとりあえず鎧着てみてもらえるか?」

「わかった」


鎧をそれぞれのパーツに分けて着始める。


「それで付与はどんな感じなんだ?」

「鎧だからな、一番攻撃を受けるってことでクレイには耐久力上昇、衝撃吸収、斬撃耐性を付与してもらったぞ」

「それと火耐性、雷耐性、風耐性だね。これである程度の物ならばどうにかなると思うよ」

「水耐性とかはつけなかったのか?」

「んー…あれもつけようかと思ったけど、水耐性ってどういうのになるのかいまいちイメージがね…」

「水の攻撃とかあるけど、あれって水の放出の勢いで斬るか、濁流で押し流すかだろ?だからいまいち耐性として効果があるように思えなくてなぁ…」

「そうそう。本当は腐食耐性とかつけたかったんだけど、それをやるのに必要な素材がわからないからできなくて…」

「あー…そういや腐食耐性とか持ってる奴はいないな。その逆で腐らせる奴なら酸とかそういうのなら知っているがなぁ」

「…もしかしたらそこらへんも反転させればあるかも?どうだろ、そこら辺調べてみたいかもなぁ」

「まあ、何かの機会で素材が手に入ったらな。よし、着れた」


鎧をすべて着終えて立ち上がる。


「どう?動きにくくないか?」

「んー…動きにくさはなくもないが、それでもプレートアーマー特有の動きにくさだな。ただ普通の奴より軽いからか十分に動きやすいぞ」

「それならよかった。ちなみにこれに関してはかなり頑丈だからな。ハンマーで思いっきり殴っても凹みもしなかったから」

「ほう」

「それとその鎧が持つ衝撃吸収。その下に着ることが前提の革鎧の衝撃吸収。その二つで大概の衝撃には耐えれるぞ」

「ふむ。確かにこういった頑丈な鎧に関しては斬撃よりか殴打からくる衝撃のほうがダメージ大きいからな。その耐性が高いのはありがたいな」

「あとは全部着た状態できちんといつも通りの動きができるかだけど…それに関してはこれを扱いながら調べたほうがいいよね」


そう言って最後の一つである虹竜の魔剣をセスへと差し出す。


「だな。場所は裏庭か?」

「うん、そこでやろう」


セスの問いかけに頷き、全員は一度裏庭へと向かうのであった。



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