完成のための最後の素材
裏庭にて虹竜の魔剣の試験が終わったのでレンと二人で作業部屋に来た。
シェリーとアルマは自分の作業を続け、トリスは工房の営業のほうを任せてある。
「さて、鎧用のインゴットを作るわけだけど…どうする?骨とかも混ぜたほうがいいかな?」
「そのほうが頑丈になるのか?」
「んー…どうだろ。たぶんそこまで変化はないかな」
クレイの素材加工によるインゴット作成はそれぞれの性質をそれなりに残している。しかし、あくまでそれはその性質をちゃんと残した素材でしか残されておらず、例えば翼膜のようにしなやかで強靭な素材をインゴットにしても、頑丈にはなるがしなやかさは消える。
鱗や堅殻のように硬い素材であればその分硬さも増すが、骨となるとそこまで大きな変化はない。
「それなら別に混ぜなくていいぞ。骨は繋目というか、接合部のあたりに使うから」
「りょうかーい」
鱗と堅殻をいくつか取り出す。
「付与はどうする?」
「アルマとシェリーは何つけたんだっけ」
「えっと…シェリーの革には乾燥のための風属性と熱属性、それと野営とかする際に着る予定の革鎧だからその時に戦えるための衝撃吸収と斬撃耐性、あとは火属性と雷属性の耐性だね」
「ふむふむ。アルマの糸には?」
「服にする布とかにするから着易いように伸縮性と汗をかいたりするだろうから吸水性、それとそっちも乾燥用に風属性と熱属性、あとは服だから耐寒と耐熱を付けたかな」
「そうか。それだけあるなら鎧のほうは普通に耐性メインでいいかな」
「そうかもね。じゃあどうする?」
「とりあえず耐久力と衝撃吸収、斬撃耐性は必須だろ?後は属性耐性だが…直接的な奴って言うと火くらいか?」
「んー…雷とか水も直接的かな。まあ、直撃の後でしみこむから水はいまいちかもだけど」
「そうかぁ…じゃあ雷耐性だけつけるとして…あといくつほどつけれそうだ?」
「んー…その数なら後一つかな」
「あと一つかぁ…そう言えば腐食耐性とかつけれるか?」
「あー…厳しいかも。ちょっとその付与の形というのかな?そう言うのがわからなくてさ」
「そうなのか?」
「うん。そう言う能力を持っている素材とかがあればつけることはできるんだけど…」
「腐食耐性が持っている素材とかは知らないな…となると別の物か…何がいいかなぁ…」
現時点で決めてあるのは耐久上昇、衝撃吸収、斬撃耐性、火属性、雷属性の5つ。あと一つつけれるのだがあまりいい物が浮かばない。
「んー…打撃系の攻撃は衝撃吸収でどうにかなるし、剣や槍のように斬撃や突きに関しては斬撃耐性でどうにかなるし…火と雷属性への耐性付与されているし…なんなら風耐性でもつけとく?」
「あー…それくらいしかないかぁ。自己修復とかもできないだろ?」
「そうだねー。似たような付与では魔力吸収とかあるけど、それ付与すると加工にも影響出ちゃうんだ…」
「加工後に付与することはできないのか?」
「んー…事前付与が多いからね…ちょっと厳しいかも」
付与するにはそれ用の魔力の隙間のようなものが必要となる。
素材が持つ潜在能力は、そのもととなる魔物の魔力が塊となっており、それを加工することで能力として形作っている。付与はその隙間にクラフターの魔力を流し込み、付与の形で作り上げて能力を付与する感じだ。ぴったりとくっつけるとそれぞれの能力が相互干渉を引き起こしてうまく発動しなかったりもする。だからそれぞれ隙間を開けてうまく発動するようにしたり、付与の配置を少し変えて新たな付与をかけれるようにしたりもしている。しかし、ここに追加で生産職の加工が入るとそこに生産職の魔力が流れ込んで固まり、配置を固定してしまう。隙間が十分にある物であればそのまま追加で付与をすることが可能だが、隙間がギリギリの場合はそうもいかず、追加の付与ができなくなってしまうのだ。
「というわけなんだ」
「よくわからんがやりにくいってことはわかった」
「まあ、それがわかってくれたらいいよ」
レンの言葉にクレイは苦笑を浮かべた。
「とりあえずインゴットどれくらい作っておく?」
「そうだな…30個くらい行けるか?」
「いけるけどそんなに必要?」
「どうだろ。それなりに伸ばしたりもするからそこまででもないとは思うが、足りないってなるよりかは余らせた方がいいだろ」
「まあ、そうだね。全身鎧だから結構量必要になるだろうしね」
「ああ。んじゃあそれでよろしく頼む。できたら俺の作業部屋に持ってきてくれ」
「うん、任せて」
とりあえず付与の内容が決まったのでレンは鎧作成のための準備を進めるために自分の作業部屋へと戻った。
「さて、インゴット30個だとさすがに今出てる分だけだと足りなさそうだし、追加も出してやりますかー」
空間収納から追加の鱗と堅殻を取り出し、素材加工で一つにまとめていく。
一通りまとまったらすべてに付与をかけていく。
まずは虹竜の魔力の塊を加工して火耐性、雷耐性、風耐性を付与。そしてついに通常付与の耐久性上昇、衝撃吸収、斬撃耐性を付与していく。
それぞれが安定したところでまとめてあるすべてへと浸透させ、能力を定着させていく。
「………よし、これで大丈夫だね」
全体に能力が定着したことを確認してからそれぞれをインゴットへと形作っていく。
一つ一つ丁寧に、品質に差が出ないように気を付けつつきっちりサイズを統一させて作っていく。
「これで最後っと」
30個目のインゴットを作り終え、体を伸ばす。
「んー…少し余っちゃたな」
他よりも少し小ぶりのインゴットは端材として残った部分を固めた物だ。
「ま、そのうち何かに使えるかもしれないし、とっとこ」
そう言って空間収納へと放り込んでおく。
「さて、インゴットをレンのもとに届けないとな」
30個のインゴットも空間収納へと入れてレンの作業部屋へと向かった。
「入るよー」
声をかけてから扉を開ける。
「レンできたよー」
「おう、ありがとよ。そこに置いておいてくれー」
作業部屋の端、素材置き場に30個のインゴットを積み上げる。
それを見終えてからレンはそのうちの一つを手に取った。
「………うん、相変わらずいい出来だ」
「よかった、それならあとは任せていいね?」
「ああ、任せな。全力で作り上げてやるよ!」
「うん、お願い。もし何か手伝いが必要だったら言ってね」
「ああ」
後の作成はレンに任せクレイは作業部屋を出る。
「ふぅ…とりあえずこれで僕たちがやることはおしまいかな。あとは必要な時に手伝うことだけだから、後片付けをすましたらトリスと店番のほうをメインにやろうかな」
そう呟いてからクレイは一旦自分の作業部屋の片づけをするために部屋に戻ることにしたのであった。
その後、一通り付与と素材がそろったのでそれぞれが加工をし続けていた。
クレイとトリスも店番の傍ら、加工時の手伝いをしており、どうしても手が足りない時はケティに店番を頼んでいた。
そんなこんなで2週間後。
「できたー!」
そんな声がレンの作業部屋から聞こえてくる。
「あ、レンも終わったようだね」
「そうだね。やっぱ一人だけ作る量多かったから一番時間かかったわね」
途中から作成が終わっていたシェリーとアルマが声が聞こえてきたレンの作業部屋を見ている。
二人は今休息期間ということでゆったりとお茶を飲んでいる。ちなみにクレイとトリスはいつも通り店番だ。
「あー…つっかれたぁ…」
「お疲れ様。すごい汗ね」
「ああ、いかんせん微調整にも神経使うからな」
火を扱う作業ではないからか、上をタンクトップだけのレンは見えている上半身だけでもかなり汗をかいている。
「一区切りついてたんならお風呂入ったら?今のままだと気持ち悪いでしょ」
「だな。一応後々一通り確認するだろうからクレイに声かけといてくれ」
「ええ、わかったわ」
タオルと着替えを持って風呂場へとレンが歩いていく。
その間にアルマがクレイにレンの作業が終わったことを告げに来た。
「そっか。じゃあそうだね…じゃあこれからセス兄に完成したこと伝えてくるよ。一応こっちでも確認してからになるから三日後あたりに店に来てもらうことにするけどそれでいいかな?」
「いいと思うよ。それぞれの確認だって一日二日あればできるだろうし」
「わかった。それじゃあその日は臨時休業ってことにして、その日に来てもらうように話しておくね」
「うん、お願い。こっちもシェリーとレンにそこらへんの事話しておくね」
「よろしく。じゃあトリス、すまんがちょっと店番お願いね」
「わかりました」
トリスに店番を任せ、クレイは依頼主であるセスの自宅へと向かった。
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