虹竜の魔剣

虹竜の素材を加工しそれぞれに渡してから数日後。

一番最初に完成品を持ってきたのはレンだった。と言ってもその表情はどこか浮かない感じだった。


「どうしたの?失敗した?」

「あー…わからん」


クレイの問いかけに曖昧な返事をしてくる。


「いや、剣自体は完成した。鑑定結果としても問題はない。だが…」

「だが?」

「能力の発動方法がいまいちわかんねぇんだ」


そう言って一振りの剣をクレイへと差し出した。


「ん~…?」


その剣は一見すると普通の両刃の剣。鍔の部分にドラゴンの鱗を模したような装飾がされているその剣は、見る角度によって刃の色が変わる独特な輝きを放っていた。

鑑定結果としてはクレイが付与した5属性がきちんと付与されている。

とりあえず以前辺境伯に作った火竜の拳鱗と同じように魔力を流してみる。しかし、魔力が流れている感覚はすれど剣に変化は感じられない。


「あー…これ、相互干渉しすぎて普通に流すだけだとダメなんだ」


一見すると何も起こっていないように見えるが、そこは魔力加工に特化したクラフター。武器防具だけでなく、道具に関わる全ての魔力関係の専門だ。

武器防具に限らず、魔力によって何かしら動作するものはすべてその発動するきっかけがある。それを増やすのが付与だ。そしてその付与にも相性というものがある。それらを無視して付与すると相互で打ち消し合って付与自体が消えることもある。水属性と火属性の関係が一番わかりやすいだろう。相性がいい付与…例えば革や糸へと付与した熱属性と風属性のような物であれば同時に発動させることができる。しかし、相性が悪い付与が同時に存在している場合は、お互いに干渉しあってうまく能力が発動しないこともよくある。今回はそのパターンだ。


「ちょっとお試し場に行こうか」


家の裏手で試し振りなどができる場所を確保しているので、そこで試す。今この場でやってもいいのだが、想定外の威力になる事もあるので、建物内だと何かが壊れる可能性もあるのだ。


「トリス、ちょっとお試し場に行ってるから何かあったら呼んでね」

「わかりました」


開店準備をしているトリスに一言言ってからレンと共にお試し場である裏庭へと向かった。



まだ店を開いていないのもあって裏庭には誰もいない。というわけで人目を気にすることもなくいろいろと試せる。


「とりあえずまず各属性が使えるか試してみよっか」


そう言って抜いた剣へと魔力を流す。普段の魔力加工とは違い、今回は能力をつかいための魔力。少し勝手は違うが、それでも魔力操作には自信がある。火をイメージして魔力を流すと、刃を包みこむように炎が迸り始めた。


「おお!」

「次は風…」


一旦魔力を止め、火を消してから今度は風をイメージしながら魔力を送ってみる。

すると剣を中心に竜巻のように風が渦巻いている。


「水…」


同じ要領で水をイメージして魔力を送り込むと切っ先からポタポタと水が滴り、直後に刃を覆うように水がまとわりついた。


「氷…」


氷をイメージして魔力を流すと先ほどの水の影響で濡れた刃が凍り付き、空気中の水分も凍り付いているのか、刃の周囲がキラキラと輝きだした。


「雷…」


雷をイメージするとパチパチという音と共に刃に雷が迸る。


「うん、問題ないね」


魔力を止め、軽く剣を振るうが、複数の属性を連続で扱ったというのに目に見えた変化が刀身にはなかった。


「よかった…まともに属性発動することもないからしくじったんじゃないかと思ったぜ」

「大丈夫だと思うよ。とりあえず属性連続で使ったけど問題なさそう?」


聞きながらレンへと剣を渡す。クレイもある程度ならわかるのだが、それでも専門職であるレンほどではない。


「んー…。うん、大丈夫そう。まあその状態で斬ったりして無いから何ともだがな」

「だねー。それに関しては使い手次第のところもあるからねー」


戦闘職でなくても武器を振るう程度はできる。しかし、やはり武器である以上戦闘時にこそ真価を発揮し、一番負荷がかかる。

どれだけ切れ味がいい武器だとしても、数回の打ち合いで折れてしまっては意味がない。そしてそれを調べたくてもそこまで武器を扱うことができないクレイ達では厳しい。


「ま、渡したときに試し切りしてもらうのが一番だろ」

「だね。それじゃあ次は複合属性のほう試してみようか」


再度レンから剣を預かり、今度は相性のいい二つの属性をイメージして魔力を流す。


「まずは火と風…」


剣に風が渦巻き、そこにわずかに火が混じり始め、すぐさま火の渦が生み出される。


「はっ!」


短い声と共にクレイが剣を振るうと、火の渦がそのまま刃となって遠くにあるお試し用の木人形に直撃した。そしてそのまま人形を包むように火柱となって立ちのぼる。


「わぁお」

「すげぇな…」


あまりの威力に呆気に取られていると工房のほうが賑やかになってきた。


「師匠!大丈夫ですか!?」

「ちょっとなんの騒ぎよ!」

「なにがあったの?」


火柱が見えたのか、トリス達が慌てた様子で工房から飛び出してきた。


「あー…大丈夫、ちょっとできた剣の性能試してただけだから…」

「ちょっと想定外の威力だったけどねー」


そう言いながら水をイメージしながら魔力を流し、剣から水を出して火柱へとかけて消火していく。あとには真っ黒に焦げた木人形が残っていた。


「これはもう作り直しだなー」


そう言って焦げた木人形を空間収納に回収して新しい物を即座に設置する。


「よし、時間あるならこのままお試し見てる?」

「そうね。二人の合作がどんなものなのか気になるし」

「さっきみたいに派手なのがいきなり来て手元が狂っても困るものね」

「5属性持ちの剣なんですよね?」

「うん、試運転は後二つくらいだけどね」

「それなら開店準備も終わっていますし見ていきます」


興味津々といった様子の三人に頷きながら次のテストを行う。


「次は水と氷…」


魔力を流すと刀身が少しずつ濡れていく。そしてその水が凍り始めると共に、周囲の水も凍らせているのか、小さな氷の刃が生成されていく。


「おー…」

「光が反射して綺麗ね」


そんな声を聴きつつも先ほど新たに設置した木人形に向けて剣を振るうと、生成された氷の刃が曲線を描きながら木人形へと飛んでいった。ズドドッと音を立てて人形へと突き刺さり、そこから徐々に周囲を凍らせ始めた。


「ふむ、悪くないね」

「水要素はないのかな?」

「氷だけだと周囲の水が凍る程度だから氷の刃を強化するためのものだな」

「まあ、そこらへんは使い手次第なところじゃないかなー」


さすがにクロウではこれ以上の使い方は思い浮かばない。


「次で最後ですか?」

「うん。それで剣に問題がなければ完成かな」

「だな」


クレイの言葉にレンが頷く。


「それじゃあ最後に…雷と水」


ヒュンッと軽く剣を振るってから二つの属性をイメージしながら魔力を流す。

先ほどと同じように答申を水が覆う。その直後にパチリと音と共に覆っている水の中に電気が走る。


「よい…しょっと」


剣を振るうと水の斬撃が人形へと放たれる。

斬撃が直撃するとバシャァン!という水音と共に水が飛び散り、その間を電気が走る。


「…あれ?」

「意外と地味?」

「いや…」


アルマとシェリーのつぶやきに答えるように木の棒を空間収納から取り出し、いまだに濡れている人形へと投げる。

回転しながら飛んでいく木の棒が人形に直撃すると、バチィン!とはじかれるような音と共に木の棒が一瞬で黒焦げになった。


「えっ!?」

「なるほど、魔力の流れが何か変だと思ってましたが、帯電していたんですね」

「当たり。濡れている間はずっと帯電してるんだろうね。人形だからよくわからないだろうけど」


そう説明しつつも魔力を止めて剣を軽く振るうと先ほどまで纏っていた水がすべて消える。


「レン、確認お願い」

「あいよ」


剣をレンに預け、状態の確認をお願いする。

歪みがないか。軽く小槌で叩いて力のかかり方に変化がないか。それらをきっちり確認してから剣を鞘へと納める。


「うん、問題ない。大丈夫そうだ」

「そか。じゃあこれで完成だね」

「ああ。それじゃあ次は鎧作るために多めのインゴットを頼めるか」

「うん、いいよ。付与どうしようか」

「シェリーとアルマのはもうできてるんだろ?」

「素材だけはできているわよ。まだ作成途中だから実際の物は完成していないけど」

「ならそっちの付与も合わせて考えたほうがいいか。少し相談してていいか?」

「いいよ。それから作るから」

「すまんが頼むな」


その後とりあえず一旦解散してから、クレイとレンは新たなインゴット作りのための話し合いをし始めた。



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