加工のための下準備

虹竜の性質上、潜在能力をうまく解放させれば複数属性をつけれると判明した。

とりあえず属性を複数つけたインゴットをレンへと渡し、他の材料に関しての相談をするためにまずはシェリーのほうへと向かった。

革細工師であるシェリーの担当は鎧の中に着込む軽鎧。野営の時など軽めの装備で待機するときのための装備だ。


「シェリー入るよ」

「いいわよ」


返事を聞いてから作業部屋の中へと入る。


「そっちは終わったの?」

「とりあえずレンに作ったインゴットを渡してきたからね」

「そう」


話をしている間もシェリーは机の上に置いてある虹竜の翼膜を調べている。

硬さ、しなやかさ、頑丈さ、様々な物を触って調べる。

曲げて伸ばして強度を一通り確認し終えると一旦翼膜を置いてクレイのほうへと振り返った。


「それで付与のほうはどうだったの?」

「とりあえず属性付与はできるみたい。現時点でできたのは火・風・水・雷・氷の5属性。地属性もできたけど、それと同時に鱗が石化しちゃってね。どうも地属性に関してはもともとが性質を変化させる能力っぽいんだ」

「へぇ…」

「とりあえずレンには5属性を付与したインゴットを渡したからそれを加工してもらってるよ」

「……さらっととんでもない物作ってるわね。ちなみに追加で付与はできたりするの?」


その問いかけにクレイは首を横に振る。


「どうもさすがにそこまで増やしたら付与できるほどの余裕はなかったよ。素材を追加してもできそうになかったから限界がそのあたりなんだろうね。付与の内容にもよるだろうけど、大体5個か6個が限度かな」

「それって多いの?」

「ん~…どうだろ?よく使う程度の素材だと多くても3つが限界かな。でもたぶんもっと上位の素材ならそれよりさらに増えると思うし…」

「そうなの?」

「たぶんだけどねー。少なくとも鉄や下位の魔物と違って火竜や虹竜は付与できる量増えてたし。まあ、火竜の鱗は古い鱗のせいで付与に耐えれそうになくてあまりつけれなかったけど…」


残念そうにクレイはため息を吐いた。


「とりあえずそっちも付与する?潜在能力の数を調整すれば通常の付与もできるよ」

「そうね~…通常の付与として強めの衝撃吸収と蒸れたりすると革が痛んだりするから、それを解消するための乾燥系の付与ってできる?」

「んー…乾燥もできなくもないけど…大丈夫?それやるとむしろパサついたりしないかな」

「あー、確かに…そうなるとんー…」

「そうだね…。じゃあ多少の魔力を込めることで発動する風属性と熱属性を付与して臨んだタイミングで乾燥できるようにしよっか」

「そんなことできるの?」

「うん、それくらいならね。じゃあ風属性と熱属性、強めの衝撃吸収と…斬撃耐性もつけとく?」

「そうだね、お願い」

「うん任せて。あと何かつけておくものある?」

「そうね…耐性として火と雷あたりかな?それくらいでいいかな?」

「わかった。それじゃあこの翼膜に付与しておくね」

「私は型紙作っているからできたら持ってきてね」


シェリーの言葉に頷いて作業部屋を出る。


「あ、師匠」

「トリスにアルマ。そっちは終わったの?」

「はい。アルマさんに確認してもらってそれ用の糸が作成完了しました。あとはこれに付与してから布などを作るだけですね」

「そっちはどうしたの?シェリーのところにいたみたいだけど」

「うん、とりあえずいったん潜在能力に関して終わっていくつかのインゴットをレンに渡したからね。シェリーに付与するものとか聞きに来てたんだ」

「そうなの。じゃあ私たちの分も決めちゃおうか」

「そうですね。でも私は潜在能力の解放に関してはまだできないので…」

「ああ、そっちは僕がやるから気にしないで。と言っても属性関連が主だから、通常の付与はトリスに任せるね」

「はい!」


その後一旦クレイとトリスの作業部屋へと戻り、とりあえずクレイが引き出した潜在能力に関して話しておいた。


「5属性…いえ、地属性は使えないとしても潜在能力としてはあるので6属性ですか。さすが虹竜ということですか…」

「虹ならもう一つくらい属性ありそうだけど」

「まあ、鱗が虹のように輝いて見えたり複数の属性が扱えることから虹竜って名前だからねー。必ずしもその数ってわけでも無いじゃない?」

「それもそうだね。それじゃあクレイはそのままシェリーの付与をやるの?」

「うん。その間に二人は付与の内容決めて通常の付与はトリスがやっちゃって」

「わかりました」


糸のほうは二人に任せ、クレイは翼膜の付与へと取り掛かる。

翼膜の質を変えないように気を付けながらまずは順当にもともと残っている魔力の壁を変えていく。今回は風属性。それと火属性の形を少し変化させ、熱属性へと変えて潜在能力を引き出す。そしてそのまま耐性のほうも引き出そうとするが…。


「あ、足りない」


潜在能力として変化させる魔力の壁が翼膜にある量だけでは足りなかった。

鱗を二つ新たに取り出し、それぞれの魔力壁を変化させて火耐性と雷耐性を作り出す。そしてそれを変質しないように溶かし、翼膜へと浸透させていく。それによって二つの潜在能力を翼膜へと移し、二つの耐性を取り付ける。そしてそれぞれが干渉しすぎないように位置調整をし、新たに付与をしていく。初めに斬撃耐性を。これはメインで戦う際の鎧ではないので通常通りに。衝撃吸収に関しては上から虹竜の素材で作った鎧を着るのでそれを貫通してきた衝撃を吸収するために強めに。翼膜の全体に、ムラが無いようにしっかりと、付与をしみこませていく。

もともとの潜在能力、追加した潜在能力、そして新たに付与した能力。それらを組み合わせ、打ち消し合わないようにし、全体にしみこませる。どこを使ったとしてもすべての能力が問題なく使えるように。じっくりゆっくり、しみこませていく。そして、すべてが満遍なくしみこんでいった。


「………これでよしっと」


一息ついてにじんでいた汗をぬぐう。改めて翼膜全体の付与を確認する。問題なく、ムラなく付与がしみわたっているのを確認し、空間収納へと納める。


「さて、じゃあこれをシェリーに渡してくるね」

「うん、行ってらっしゃい」


付与に集中しているトリスの代わりにアルマに見送られ作業部屋を後にした。


その後そのままシェリーのところへと付与をした翼膜を届けおえ、あとは任せて作業部屋へと戻ってくる。


「戻ったよ。どうだい?」

「お疲れ様です師匠。こっちも私がやるべき付与は終わりました」

「とりあえず前にやったように伸縮性を付与して気安いように。それと汗とかも書くと思うから吸水性も挙げたよ。ただ蒸れそうだから乾燥とかさせたいんだけど…」

「ああ、それは僕ができるからいいよ。じゃあその二つだけかな?」

「そうですね。潜在能力のほうに影響与えないようにしてたので時間かかってしまいましたが…」

「うん、大丈夫だよ。それじゃあとは任せて。とりあえず乾燥のための熱と風属性を付与するとして、耐性はどうする?」

「鱗を糸状にした奴だから燃えにくいとは思うけど念のために火耐性。それと…あとはどうしよっか」

「一応革のほうにも火耐性と雷耐性つけてあるけど…」

「それじゃあ耐性が被らないように調整したほうがいいんですかね?」

「そうなると鎧のほうも気にしたほうがいいかもしれないけど…そもそも服の上に革鎧を着て、その上に鎧を着るわけだから、その二つの鎧を貫通してまで影響を与えるかと言われると…」

「確かにそうだね。となると貫通してきそうな物というと…風とか氷…寒さ的な奴?」

「あ、それなら耐寒と耐熱の両方つけておこうか」

「大丈夫です?乾燥のために熱属性つけてますよね」

「うん、相互干渉しないようにうまくやれば大丈夫だよ」


そう言いつつまとめてある糸を手元へと引き寄せ、いつもの要領で付与をしていく。

今回は相反する耐熱と熱属性があるから、まずは魔力の壁を変化させて熱属性を生み出す。そこに追加で風属性も生み出して乾燥の能力を生み出す。そしてそこに関わらないようにまずは耐寒を付与し、その後耐熱を付与する。そしてそれを相互干渉しないようにしっかりと定着させるようにしみこませていく。今回はトリスの付与もあるのでそちらとの親和性も意識しつつ広げていく。雑にやると相互の付与に影響を与えてしまうので気を付けていく。


「これでよしっと。…うん、問題なく付与されたし、トリスがかけた付与にも影響を与えてないね。これで完成だよ」

「二人ともありがとう!よーし作るぞー!」


やる気いっぱい!といった様子で糸を受け取ったシェリーは自分の作業部屋へと戻った。


「ふぅ…とりあえず一段落かな」

「お疲れ様です。これで加工のほうは全部ですか?」

「んー…レンのほうがまだかな。と言っても一応武器用のインゴットは渡したし、それが終わってから鎧のほうに取り掛かると思うからそっちのほうを後で追加で作る感じかな」

「じゃあそれまでは休憩ですかね」

「そうしたいところだけど、工房のほうも手を出さないとね。妹にばかり任せてられないし」

「あ、そうですね。さすがにそろそろ交代してあげたほうがいいですよね」


そう言って慌てた様子でトリスは作業部屋を後にした。


「さぁて…あとはレン達がどんなのを作るか…かな」


まだ必要な素材はあれど、現時点でやるべきことは終えた。あとは信頼できる製作者たちに任せ、クレイは工房の営業へと取り組むのであった。

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