虹竜の性質


セスが来た翌日。さっそくというようにすべての虹竜の素材をセスが引き渡しに来た。

とりあえず素材の確認等をしたいので、たまに手伝いに来てくれているクレイの妹のケティに店の応対だけは任せて、トリス達全員を含めて素材の確認をし始めた。


「えーっと、セス兄に渡された素材は鱗と甲殻、翼膜と骨と爪がいくつか…これも爪?」

「それは翼爪ですね。竜の個体が持つ翼の関節部分、そこに生えている爪です」


レンの問いかけにトリスが答える。


「へぇ…普通の爪より長くて…曲線が緩やかな感じかな?」

「そうですね。通常の足についている爪は体を支えるために短めで引っ掛けるために曲がってますが、翼爪は飛行する時に空気を切ったりするのが主なんです」

「よく知ってるね」

「素材の用途などを知っていれば何かの役に立つかなと調べていた時期がありましたから…」


現在クレイの弟子となっているトリスだが、それ以前でもクラフターとして活動していた。

なかなかうまくいかない時期に自分なりにできることを端からやっていたんだろう。


「とりあえず今ある虹竜の素材の中で数に余裕がありそうなのはやっぱり鱗かな」

「そうだな。一匹分となるとかなりの数になるからよほどの数を無駄にしない限りは余裕ありそうだな」

「んじゃとりあえず10枚ほど僕がもらうね。いろいろと付与関連で調べたいから」

「おう。俺は骨と甲殻の状態を確認しておくな。武器や鎧に使うだろうし」


そう言ってレンが骨と甲殻をいくつか手に取る。


「翼膜は私が使うわね」


革細工師であるシェリーが翼膜加工の担当となる。


「んー…こういうのだと私はまだ出番ないのよねぇ…」


裁縫師であるアルマは糸や布が専門故に魔物素材に関してはあまりできることがない。


「私がいくつかの鱗を糸へと加工して確認してみますか?」

「うん、それがいいかも。お願いできるかな?」

「はい」


トリスがクラフターの素材加工で鱗から糸を作ることができ、その糸ならばアルマはそこから布なども作ることができる。


「付与のほうはどうなりそうだ?」

「虹竜だし、潜在能力の引き出ししだいかなー。状態としてもいい感じだし、もしかしたら虹竜と同じように複数属性操作とかできるかもしれないし」

「そんな特性あるのか?」

「さあ?でも、火竜の時にできたからね。たぶん属性に関しての潜在能力はあると思うんだよね」


火属性に特化した火竜。その火竜から抜け落ちた古い鱗でも火竜のブレスのような火を生み出せるようにできた。

複数の属性を扱うことができる虹竜ならばうまく加工できれば様々な属性を扱う武器が作れるかもしれない。


「とりあえず僕は潜在能力について調べておくね。ちょっと集中すると思うから何かあったら部屋に来てね。ケティの事もよろしく」

「おう」


後の事は任せて鱗を10枚ほど持ってクレイは作業部屋へと移動する。

クラフターの作業部屋は何か必要な物があるというわけではなく、最初はクレイの自室兼作業部屋だったのだが、弟子であるトリスが常にクレイの私室でもある作業部屋にいるのはいささか問題があるのではないか。ということで新たにもう一部屋増築することとなった。

まあ、それでもクレイは自室でも作業をしているので、作業部屋は主にトリスや他の面々との作業に使う用ではあるのだが。


「さて…やりますか」


作業台の上に一枚の鱗を広げる。

火竜の鱗の一件以降いろいろと素材の潜在能力に関して調査していた。

まず一つは潜在能力を有しているのは一定ライン以上の能力を保有している魔物であること。

ゴブリンやウルフのように低ランクの魔物は潜在能力を有しておらず、素材の量を増やしても潜在能力が解放されることはなかった。ごくまれに低ランクの魔物の素材にも潜在能力を有している物もいるが、それは個体自体に特殊な能力を持った存在であり、存在自体が稀有であり判別する方法もクラフター以外にはないので素材として認識することはできない。

そしてもう一つ、潜在能力を有している素材はほぼ一律の能力を有しているということ。

火竜の素材であれば火関連の能力を、水竜の素材であれば水関連の能力が付与できる。

武器であれば属性攻撃、防具であれば属性耐性。他にも跳躍力が高い能力を有している素材で服を作れば跳躍力上昇などその素材に見合った能力が潜在能力として付与される。

そして今回、虹竜の特性というと複数の属性を操ること。しかしそれはあくまで扱えるというだけであり、すべての属性を同時に使うというわけではない。それならばおそらく一つの素材それぞれで別の属性を扱う潜在能力が引き出せるはずだ。あとはそれをどう扱うかがクレイの腕の見せ所である。


虹竜の鱗を魔力で包み込む。火竜の鱗の時は古くなった鱗だからか、魔力が浸透しやすかったのだが、今回はまだ素材として良質だからか自分の魔力が浸透しにくい。しかし魔力の濃度を増やしていきゆっくりと浸透させていく。

そしていつもの付与の通りに魔力の壁を押して一つにまとめていく。そしてこれを少しずつ削っていき形を作っていく。潜在能力を引き出すように削りだせば特有の形が浮き上がっていく。


「…とりあえずこれで一つ目っと…」


虹竜の一つ目の鱗では火属性の潜在能力を引き出した。


「次は…火と相性がいいとしたら…風かな」


ただ引き出すだけではなく、もう一つ挑戦してみたいことがある。そのためにまずは別の鱗の潜在能力を解放する。

手順は同じで潜在能力の解放も何度もやってきたから失敗することもなくできた。

新たに引き出した能力は風属性の能力。


「これを二つ合わせて…潜在能力を組み合わせて…」


素材加工で鱗二つを包み込む。ゆっくりと混ぜ合わせ一つの素材へとしていく。その時に美味くやらないと潜在能力が形を変えたり打ち消されたりしてしまうので慎重にやっていく。


「………うん、これで良し。潜在能力も…残ってるね」


一つにまとめとりあえず四角く形を変えた元鱗の素材はきちんと二つの属性が扱えるようになった。


「素材ももとは同じ個体から来たからか能力もちゃんと安定して残ってる。これなら他のも大丈夫かな?」


属性同士の相性もあるだろうが、日ごろから素材加工や付与をしていたからか、こういった事もすんなりとできるようになっている。

その後も順調に潜在能力の解放を続けていく。

火と風以外にも水、氷、雷。地もあったのだが、それを解放しようとすると鱗が石化してしまい、素材として扱いにくくなってしまったので無くしておく。

それぞれも相互干渉しないように気を付けながら混ぜ合わせていく。そして5つの属性を宿した素材をインゴットへと変形させていく。さすがに5つの鱗を一つのインゴットにすると大きくなりすぎるので3つほどに分割しておく。


「これでよしっと…あとはこれを武器にできるかどうかだけど…それはレン次第かなー。それにさすがにこれ以上の付与はできそうにないし、耐久性とかがちょっと心配だけど…もともとが竜の素材だからそこらへんは大丈夫だと信じよう」


インゴットを手にレンの作業部屋へと赴く。


「入るよー」

「おう」


部屋の中へとレンがハンマーで骨を叩いていた。軽めに叩いているから強度や粘度、癖などを調べているのだろう。


「どうだった?」

「とりあえずこのインゴットが完成したけど、なじませられそう?」

「どれどれ?」


虹竜のインゴットを受け取り、鑑定を踏まえつつ状態を確認しようとした瞬間、レンの表情が固まった。


「クレイ…お前なんつうもん作ってんだよ…」

「虹竜っていう特殊な竜の素材だからできたことだよ。他のでそれやれって言われてもまず無理」

「まあそうだろうけど、それでもなぁ…」


呆れたようにため息を吐きつつ、ハンマーでたたいていた骨とインゴットを近づける。


「骨で作るの?」

「剣の芯を骨にしようと思ってな。爪のほうは長さがいまいちだし、芯にするには硬すぎて向いてないと判断した。骨ならある程度しなりもあるしな」

「なるほどね。それでどう?」

「元が同じ個体の素材だから、親和性も高いな。かけられている潜在能力がどうなるかまではわからんが問題なく作れると思うぞ。付与は追加でやるのか?」

「付与できるまでの容量がないんだ。たぶん加工が限界だと思う」

「そか。じゃあ加工して剣にするから、最終的な能力の調整は任せるぞ」

「うん。その間に僕は他のほうを手伝ってくるね」

「ああ」


レンに3つのインゴットを渡してアルマ達のほうへと向かうことにした。



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