それから、また一週間後。

「え、え、え、えとえと。あの、な、な、なんで。その侑里が。侑里が」


 わたわたわたと。あたふたわたと。まるでターンテーブルでスクラッチするように、胸の前で手を動かすメガネさん。

「メガネさん。躊躇ってるとハードル上がるよ? ぶち上げだよ? もう、さっといった方がいいよ。さっと」

「メ、メガ?」

「名前なんだっけ」

「ゆ、侑里。侑里里」

「ゆりり?」

「侑里侑里里。な、なな、なんで侑里が、あのその」

「どうして、メガネさ……侑里々さんが?」

 吉川さんが顔を寄せてきた。

 放課後教室。もうすぐ十七時になろうかと言うところ。教室にはいつもの居残り組が何事かとこちらを見ているが、しかし、いつもより若干距離があった。遠巻きにしていると言っていいかもしれない。つまり、巻き込まれた侑里々さん哀れといったところか。

 これまでも何人かこのゲームに参加をさせてきたが、結局定着したのは、この吉川さんのみである。

 よりによって。

「言ったでしょ。この前。市場が熟成仕切ったその時。新たにイノベーションを起こすのはこれまでの既成概念を破壊するような新しい存在だと」

「そんなこと言ってましたっけ?」

「言ってない」

「言ってないんじゃないですか」

「心の内が漏れ出たのかと」

「何を言っているんですか?」

「人の嫌がることを進んでやる娘、我こそが桜子でゲス」

「ク、ゲス過ぎます」

「……クズって言おうとしてなかった?」

「大丈夫? 侑里さん。無理しなくていいんだからね?」

「雨梨さん――」

 見ていられないとばかりに雨梨が声を掛けた。侑里々さんはスクラッチしていた手を止め、胸の前できゅっと組んで祈るみたいなポーズをした。

「ん?」

「やるます。やるです。やってやらんとです」

「……本当に大丈夫ですか?」

 吉川さんに本気で心配されるなんてね。連れてきといてあたしも心配になってきた。

 気のせいか? 一瞬、雨梨に対して妙な視線を向けていたが。まるでそう、こ――。

「え、え、え、えっとえっと。ままず何をすればばば」

 思考を侑里々さんが断ち切った。雨梨に目を向ける。

 雨梨はしばらく考えるようにしていたが、侑里々さんが覚悟を決めたのを見て取ったのだろう。ゆっくりと口を開き、そしてあっさりとお題を口にした。


「侑里さんが実はダブってるって噂聞いたんだけど、マジの話?」


 ほう。適度に非現実感のある面白いお題だ。高校生ともなれば、探していないこともないんだろうが。中学でダブリとなるとね。レア通り越して都市伝説の類だ。そもそも義務教育で留年が可能なのだろうか?

 視線を向けてみれば、侑里々さんが驚愕に目を見開き、ガタガタと震えている。


「な、なななな、な、な、なんで、それを知って……!」


 これ、どっちの反応?




               了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無茶振りゲーム 水乃戸あみ @yumies

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ