名も無き仕事

きぬもめん

名前のない家事たちで回る生活

 こたつに靴下がよく実る季節になった。寒くなり始めたこの季節、私の仕事は丸まった靴下の回収から始まる。


 洗濯物というのはあちこちに落ちているもので、それを探して拾って集める。気分は名画の落穂拾い。人からも集める。しっかり「もう洗うものはないか」を確認する。

 そうしないと「洗いたいから」という理由で、数枚の洗濯物のために洗濯機を回されるという、時間も水も洗剤も勿体ないイベントが発生してしまうからだ。洗える量であればいっぺんに片づけてしまいたい。誰が回しても干すのは私なのだし。


 洗い終わった洗濯物はたまにひっくり返り、たまにゴミがポケットに入ったままになっているので、それをひっくり返し、ゴミを捨てる。最近多いのはマスク。あと使い終わった切符。ティッシュ以外ならもういいと思っている。




 お昼ご飯を作る。祖父の分を先に作る。相撲と食事の時間に敏感だから、こればかりは時間通りにいかないと機嫌が悪くなる。


 硬くなく、熱くなく、食べやすく、それでいて塩気が効きすぎていないものを作る。具体的に言うなら目玉焼きである。醤油はかけすぎないように見張る必要がある。

 野菜も食べさせなければならないので、柔らかい野菜、レタスとかプチトマトとかを添える。プチトマトは半分に切る。そうしないと食べられないので。

 

 食器を洗う。手に泡をつけていると祖父が「水をくれ」とコップを差し出してくるので水を入れる。「後にして」は効かない。耳が遠いので高確率で「何を言ってるかわからん」と言われるからだ。補聴器は持っている。が、しない。




 洗濯物を取り込む。畳んで、誰が誰のかを分別する。白い肌着もパンツも似たようなのが何枚もあって間違い探しをしている気分になる。あまりにも似てるので「どちらかの色を変えないか」と言ったことがある。が、今のところ要望は通っていない。


 畳んだらそれぞれの持ち主の元へと持っていく。ここで間違えると後で「誰それの靴下がない」と騒ぎになるので曖昧なままにしてはいけない。わからなければその都度聞く必要がある。正直面倒くさい。




 構って攻撃をしてくる飼い猫と廊下を走り回る。あまりの懐きぶりに「お前私が死んだらどうすんだ」という考えがふとよぎる。猫は可愛い。




 夕食後、水道代が高くなっているというのに食器をどうしても水をじゃぶじゃぶ使って下洗いをしたがる父を止め、食器を洗う。水道代が高いと言っても毎度やるので、もう性分なのかもしれない。




 風呂になかなか入らない家族のケツを叩く。言うばかりでは効果がないので、何度も言ったり、言い方に工夫をする必要がある。




 祖父の薬の仕分けをする。一週間分を朝、昼、夕、寝る前に分けてセットしていくのだ。飲む量が多いので、間違えてセットしていないかチェックする必要がある。一錠の時はハサミをつかって薬をケースごとカットして分ける。多い。




 名もない家事。洗い物とも洗濯物とも掃除とも片づけとも言い難い、ちょっと褒めてほしい、でも何も言われない家事。誰かがやらないとそれはそれで困る生活の潤滑油のような家事。


 面倒である。

 報いがない仕事である。

 でもそれができる自分をちょっと誇らしく思う。

 けどそれはそれとして当たり前だと思わずに褒めてほしいとも思う。


 だからもし周りに名も無き家事をしている人がいたなら褒めてあげてほしい。そしてあなたがやっているのなら、私から一方的な花丸を送りたい。




 まあ、各々が洗濯物をひっくり返さずに洗濯機に入れたりポケットを事前に確認したり、それぞれで洗濯物を持って行ってくれたり、一度言ったらやめたり風呂に入ってくれたり、機嫌が悪くならないでいてくれたのなら、それが一番に違いないけれど。

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