1章"Canon"
Distort①
「……おはよう、璃桜。
随分うなされていたけど……悪夢でも見た?」
「おはよう、
お世辞にもいい目覚めでなかったことは確かだ。
……しかし、今日も可愛らしい寝癖だな」
「むぅ……生まれつきだから仕方ないじゃん」
「ごめんごめん。
寝起きの陽葵も可愛いから……許して?」
「うーん……許す」
目が覚めたので顔を洗いに階段を降りる。
洗面所に行くと先客がいた。
名前は
両親を亡くした私を引き取ってくれた叔母の娘だ。
金色の癖毛は触れるともふもふしていて、本人の穏やかで少し抜けている性格も相まって小動物のような愛らしさを感じる。
陽葵との何気ない会話を済ませ、かわりばんこで顔を洗い、いそいそと着替えてリビングへと向かう。
「お母さんおはよ~」
「おはよう、
「二人ともおはよう。ご飯おいておいたから、しっかりと食べてね~」
まだ眠そうな様子の陽葵と一緒にリビングへ向かうと、上機嫌そうな陽藍さんの姿が見える。
彼女の名前は
亡き母の姉で、真っ先に私を引き取ると言ってくれた恩人だ。
親子そっくりで、年齢を言わなければ姉妹のように見える。
家事に育児だけでなく、古典の翻訳や解説などを記した書籍を出版するほどの知見の深さも有している。
まさに賢母、私の憧れだ。
新しい一日が始まり、ダイニングでは朝の活気が広がっている。
窓から差し込む柔らかな陽光が、食卓の上の料理に優しく輝いている。
あの悪夢が残した気味悪さを打ち消すように深呼吸をしながら、私は陽葵の前に座った。
温かなコーヒーが蒸気を立て、香りが漂っている。
その隣には、焼きたてのトーストとバター、食卓の中心にはシーザーサラダが用意されていた。
手にナイフを取り、トーストを切る。
サクサクという心地よい音が聞こえ、トーストの香りが一層広がる。
バターを塗り、優雅に一口かじる。
ふわりとした食感とバターのまろやかな味わいが口の中に広がり、安心感を与えてくれる。
コーヒーの温かさとトーストのシンプルな美味しさが、私の一日を心地よくスタートさせる。
大きなボウルには、新鮮なロマンレタスが敷かれ、その上には焼きたてのクルトンが散りばめられていた。
彩り豊かなトマトやキュウリが、緑の中に鮮やかな赤や緑を添えている。
自分のお皿に適量盛り、優雅にサラダをいただく。
野菜とクルトンがドレッシングと絡み合い、口の中で一体となる。
シャキシャキとしたレタスと、香ばしさが広がるクルトンの組み合わせが、味蕾を喜ばせる。
シーザーサラダのクリーミーな舌触りが、野菜と一緒に口の中で調和し、贅沢な一皿となっていた。
朝食後の歯磨きを済ませ、私と陽葵は鞄を肩から下げて靴を履く。
「あぶな~い!
これこれ、一番忘れちゃだめなもの!!」
陽藍さんが慌てた様子でキッチンから出てきて、お弁当が入った手提げを私達に渡してきた。
「二人共、今日も頑張ってね」
「忙しいのにいつもありがとう、陽藍さん」
「ありがとう、お母さん。
それじゃ、行ってくるね!」
私達は玄関を出て、新しい一日へと歩みを進めていった。
フラクタル・オーヴァチューン 名桜 @Rein_Feil
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