人生に大切なものは食事と〇〇

 分かった。

 織田信長氏の真のスキルは「矜持殺し(プライドキラー)」に違いない。

 だって、「素手」ではモフして昇天。

 かと言って「刃物を持て」ば、モフ対象物の丸刈りータだろ?

 きっと、回帰前の丸刈りされた俺は羞恥死したんだな。

「ボクはその事実に耐えきれなくなって、塔を攻略した際に、塔の管理者から報酬として『願い事を一つ叶える』という権利を貰いました。そして、願いました」

「なるほど、それが回帰か」

「それはそうせざるを得ないからそうなっただけで、本当の願いは」

 信長氏は目を細めた。

「『ボクも塔の住人になりたい』、そうお願いしたんです」

「……え?」

「はい?」

「……え、え?」

 待った待った。

 そうだ、よく考えろ俺。

「ふふ、気が付かなかったんですか?」

 俺が、こいつと初めてあった違和感。

 試練の塔1階であいつがのんびり呑気に寝ていたこと。ボスがいなかった理由。倒したんじゃなくて、「塔の住人」だったならば敵と見なさないからそもそも出現なんかしねぇ。

 そして、そもそもも!

「そうだった、『ここ』は『従業員』食堂だったっ!」

 異世界の奴らは「ここ」には入れない。ここは塔の住人でしか認知できない場所になっているから。異世界人にとって俺ら塔の住人は【NPC】。つまり【裏舞台】だからだ!

「回帰前はあなたは羞恥心で心臓発作を起こし死んでしまったので、今回は凶器を持たずそのモフぼでぃで戦いたいのです」

「俺よっわ! マジで泣ける。もうあんたが100階層の頂点のボス様じゃねぇかそれでいいよ塔の管理人に言っておくから!」

 この塔の最上は100階だ。

 つまり、地球人尾田信長の天下統一【裏】である。 

「違う違う、そうじゃそうじゃないんです! ボクの望みは! きちんと勝負して欲しいんです! ボクに触られても平気だったじゃないですか! やっぱりあなたは強者だ! ボクがこの、こぶ…『聖剣(エクスカリバー)』で本当の戦いを見せます!」

「そこは拳で語れよ! その聖剣は本当の剣だよな? 股間のじゃねぇよな?」

 そして。その翌日…。

 なんやかんやで危険な回帰者尾田信長氏と戦う日がやってきた。

 この大海原と大草原にそびえる一つの教会、俺の99階層【聖なる子羊達(セイクリッドヒツジーン)】!

 観戦したいという皆も呼んだ。

「? スカジョンさん?」

「なんだ?」

「なんでマイクなんて持ってるんです?」

「なんでって、これが俺の戦闘スタイルだから」

「……え?」

 俺は息を吸った。

「聞いてください。スカーレット・ジョンソンで『君に夢中(ブチュウ)』」

 そして、「歌った」。

 尾田信長氏含め、皆はもう夢の中。

 これが俺が99階層の主である証だ。

 皆、俺の歌を聞いてくれる。(いや正確には聞いてはいない。冒頭数秒で眠ってしまうから)

 聞いてくれるのは、皆、ここに来るまで疲れてるから。

 いや、そもそもここまで普通来れないし。

 ぶっちゃけ、俺以外がみんな強いんだから。

 でも、ダンジョンで眠ったら、普通「終わり」、だからね。

 そういう意味では、俺は強いのかなぁ。

 それからというもの、信長氏は実は不眠症だったことが判明し、俺の歌により強制睡眠されたことにより、より健康状態がよくなったとのことだった。そして現在、信長氏は神により頼まれていたという、各層のボス強化訓練をしてくれるようになった。

 ボス達はダンジョン防衛戦後、俺の食堂でたらふくご飯を食べ、99階層でヒツジーン達のお腹の上で、俺の歌を聞いて眠る。

 たまに、俺のお腹を信長氏が占領し眠るが、よくもまぁ、マイクを側に大音量で歌っているのに眠れると思う。爆睡である。

 こういった習慣が続き、各層の防衛力が強化され、地球人達のダンジョン攻略も今現在30階で踏み止まっている。

 皆気持ちよく眠ってていいなぁ。

「……俺は」

 俺は俺の歌では眠れない。

 

 一方、俺TUEEE物語の舞台【表】では、俺TUEEE主人公織田信長が消え、塔の攻略が難攻しているらしい。

 もしも、いつかNPCとして現れる主人公を見た時、彼らは一体何を思うのだろう。

 頑張れ! 地球人!

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俺TUEEE主人公物語の舞台【裏】 兎竜 @siobatapop

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