緑ノ荒鷲

めいき~

緑ノ荒鷲

戦争に負けた、撤退戦。

土を踏みしめる、足音がざっざっと響く。


コピーでない、モノクロの写真をポケットの中で握りしめ。

服にこびりついた、血や汗がソースの様にこびりつく。



空を見上げれば、うっすらと赤焼け。

硝煙の香りがあちこちに、建物たちが案山子の様に崩れていた。



今日も又、流れ星の様に戦闘機が落ちていく。

その様子が、昔に文明開化でみた映写機のテープがごとくどこか作り物に見え。その現実が非現実的だと脳が一生懸命否定した。


捕虜になりたくなくて、ロープで自殺した家族がぷらぷらと洗濯物の様に風に揺れ。

千切れた衣服やブーツが散らばって


期待のホープとおだてられ、また空へと緑の鷲が舞い上がる。

それは、死への片道切符。

操縦桿を抱きしめる様に、空へ逝く。


最期に飛んだのは、自分が教えた学校の生徒だったか。



涙と怒りで、拳を握りしめ。

落ちた鷲の中から、発熱したガラスを必死に叩く。


ガラスを隔てたその先で、苦しみながら笑う生徒を見て。

まだ、自分が力及ばずガラスを叩き続けていた。


機銃で撃たれ、いつ爆発するのかも判らず。

いっそ、爆発すれば自分も一緒に逝けるのではないかと頭を過ぎ。


力無く、崩れ落ちていく生徒の手の形に血が伸びていく。


その反対の手には、私と彼の両親が写ったボロボロの写真が見え。


崩れ落ちた時に指がずれ、血で指紋がうつりこむかの様に強く強く握られていたのが判った。


この空から落ちていく、緑の鷲は。

こうして、守りたいものの為に堕ちていくのだろうか。


結局、最後までガラスを叩き続けた私の努力は無駄だった。

結局、彼が空に逝ってしまった事もそうだ。


私には、何も出来なかったのだ。

自身の無力を噛みしめて、ただやるせなさが胸を支配した。


若き鳥達よ、どうか来世では。

哀しみの空ではなく、希望の空へ羽ばたいてくれ。


そう、願わずにはいられない。


私は、君より長く生きていた。

私は、君に伝えたい事が一杯あったのに。


何故、飛ぶのが私ではなく君だったのかと。

君の写る遺影の前で、毎年そう思う。



あれから、幾星霜。

まだ、私はこうして柄杓で飛んでいった生徒達の石の頭を撫でながら。


今日を生きている





<完>



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