第60話

 落ち着きを取り戻し顔の赤みも引いた雛がようやく顔を上げたところでご飯を食べる事にした四人。


「遥先輩、今日もお弁当ありがとうございます」

「うん!って言っても半分くらい昨日の残り物だけどね〜」

「柊さんのお弁当は小鳥遊先輩が作ってるんですね…」

「そうだよ!飛鳥さんのお弁当は?」

「私のは自分で作りました…」

「そうなんだ。美味しそうじゃん」

「も、もしよければひ、一口如何ですか?」

「いいの?じゃあ卵焼き貰うね………うまっ」

「ほ、本当ですか?」

「うん、とっても美味しいよ」


 三咲に自身の料理を褒められ喜ぶ雛。

 誰がどう見ても好意を隠せていない。本人にも隠すつもりは特にないのかもしれないが…。


 そんな雛に見せつけるように琴葉と遥はイチャつき始める。


「遥先輩、はい、あ〜ん」

「ん?あ〜ん……んっ、美味しいね!じゃあ次は私ね、あ〜ん」

「あ〜ん……美味しいです!やっぱり遥先輩に食べさせてもらうとより美味しいですね」

「ありがと!」


 二人のイチャつきに顔を赤くし手で覆う雛。しかし、指の隙間はガバガバで、目元は何も隠せていない。


「はわわわわわ…」

「二人とも、行儀悪いよ、それにそういうのは家でやりな」

「はーい」

「お、お二人はいつもこんな感じなんですか?」

「ん?家だとそうかも?多分だけど」

「一緒に住んでるんでしたっけ?」

「そうだね」

「いいなぁ…」

「どうかした?」

「い、いえ!なんでもないです!」

「そっか。あっ、おかず一つ貰ったし私のも一つ食べていいよ」

「いいんですか?で、では私も卵焼きを…」


 そう言って雛が卵焼きを取ろうとすると、対面に座っていた遥がニヤニヤしながら言った。


「飛鳥さん、みーちゃんに食べさせてもらったら?」

「ふ、ふぇぇぇぇぇ!?」

「こら、はるそういうのやめな」

「狭山先輩、飛鳥さんもまんざらでもなさそうですよ?」

「えっ?」


 横を見ると、とても期待しているような表情の雛。


「えーっと…雛ちゃん?」

「はぅ!?だ、だめ…ですよね…」

「はぁ…しょうがないなぁ…あ〜ん」

「えっ?えっ!?」

「は、はやく…恥ずい…///」

「す、すみません!い、いただきます!はむっ!」

「………っ///」

「ほひひひ……」


 今度は三咲が顔を赤く染め俯く番となった。あまりの幸せに自分の世界に入ってしまった雛。そんな二人の様子を、遥と琴葉は微笑ましげに見つめていた。







「なぁ…狭山さん…可愛くね?」

「それな…俺狙ってみようかな…」

「いや、無理だろお前じゃ。俺が行く」

「お前も無理だよ」

「あれ見なよ。どっちも無理だよ」

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