第2話

 ガチャっと扉の開く音が聞こえ、そちらに顔を向けるとシャワーを浴びて気持ちが少し落ち着いたのか、先程より明るい表情になった琴葉が居た。


「あ、琴葉ちゃん!夕飯パスタにしようと思うんだけどソース何がいい?」

「え?い、いえ…そこまでお世話になる訳には…」

「いいからいいから!

 麺も2人分茹でちゃったし!」

「で、では…ミートソースで」

「おっけー!もう少しで出来るから座って待っててね!」

「あ、ありがとうございます…」


 そして温めたソースを盛り付けた麺の上にかけ、前日に作り温め直した具沢山のポトフと一緒にテーブルへ運び、琴葉の対面に座る。


「簡単なものしか無いんだけどごめんね?」

「い、いえ全然!」

「じゃあ…食べよっか?いただきます!」

「い、いただきます…」

「ど、どうかな?あんまり人に食べてもらう事がないから…」

「とっても美味しいです!」

「ふふっ!ありがと!」

「とっても…とっても…美味しい…です」

「!?」


 突然涙を流し始める琴葉に動揺しつつも、彼女の隣へ行き何とか落ち着かせようとする遥。


「だ、大丈夫!?どうしたの!?」

「誰かと一緒にご飯を食べると…こんなに美味しいんですね…」

「…ッ!!」

「私物心着いた頃からずっと1人でご飯を食べてたんです…」

「そ、そうなんだ…」

「私の両親は、私の事が嫌いなんです…」

「…」


 遥は何も言えなかった。しかし、何となくではあるがその事を知っていた。

 4月に隣の部屋へ琴葉が来てから半年以上、その間何度か見かけた琴葉の母親は、いつも琴葉に怒鳴り散らしており、最後には決まって「貴方さえ産まれて来なければ!」と言って帰って行くのである。


「私、産まれて来ちゃいけない子だったんです…」


 ポツポツと話始めた琴葉。

 遥はそれを静かに聞くことにした。


「私の両親はどちらも裕福な家庭の生まれで、親同士が決めた許嫁だったそうです。

 二人は互いにその気はなかったそうですが。

 20歳になり、両家で集まってパーティーをしたそうです。その時二人はお酒を沢山飲み、ハメを外しすぎてしまったそうです。

 一夜限りの身体の関係。しかし、そのたった1度で身篭ってしまったのです。

 母は堕ろす事も考えたそうですが、元々身体が弱く二度と妊娠出来なくなってしまうかもしれないと言われ、出来なかったそうです。

 そして産まれたのが私でした」


「流石に責任を取らざるを得なくなってしまった父は母と結婚しました。

 しかしそれと同時に二人はある事を決めたそうです。

 それは私が高校を卒業したら離婚するという事でした。

 二人は私が産まれてからは育児は周りに任せ、頻繁に外出していました。

 それぞれ付き合っている人が居たそうです。

 母は偶に帰ってきたかと思えば、あなたさえ居なければと何度も言ってきました」


「それでも、幼かった私は母の気を引こうと家事を覚え、勉強を頑張りました。

 全て…無駄でしたが…。

 今日、学校から帰ってきたら部屋に母が居て、私には二度と連絡をするな。何か用があるなら父へ連絡しろと言われました。

 そしていつもと同じようにあなたさえ居なければと言って帰っていきました。

 その後は先輩も知っている通りです。どうしたらいいのか分からなくなってしまって、あの公園にいました」

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