【短編】精霊とのアグリーメント

宇水涼麻

【短編】精霊とのアグリーメント

「サン! 大好きよ!」


 緑のサラサラな髪にキラキラした緑の葉っぱの羽をつけたリフは俺と顔を合わせると抱きついてきては、頬をスリスリしてくる。そんなリフのことを俺は決して悪い気はしていない……どころか、俺もリフが大好きだ。

 俺が胸の中にいるリフの頬をツンツンとするとリフは本当に嬉しそうに「うふふ」と笑う。


「あなたたち! またそうやってくっついて!」


「見てるだけで鬱陶しい! リフ! こっちへこいっ!」


 薄緑が混ざった白銀の頭の男がリフの襟首をちょいっと摘んで俺から引き離し、自分の肩に乗せる。

 リフは目を潤ませて俺を切なそうに見ていた。


「サン。貴方もいい加減にしなさい。この茶会はあなたたちの逢瀬のためのものではないのよ」


 俺の主人であるオレンジの髪の女は俺の真っ赤なツンツンした髪を人差し指でワシャワシャと掻きむしるが、俺は唇を尖らせてそれを受け止める。


「全くだ。お前たちに費やす時間は無駄だ」


「まあ! この時間が無駄だとおっしゃいますの? でも、確かにそうかもしれませんわね。

 この時間があればジュエリーのデザインの一つも考えつきそうですわ」


「俺も植物交配実験一つもできそうだ!」


 二人はフンッと音が出そうなほどそっぽを向いた。


「婚約者だからといって長々と茶会の意味はなさそうですわね」


「そうか。ならいとましよう」


 男がサッと立ち上がるが女がそれに目を向けることはなく、男は悔しそうに小さく奥歯を噛みテーブルから離れていった。

 リフは心残りだと訴える目を俺に向けているがリフの主人である男の肩に留まったままだ。


 パタン

 ドアが閉まる音がして男が部屋から立ち去ると女はテーブルに伏せった。


「あぁ~ん! またやっちゃったわぁ! どうしていつもこぉなっちゃうのよぉ」


 俺の主人である『じょう』はテーブルの中央にある花籠を引き寄せて抱きしめた。


 その花籠は先程の男からのプレゼントで、男が手ずから用意したものだと想像できる。


『リフとの共同制作だろうな』


 男の契約精霊リフは植物を司る精霊で、植物の研究をしているあの男と相性がいい。


「来月のアイツの誕生日にカフスを贈るんだろう。嬢のデザインなら喜んでくれるさ」


 嬢はアクセサリーのデザインをしていてなかなか評判がいい。さらに火の精霊である俺と共同で制作するアクセサリーは嬢が気持ちを籠めるほど輝きを増す。だがパワーを相当使うため多くは制作できない。


「わからないじゃない。迷惑って突き返されるかも」


「あの輝きを見て突き返すヤツなんているわけないだろう?」


 今制作中のカフスはまだ中央石を飾る周りの小さな石の加工をしているところだが、これまでのどんなものより素晴らしいできだ。真ん中にはオレンジのサンストーンをあしらう予定でいる。


「輝きの意味を知らないかもしれないわ。それにわたくしの色なんて嫌がるかもしれないし……」


 そういじけた発言をする嬢が抱きしめている花籠の花たちは瑞々しく艶めいて生き生きとしていて喜びを存分に表現している。


『それを見てわからないってどれだけ鈍感なんだよ……』


 俺はため息を零さずにはいられなかった。


「ほら。サンだってわたくしの気持ちは伝わらないって思っているじゃないの」


「逆だ。なんでそんなに自信がないのか理解できない」


「サンはなんでそんなふうに言い切れるのよっ!」


「…………なんとなくだ。加工、やらないなら俺は少し寝るよ」


 俺は嬢の前から姿を消した。


「あっ……」


 嬢がまだ愚痴りたいのか残念そうな声を出したが俺はしばらく放っておくことにした。


 俺は嬢の部屋の南側の窓の一番上の窓枠に座って外の景色を眺めた。眩しい太陽が気持ちよく俺を温める。


「本当にあの二人もどかしいな。説明できないってのも、またもどかしいよ」


 俺は天に恨み言を呟いた。


 人間は俺たち精霊とのちぎりをただの契約――アグリーメント――だと思っている。

 実は精神の一致――アグリーメント――も含まれているのだ。

 だが、精霊規約でこのことは人間には言わないことになっている。というより、言えないようにされていて、言おうとしても声にならないという精霊界の徹底事項だ。なんでも、相手との関係を精霊の様子で判断することは社会として人間関係が成り立たなくなるらしい。建前でも嫌いじゃないフリも必要ということだ。


 兎にも角にも、俺とリフが互いに大好きなのは、嬢とあの男が互いに大好きだという証拠であることは間違いない。

 本人たちは口にしていないけどな。


「まあ、婚約者なんだからいつかは本音を言うようにはなるだろう。なってくれないと俺とリフがしんどいよ……」


 俺は窓枠に大の字になって寝転んだ。


「サン……。サン……。お願い、出てきて。わたくし、カフスを誰が見てもステキなものにするわ。それでわたくしの気持ちをちゃんと伝えるわ。だから協力してちょうだい」


 涙ぐんで部屋をキョロキョロ見回している主人は可愛らしいと思う。

 俺はもちろん気持ちを決めた主人に協力は惜しまない。満面の笑みで嬢の前に姿を現した。


「よっし! やってやろうぜ!」


「うん! がんばりましょう!」


 俺はリフと一緒にほのぼのと昼寝する未来を確信している。


〜 fin 〜



 なんとなく浮かんだ短編です。設定甘いですがお赦しくださいませ。

 ちょっぴり甘くてジレジレの短編を。


メリークリスマス🎄

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