第3話

“なぜなんだ、麻美子さん……”


最愛の恋人・麻美子さんには本命の恋人がいて、俺は浮気相手だった。


だから麻美子さんは、俺の言葉に対して曖昧だった。


俺が一方的に愛しているのに、麻美子さんの心は本命の恋人にしか向いていなかった。


突きつけられた辛い現実に、俺は絶望していた。


だけど、それでも麻美子さんを諦められない。


ずっとずっと、麻美子さんと一緒にいたい。


離したくない、離れたくない。


いつかは別れ話を告げられ、麻美子さんは本命の恋人の元へ去っていく。


そんな光景さえ、想像してしまい…


“麻美子さん、俺を置いて行かないで!”


俺は、貴方が好きなんだ。


誰にも渡したくない、奪われたくない。


麻美子さんがいなくなったら、俺はどうしたらいいのか?


『~~~♪♪』


最愛の恋人の事で頭を悩ませていた時、スマートフォンの着信音が俺を現実に引き戻した。


画面を見れば、俺のよく知る名前が表示されている。


「照弥さん、こんばんわ!」


通話ボタンを押してスマートフォンを耳に当てると、青年の明るく元気な声が聞こえてきた。


「やぁ、杏太(きょうた)くん。こんばんわ。」


悲哀に満ちた心を読まれないよう、俺は明るい声色で返した。


電話をかけてきたのは杏太くん。


高校時代から今に至るまで、俺をかわいがってくれている先輩の弟さんだ。


先輩に紹介されて意気投合し、その交流は十年ほど続いている。


「どうしたんだい?」


「仕事が早く終わったから、食事に行きたいと思って。照弥さん、予定は空いてる?」


最愛の恋人の裏切りを知って、悲しい時の誘い。


何もなければ、快く受けているところなのに…


「うん、今日はね…」


「……もしかして、何かあった?」


自然と声の調子はトーンダウンしていた。


それを杏太くんは、察したらしい。


彼もまた、声の調子が変わっていた。


「とりあえず会おうか。話はそこでするから。」


「分かった。じゃあ、いつもの個室居酒屋で待ってる。」


よく行く個室居酒屋を待ち合わせ場所にし、俺は杏太くんとの電話を切った。

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俺はパパ 浅緑麻実八 @Asa-midori

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