第三章「再誕」
第21話「蒼き流星」
夜、私は静かになった遺跡で一人考え込んでいました。救援が来るのはおそらく明日。いつ来るか分からないので、一日中倒れているふりをしなければ。そして一つ疑問が浮かびました。
「あ、なぜこのダンジョンが現れたのか…聞こうかな」
ヴァルレイアを召喚すると、私は自分の魔力量に驚きました。強大な闇の竜を召喚したというのに全く減っていない。
『魔王様、お呼びか?』
「あの、このダンジョンは何故発生したのですか?あなたの封印で解けて、ダンジョンの影響で三体まで増えて…。」
『なんだ、気づいていないのか。今この世界中で異常な闇の力でダンジョンが生成されておるのだぞ。我が封印された場所にダンジョンが生成され、巻き込まれた形で復活したのだ』
「な、なぜそんな」
『新たなる魔王様よ。その右腕が答えだろう。記憶を共有しているから分かるが、その腕は山の中で静かに眠っていた。しかし、闇の力は衰えずに燻っていたのだ。力を望むものが現れ、受け継いでくれるまでな。』
「つ、つまり…私が世界中に闇を振り撒いているということですか!?」
『当たらずとも遠からず。もとより闇は世界中に数多存在している。それは例えるなら油だ。そして、火は…』
「わ、私…?」
異常な魔物の出現やダンジョンの生成。考えれば、全て私が近くで関わっていたもの…。私が近くの拠点へ帰ってきたから、このダンジョンは生成されたのです…。
『そしてその深淵竜の魔導書。とんでもない物を持っているものだ。それをどうするつもりか』
「どうするって、どうなるんです?」
そういえば、今更ながらこの本が完成したらどうなるのか店主に聞いておけばよかったです。
『ものを知らぬにも程がある。それは深淵の竜を呼び出すことができる物だ。他のページはあくまで持ち主を守るものだ。』
「その深淵竜というのは、やばいのですか?」
『やばいぞ。一度遥か昔、人の時代より昔に見たことがある。竜と神がせめぎ合っていた時代。奴はその時代に終止符を打った。』
つまり、神に打ち勝った竜…。
『だが、魔王様の力と所有者の権限で従わせることができるだろう。』
「それを得て…私は…」
そんな強大すぎる力…。私は私の命と仲間と冒険の生活を守れる力があればいい。でも、これからもっと危険が迫ってきたらそんなことは言っていられない。
最終的に私は、何を目指しているのでしょうか…。自分の中に答えはまだない。
『魔王様よ。望むままに進めばよい。』
「はい…。ん…何か気配が…。」
全身の皮膚がピリつくような感覚。そして見えないはずなのに、はるか先からルーカス達が向かって来ているのが感じ取れるのです。これも闇の力…?
「ヴァルレイア様、もふた戻ってください。お話ありがとうございました。あ、ちなみにヴァルレイア様の序列はもふたの下ですからね。」
『え?』
衣服をボロボロにし、もふたに任せてわざと身体に傷をつけました。力尽きたフリをして1時間程度した頃、ルーカス達と増援に来た伝説の勇者のパーティがやってきたのです。
「アンジェリカ!?アンジェリカ大丈夫か!?」
「うっ…。る、かすさん。みんな…」
「酷い…ズタボロじゃないっ」
「喋らなくてよい!イズーナ様!何卒お力を!」
美しい金髪の女性、伝説の回復役であり聖職者。イズーナ様。同じ教会のため肖像画では見たことがありましたが、やはり美しい方です。だというのに似つかわしく無いタバコが口に咥えられています。
「よかったわ。軽傷ね?…エメリアのタバコの匂いがする。エメリアはどうしたの」
瞬時に私の身体は回復し、大きなタオルケットを被せてくれました。
「わ…私を庇ってモンスターの囮にっ…それにヴァルレイアが復活していてっ!は、早く助けを!」
「チッ…あの子らしいわ。様子から見てダンジョンは解放済みね。ゼインとマルクスはもう突入したわね?」
勇者ゼイン、大聖騎士マルクス。私が生きていると分かった瞬間にダンジョンへ躊躇せず突入して行った二人。一瞬視界に入っただけで分かりました。気づかれてはいけない。あれは人の身で魔王を討ったという化け物。
「イズーナ様、鋼鉄の繋がりのリーダーとして改めて感謝します。まさか勇者パーティである"蒼き流星"に来ていただけるなんて」
「いいわよ。元を辿れば妹のパーティの油断が招いた結果。姉として尻拭いよ。ダンジョンを解放したのに出てこないってことは…私も行くわ。あなた達三人はここで待機よ」
「し、しかし!」
「黙りなさい」
その一言が、一気に空気を張り詰めさせました。ファスカの腕に寄りかかっていた私も、一瞬呼吸が止まるほどの緊張感。4人が出てこないことから、察しているのでしょう。それに、この人も絶対に今の私では勝てない人達だと直感で分かりました。
「ここからは私達が取り仕切るわ。」
そう言って平然とダンジョンへ入っていきました。でも残念ですね。妹さんの亡骸はもうありませんよ。残っているのはエメリア様の服とタバコだけなので、遺品にでも持ち帰ってくるでしょう。
「ふふっ」
「だ、大丈夫アンジェリカ?」
思わず私は笑ってしまったようです。油断してはいけない。
「頼もしさに思わず…。きっと皆さんを救い出して来てくださるはずです」
しばらくして、苦虫を噛み潰したような表情の三人が出てきたのです。予想通りイズーナ様はエメリア様の衣服を持って。何も言わずに、私達を見て首を横に振りました。
「そ…そんな。私を助けるためにっ…うぅっ!私のせいだっ!!」
顔を覆って泣き崩れた私をファスカさんが抱きしめてくれました。ルーカスさんもガイマンさんも、唇を噛み締めています。そこへゼイン様が冷たく言い放ったのです。
「そうだ。君らが弱いせいだ。魔王軍の幹部を足止めできる程の実力を持った彼らが死んだ。だからこそ君らは強くならねばならない!」
「悔しさを抱いて進むのだ。」
「エメリアも冒険者…。そんな稼業でいつか死ぬかもしれないというのは常に互いにあったわ。しっかり気に病んで、諦めないで、顔をあげて。」
「あ"い"っ!」
私は涙が流れているのに、本当は少しも悲しくないのです。清々しいほどに。
私は生きるために、仲間のために闇となる。
この件は、風の調べが命を賭してヴァルレイアを討ったと報告され終了となりました。ダンジョンも安定し、後日封印されるでしょう。
この事件から三ヶ月経った頃。世界は混沌を歩み始めたのです。
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