第20話「食欲」
私は目が覚めると、ダンジョンの出入り口で横たわっていました。
「う…あ…。」
身体中の骨が軋むように痛み、首しか動きません。視線をダンジョンへ向けると、青白い光が優しく放たれています。これは、ダンジョンが攻略されクリスタルが破壊された証拠。
「や、やった!エメリア様達がやったんですね!?う…ぐ…。もふたっ!」
もふたにズルズルと引きずってもらい、なんとか出入り口前まで来ました。しかし、中に入るほどの体力もないようです。懐から魔導書がずり落ちてきました。まず皆さんが出てくる前に、魔導書を読んでみましょう。何故、魔法が発動しなくなったのか。
「もふた、ページめくって…」
読めなかったページが、また読めるようになっています。
「大いなる召喚…?」
いつの間にか私はまた意識と魔導書の混ざった世界に佇んでいました。目の前には100体のウルフ、そして…。
『親愛なる新たな魔王様』
魔竜・ヴァルレイアでした。
「ひぃ!?」
『魔竜ヴァルレイア、新たなる魔王様のためにこの命捧げる』
「ば、ばばヴァルレイア…。」
ヴァルレイアは跪き、私に首を垂れてきたのです。私が、新たなる魔王?
「何を言ってっ。私は魔王なんかじゃ」
否定しようとして、右腕のことを思い出しました。私は闇を取り込み、人を殺し、魔物を操る…。
「私は…魔王…なんかじゃ…」
強く否定できない自分を見透かすように、ヴァルレイアは嘲笑いました。
『命の味は格別だったろう?魔王様よ、もはや逃れるすべはない。生きるか死ぬかの世界。生きるならば突き通すしかない。』
「生きるなら…突き通す…』
私の心にずっとあるのは、大切な仲間達の笑顔でした。あの笑顔を、仲間を、冒険を失いたくない。
『新たな魔王様よ。決めればお前はこれまでの誰よりも強い魔王となる。いつでも我を呼べ。それに、これから魔王様は《変わる》であろうから楽しみである。』
意識の世界から戻ると、私は覚悟が決まりました。私は生きたいから、突き通す。最後にヴァルレイアが言った言葉の意味は分かりませんが。
もし、風の調べの皆さんが私を裏切って闇の魔法のことを仲間に話そうとしたら、殺そう。恩も感謝も全て含めて、苦しまないように殺す。
身体が回復しており、私は立ち上がりました。ダンジョンへもう一度入ろう。殺すか、殺さないか、決める。
アンジェリカは自分の眼がどす黒く淀めぐようになっていることに、気づかなかった。しかしそれは必然であり、自ら望んだことでもある。
「静か…」
下手に騒いで魔物を呼んでしまうのは得策じゃない…。まずはエメリア様が走った方向へ。通路は一本道のようです。しばらくすると、袋小路になっていました。
「っ…エメリア様…」
そこにいたのは、全ての魔物と相打って力尽きたエメリア様。
「だ…れ?ジェイ…ク?」
目ももはや見えないようです。もはや虫の息です。助かる術は、ありません。
「エメリア様、アンジェリカです。」
「あぁ…ジェ…達が…」
「はい。このダンジョンは解放されました。もう、心配はいりません。」
「よか…たわ」
私はそっとエメリア様の首を掴みました。
「ぅ…ぅあ…?がっあ…」
手には筋肉の弱々しい抵抗すらなく、微かな呼吸が感じられます。私はエメリア様に感謝しているはずなのに、口の中の舌にはあの甘く蕩けるような命の味が蘇ってくるのです。
「ごめんなさい。」
せめて苦しまないように。右腕から闇を出し、首から命を吸い取りました。何という美味なのでしょう。目がちらつき背筋が震えるほどの、極上の旨みなのです。エメリア様は少しだけ苦しいでしょう。すぐ楽にして差し上げます。
ところがその顔は、恍惚の表情を浮かべているのです。眼は潤み、緩んだ舌を出した口や鼻からは情けなく液を溢れさせているのです。
「アッ…あぇ……がっ…」
なんと…なんと…無様なのでしょう。かの伝説である"無毒のエメリア様"が、私の手の中で闇の快楽に負けて、聖職者の恥晒しのような死を迎えようとしているのです。
私は更に首を握り締めました。エメリア様の足はビクビクと痙攣し、失禁しました。
「おっ…ご…オォッ」
苦しまないで殺そうと思ってましたが、撤回します。もう、こんな快感は忘れられない。
「ウフッ?アハハッ!アッハッハッ!」
私はサラダを食べ終わった皿の、最後に残ったドレッシングまでいただくことがモットー。エメリア様の命も魔力もしっかり最後までいただきましょう。
「ジェ…イグ…」
締め上げた首から微かな呼吸も消え、エメリア様は事切れました。私の中で一つになったのです。
「ハァ〜〜…美味しかった…。さようならエメリア様。」
なんという魔力の質と量でしょう。私の中で闇が更に強化されていくのが分かります。そして懐の魔導書も、3ページも新たに追加されていたのです。
「あぁ…なんという僥倖。あ、もふた達そこの死体はみんなで食べて」
私はもはや上機嫌です。浮き足だってしまい、鼻歌交じりでジェイク様やゲン様、ゲイル様が残った最終フロアまで来ました。
「あら…まぁ」
なんと残念なことでしょう。三人もヴァルレイア二体と相打ちになったようです。ジェイク様だけが最後に残ったのでしょう。他二人は黒焦げの死体になっていました。
「これでは命も魔力も取り込めないですね…。もふた達に食べさせてしま…あ」
私は気づきました。このまま死体も残らなければ、仲間が勇者パーティの救援と一緒に戻ってきた時に変に疑われてしまうかもしれない。あえて残しておきましょう。
私はわざと衣服を汚して、出口で力尽きたふりをして倒れていることにしました。
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