第18話「遺跡」

 私達は特級冒険者の”風の調べ”と共に遺跡の調査へと来ていました。やはり報告通り、現れる魔物は強力で一筋縄ではいきませんでした。しかし風の調べの皆さんは、流石は魔王との戦争時代からの生き残り。私達が苦戦する相手を難なく倒していくのです。


 これ、私達完全に足手まといではないでしょうか?


「よし、とりあえず周囲の魔物は一掃できたな。君達がいてよかった。あれに囲まれていたら俺達でもきつかったよ」


「騎士がもう一人いる安心感。ここまで心強いのは勇者達と組んだ時以来だ」


「お主らと同じくらいの頃を思い出すと、ここまで強くなかったわい」


「さすがに短期間で上級になったパーティね。羨ましい才能よ」


「「「「うへへへへ」」」」


「近頃の冒険者はアンデットドラゴンの件も含めて臆病になってるからな。俺から見れば、生き残っただけでも冒険者としての素質十分さ。」


 遺跡の中心部へと歩みを進めていると、皮膚がぴりつくような異様な空気になってきました。明らかに遺跡の中心は異様な邪気のような物に覆われています。


「アンジェリカ、どうだ」


「もうなんか、異常なこと起きてますよって前面に押し出してきてますね。エメリア様、これは…」


「入るしかないと思いますわ?」


 エメリア様が煙草の煙をふきかけると、一部の邪気が浄化されて中に入れるようになりました。煙草一本なのに、凄まじい効果です。


 邪気に包まれた遺跡の中は、いたるところが闇の結晶だらけになっています。これは、魔王の右腕が刺さっていた洞窟と同じ現象…。


「なんて瘴気と邪気だっ!呼吸するのがきつい」


 ジェイクさんがエメリア様の護符をみんなに配り、口に咥えました。私は…全然苦しくない。ですが違和感を持たれるのが嫌なので同じように護符を口の中に咥えたのでした。


「これだけの瘴気と邪気に対して魔物がいない…。こういう時、嫌な予感は当たるもんだ。俺達が先行する。全員さっき来た道へ撤退できるようにしておけよ。」


 流石は特級です。ルーカスと同じようにまず最悪の可能性と退路を考える。そして、私も右腕が震えるのです。恐怖ではなく、期待感?


 普段なら観光場所である封印の祭壇へ来ると、黒い靄が固まっているのです。大きさは上を見上げて口が開くほど。


「なんだ…これ。ジェイクさん、見たことあるか?」


「いや…。長年魔王軍や魔族と戦ってきたが、初めて見る。」


 距離を取って物陰から観察していると、エメリア様がつぶやきました。


「もしかして…勇者が封印した魔竜ヴァルレイア…?」


 しかしゲンがそれを否定します。


「まさか。あと数万年は解けやしない封印だ。それに祭壇一帯を見ろ…。封印に使用されている魔法陣はまだ祭壇全域を覆っている。熟練の魔法使いでさえ破れない封印効果だ。その効果が生きているということは別の要因だろう」


「後輩ちゃん?ちょっと浄化魔法をここから飛ばしてくれるかしら?」


「え”っ…わ、わかりました」


 私は浄化魔法を飛ばすと、まさに焼け石に水。一瞬でかき消されました。やっぱり聖なる魔法が弱まってきている…。


「…後輩ちゃん?貴女毎日お祈りと修練はしてるのかしら?」


「し、してますもん!ちょっと今日は…お腹が空いて調子が悪いだけです」


「そう。ねぇジェイク、私の光攻撃魔法当ててみる?」


「おいおいおい…ホーリーライトニングだろ?お前、姉さんより威力の調整が下手だから、封印魔法陣まで消し飛ばすなよ」


 ホーリーライトニング。それは聖職者・回復役なら誰でも憧れる超上級浄化魔法です。才能や潜在的な魔力量に左右されるもので、人によっては生涯習得できない者もいるほど。そんな魔法を目の前で見ることができるなんて!


「姉さんみたいな異常魔力量ではないし、私程度ではあの魔法陣は消し飛ばせないわよ。」


 エメリア様の周囲が一息で浄化され、杖に魔力が集中していきます。これより強いというイズーナ様はどんな化け物なのか…。そしてやはり私は右腕が痛みを伴っています。いっそのこと浄化されてしまえばいいものを…。


 祭壇の靄は一気に払われ、姿を現しました。そこには何故か地下へと続く階段があるのです。風の調べの皆さんが一気に緊張感を放ちました。


「これは…ダンジョンだ…。」


「最悪だなこれは」


「はぁ…この歳にもなってダンジョン潜入は無理じゃぞ?」


「勇者パーティ、呼ぶ?この場所が数週間状態を保つとは思えないけど。」


 私達も頭を抱えました。ダンジョンは魔力が吹き溜まる場所に発生する危険な場所です。しかも厄介なのは、ダンジョン内に魔物がいる場合に遺跡の最深部にあるクリスタルを破壊しない限り無限に魔物が湧き出てくるのです。さらにこのダンジョンは新規で作られた未踏の場所で、なおかつヴァルレイアが封印されている。


「これ、放置したらヴァルレイアが蘇るどころか無限に湧き出るなんてことに…」


 私が言うまでもなく、みんな察しているようでした。


 戦闘用の準備はしてきていますが、ダンジョン潜入となると素直に心もとない。でも、ここで私達が何とかしないと手遅れになる可能性が非常に高いのです。


「はぁ…。俺達、風の調べが潜入する。お前たちは撤退し、急いで聖王都へ連絡をして勇者パーティを呼んでくれ。俺の名前を出せばあいつらは来る。大きな借りが俺達にあるからな。」


「待ってください!あの、私も潜入します!こんな私でも回復役、聖職者です!こんな状態を放って撤退はしません!」


 この魔力をどうにかしなければ、大きな被害が出てしまう。それにもしかすれば私の力になる。ここで逃げるわけにはいかない。


「ダメよ!私達の実力と経験じゃ未踏ダンジョンにはまだっ」


「そうだ!リーダーとして許可しない!」


「我の鎧の中に詰め込んで撤退しますぞ」


「私、悪運強いんですよ?何度皆さんの前で死にかけて、帰ってきたと思っているんですか?教会にも不名誉な不死者の回復薬なんて呼ばれてますし。いざとなれば、拠点へのワープアイテムもあります!」


「ルーカス。彼女もこう言っているし、悪いがこの子を借りてもいいか?聖職者、回復役が二人いれば心強いのは事実なんだ。」


「ガイマン、君の守ってきたヒーラーちゃんは必ず守るよ。救援は、任せた。」


「ゲイル殿っ!」


 握手が暑苦しい。


「貴方達三人程度なら拠点までの半分の距離までワープさせられるわ。四人は飛ばせないから、一人ここに残すわけにもいかない。それにダンジョンは初でしょう?いい経験になりますわ?終わったらしっかり三人へどんな経験をしたか伝えるのよ?」


 私はみんなと握手をし、別れを済ませました。エメリア様のワープ魔法で消えていく三人の眼は力強く私を信じてくれています。


「よし、行くぞ!いざとなったら……全力で逃げるぞ!」


 こうして私は風の調べのパーティに一時的に参加し、初のダンジョン攻略へと挑むのです。


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