第17話「特級冒険者」

 しばらく拠点で依頼をこなして過ごす私達に、また聖王都から依頼がきたのです。


「なぁ。また聖王都から直々に内密の依頼なんだが…。」


「帰ってきて数週間。あまりにも早い。火急のものであると感じるな」


「てか聖王都にいる上級冒険者や特級冒険者は何してるのよ。ここって辺境ってわけでもないけれど、はいわかりましたって王都へ行ける距離じゃないのに。」


「あの、まずは内容を見てから判断してはいかがでしょうか…。蹴る蹴らないはそれからでも遅くないかと」


「そうだな…。えーと、特級冒険者パーティ”風の調べ”と共に魔竜ヴァルレイアの封印された遺跡の調査と共に、魔物の出現が頻発しているため討伐せよ。…だとさ」


「あ~…勇者一行に封印されたっていうあれね。私ただの作り話だと思ってたわ。それに風の調べと言ったら、魔術師ゲンよ。一人で海にいるレヴィアタンを倒すって噂よ。絶対化け物だわ。」


「風の調べ…憧れの騎士ゲイル殿がいるパーティだ。それに確かヴァルレイアはここより南の遺跡に封印されていると聞いたことがあるな。我は昔近くに修行で行っていたが、あそこは今では安全な観光地ではなかったか?」


「はい。広大な森が綺麗に見られる景色の良い観光地です。記録もない遥か昔の人間が造った遺跡が森にあり、ヴァルレイアが封印されていたと。魔王の幹部が蘇らせてひと暴れし、勇者一行に封印されたと聞いていますね。」


「てことは嫌な予感しかないな。しかも”風の調べ”って…リーダーのジェイクは勇者と同レベルの剣技を持っていて、昔勇者が魔王城に侵攻する際に魔物の追手を足止めすることを任されたって聞く。そんな超強い伝説のパーティだろ?俺達いらない気がするな」


「私は回復役として”無毒のエメリア様”にお会いしてみたいです…。同じ協会出身の先輩ですし、勇者一行にいた奇跡の回復術師イズーナ様の妹と聞いています。万が一のリスクを考えると蹴ってもいいですが…せっかくの機会ですし……」


 うんうんと全員が悩みながら頷いていると、細身の渋めな中年男性が現れ、ジョッキを4つテーブルにドンと置いたのです。


「蹴るなんて、そんなこと言うなよ。仲良くしようぜ?はるばる聖王都から君らを追ってきたんだ」


「おっと!?ってことはあんたが…」


「俺が”風の調べ”のリーダー、ジェイクだ。この酒はおごりにするから、テーブル寄せていいかい?」


 少し向こうに、3人冒険者が手を振っています。さすが伝説のパーティ。気配も隠して私達の話を聞いていたようです。蹴る蹴らないの提案を出した私をにやにやと見つめているため、気まずいことこの上ないです。


「改めて紹介だ。こいつは騎士のゲイル。」


 紹介されたゲイルという騎士は重厚な鎧を身にまとっており、傷や顔つきからすぐに歴戦の猛者だとわかる。


「よろしく。君も騎士かい?」


「お、おおっ。憧れの騎士ゲイル殿に会えるとは!我はガイマン、そして感動している!!」


 筋肉の塊同士が握手し、その熱が暑苦しい。


「こっちは魔術師のゲン。よぼよぼのじいさんだからって甘く見るなよ?素手で海の怪物レヴィアタンを倒せる。」


「ほっほ。話を盛るな盛るな。今は無理じゃ」


「わわわっ!?ほほ本物だ!?私ファスカです!南の海沿い出身です!昔私の村を襲ってきたレヴィアタンを倒してくれてありがとうございました!」


 ゲンは静かにほほ笑むと、緊張するファスカとジョッキをこつんと合わせました。


「こっちは…」


「む、無毒のエメリア様……。私はアンジェリカと申します。同じ協会から卒業したので、憧れていました。」


「はい、エメリアですよ。後輩ちゃん、依頼は蹴らないでねえ?」


 さらさらと美しい銀髪に、穏やかな口調、そして吸い込まれるような青い瞳が素敵な女性です。魔王時代から現役のため30代後半のはずですが、どう見ても肌艶が20代前半にしか見えない…。


 でも、右手には火のついた煙草たばこが二本…。


「ふ~。これは邪気払いの香草を巻いたものです。吹き歩いているだけで軽い邪気の溜まり程度なら浄化できるのですよ?」


「す…すごい」


 どうりで右手がピリピリとしてくるわけです。絶対に気づかれてはいけない。力を押さえつけなければ。


「ま、そのうち1本は本物の煙草だけどな。」


 え。


「あらあらジェイク、意地悪言わないで?お姉さまよりは全然吸いませんのよ?あの人、日に30本吸ってましたもの」


 え。


「ジェイクさん、互いに挨拶と乾杯も済んだところでさ。さっき俺達を追ってきたって…?」


「ああ。魔王関連でな。」


 私の心臓が跳ね上がりました。魔王の右腕を取り込んだことが、バレたのかもしれない。


「その依頼にある魔物の出現だが、異様に強力でな。魔王軍生き残りがいる可能性が高い。それに、ここから比較的近くにある遺跡だし君達ならきっと周辺地域の土地勘もある。そして最短で上級に昇格した君達なら背中を任せられる力になってくれると思ってな。だから追ってきた。君達の協力が欲しい。」


「「「「うへへへへへ」」」」」


 そう言われると、私達は照れて断れなかったのです。これが、最悪の出来事を引き起こすとも知らずに。

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