第三章「瓦解」
第11話「人殺し」1
翌日、やっと馬車が合流しました。結局1日中馬は落ち着かなかったとのことで、代金は割り引くとのことでした。
「いや、割り引かなくていいよ。約束通り来てくれた。それだけでも嬉しいからな。」
「うむ。ここから拠点まで徒歩と考えると、我は聖王都に帰った方がマシだと思ってしまいますな」
「あら、アンジェリカ目の下にクマができてるわよ?また本でも読んでいたの?」
「あ…はい。そうなんです」
私はまた、闇の力が増えてしまったことに複雑な感情でいたのです。回復役、聖職者として最低なことをしている…。
鬱屈なまま私は馬車に揺られていると、三人の冒険者パーティとすれ違ったのでした。服装からすると、聖職者関係。珍しい聖職者三人組のパーティです。私達が手を振ると、気さくに笑顔で手を振り返してくれました。
「珍しい…。流れの聖職者パーティだなんて。」
「へぇ〜。確かに見たことないな。もう少ししたら休憩しようと思ってたし、もし合流したら話を聞いてみようぜ」
どうやら同じ行き先だったようで、昼休憩を共にすることにしました。
銀髪で40代頃の年齢でしょうか。丸メガネの男性がリーダーでした。
「私はこのパーティ"聖職者の牙"のリーダー、サイモンです。剣士も務める聖職者です。同じ冒険者稼業なのに昼ごはんをご馳走になってしまい、申し訳ない。」
右目が傷で閉じられている片目の30代くらいの女性は魔術師を兼ねているとのこと。大人びた女性です。
「私は攻撃魔法が使えるから、魔術師も務めているマイよ。こんな見た目だけど、実は冒険者稼業半年のルーキーなのよ。」
もう一人は細身の長髪の男性で、寡黙な方のようです。
「私は回復役、聖職者のメルスです。よろしくお願いします。」
「聖職者だけのパーティって珍しいな。うちのアンジェリカも驚いてたよ」
「私、回復役で聖職者のアンジェリカです。初めて見ましたよ。戦闘はどんな戦術を…って失礼でしたね。おいそれとパーティの戦術は話せないですよね」
「おやおや、いつも引っ込み思案なアンジェリカが饒舌ですぞ。我は初めて見ましたな。」
私達は久しぶりに他の冒険者パーティとの会話を楽しみました。拠点で多くの仲間を失った私達は、随分と他の冒険者との関わりをしていなかったと実感していたのです。
それに私は聖職者の戦いというものを知らないため、興味がありました。
「基本戦術は私が近距離で剣撃を。他二人が中・遠距離で攻撃をするのです。そして〜」
「ちょっとリーダー、言葉じゃ伝わらないわよ。腹ごなしに模擬戦、なんてどうかしら?」
挑発的なマイさんの言葉に、私は少し苛立ちました。私は負けず嫌いな部分があり、一発かましてやろうかと思ったのです。みんなもどうやら同じ考えのようです。
それに、他のパーティとの模擬戦は自分達の弱点を第三者目線で見つけてもらえるメリットもあるので、悪いことはないです。
「やりましょう!ルールはよくあるセオリー通り。剣士は木刀で、急所に当てられたら敗北。魔術師はバリアは無しで麻痺魔法のみ!回復役は普段なら勉強会だけど…ちょっと組み合わせが難しいな。」
「ふむ。では我が審判を務めておこう。ルーカスはサイモン殿と。ファスカはマイ様と。アンジェリカはメルス殿と勉強会。いかがかな?」
全員文句無しでした。私は挑発的なマイさんと戦いたかったですが、攻撃魔法が使えない私は、ファスカさんに任せることにしました。
「任せなさいアンジェリカ。一発、ぶちかましてやるわっ」
馬車から少し離れた草原で、ガイマンさんが審判の元で模擬戦が始まりました。ルーカスとサイモンさんは、勝ち負けより組合いや剣の技の見せ合いのようです。本気の時と、互いの技の確認を交互にしているようです。
そこから更に離れた場所では、土煙と爆発音が響いていました。ファスカさんもマイさんも、ルールである麻痺魔法は開始早々にやめたようで攻撃魔法を手加減しつつも痛手になるレベルで放っているようです。明らかに実力差があるので、本気でやればファスカさんが一瞬で勝ってしまうでしょう。
「では、こちらは勉強会を始めましょうか。」
メルスさんは、静かに座ってこちらを見つめていました。
「あの…勉強会……」
「アンジェリカさん。貴女、何を取り込んだのですか」
心臓が跳ね上がりました。冷や汗、脂汗、混乱。
「なっ…なにを言って…」
「私は生まれつき嗅覚が鋭いのです。貴女、魔物の血の匂いが染み付いています。普通の人間なら分からないでしょうが」
「せ、聖王都でウルフの群れを倒したんです。その時に…返り血を」
「……。そういうことにしておきましょう。これは貴女の冒険ですから、私がとやかく言うことではありませんでしたね。しかし聖職者として、女神フォルテナ様を信仰する者として忠告します。その力、身に余るものでしょう。手放せるなら、捨てた方がいい」
何も知らない癖に…。勝手なことを言う。それに仲間に言われたら、私はパーティからきっと捨てられる。
「ご忠告…どうも。私も一つ貴方に忠告です。余計なことを、仲間に言わないでくださいね。」
メルスは首筋にナイフを当てがわれたかのような、心臓を掴まれたような恐怖を感じたのでした。
この少女は危険だ。
しばらくすると模擬戦は終わったようでした。ボロボロになった四人が笑いながら戻ってきました。結局、聖職者の牙のみなさんも次の中間地点である街を目指していたということで馬車に一緒に乗っていくことになりました。
メルスさんが、余計なことを言わないといいな。そんな不安を考えつつ馬車は進んでいくのでした。
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