第3話「前触れ」

 アンデットドラゴンは、強化されたアンデットを次々生み出す力を持っています。先程まで100体もいなかった軍勢が、捌ききれずに増えていきました。


 何とか私達は他の冒険者達と協力して、アンデットドラゴンを弱らせました。あと一歩、一撃があれば。


 そんな時でした。


 もう一体、アンデットドラゴンが現れたのです。


「っ!?……ダメだ!街の出入り口を封鎖して立て篭もるぞ!」


 ルーカスの判断は的確でした。迅速で丁寧で的確。


 でも、遅かったのです。アンデットの増殖は異常で、しかも毒を付与されている。もはやこちらが押される数になっていました。数は数千。この世界で最も軍数を持つ聖王都へ増援を依頼しても、この町から3日の距離。


 間に合わない。


「助けてくれ!」


 視界のすみで、街やギルドで顔も見知った冒険者達が圧倒的な物量に押されて殺されていきました。手を伸ばせば届く距離…。


 私は…。


 私は…他の冒険者を見捨てました。


 初めて目の前で人が死んでいきます。手が震え、膝が崩れそうになりながらも私は仲間だけを回復し、守ったのでした。緊張と焦りで思考はふやけ、ただひたすらに逃げながら回復魔法と浄化魔法を繰り替えす。


 冒険者達が次々と犠牲になっていく。ひたすらに戦い続けて、気が付けば夕暮れ。どこのパーティがやったかは分かりませんが、アンデットドラゴンを一体退けたようです。召喚された大半のアンデットが消滅します。


 ルーカス、ガイマン、ファスカ、私達のパーティは生き残りました。


「酷い…酷い戦いだったな…」


「異常です…これは」


「もう…やだよ……」


 結局、街の住人半数と、この街にいた7割の冒険者がこの戦いで死亡しました。


 草原には冒険者の死体の山。街では冒険とは無縁の住民が犠牲になっています。私はへたり込んでいましたが、ルーカスの声で我に返ったのです。


「アンジェリカ…。アンジェリカ!遺体に祈りを捧げてくれないか…。せめて…最後は安らかに」


「は…はい。そうですね。」


 ギルドの職員や生き残った冒険者達が私が祈り、綺麗にできた遺体を回収していく中…私は見つけてしまったのです。誰が倒したのか、それとも相打ちだったのか…。冒険者達の遺体のそばにアンデットドラゴンの骸がありました。その中に、黒く…仄かに紫だつ異様な丸い宝石。


「アンデットドラゴンの…コア…?」




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