第27話 Insectoid

アメリカ合衆国ネバダ州 エリア51


 クリスマスが終わりいよいよ今年も残すところあとわずか...


 少しずつではあるがこの基地での生活と仕事にも慣れてきた気がする...まあ仕事をしているのは俺ではなくサラだけなのだが。


 エリア51の地下12階はそのまま宇宙船のドックとして転用できる為、ここでブラックホールエンジン搭載艦艇の建造に着手することになる。


 ...と言っても動力源から艦を構成する装甲材に至るまでほぼ全ての技術が今の段階では生産不可能であるため汎用人工知能の開発が最優先である。帝国もそうであるがティーガーデンbに存在する異星人の動向が不明であるため彼等に対する対策も必要であろう。


 12.5光年と言う距離は宇宙レベルだと近所と呼べるものであり、いつ彼らが地球へやって来てもおかしくはない状況と言える。ワープ技術を保有していないとしても60年程度の時間を費やせば彼らは地球までたどり着けるのだ。もしかしたら彼等の艦隊は今まさに地球へ向けて進軍中かもしれない...


 インセクノイドとレプティリアンの技術力ほぼ同等(エリア51に残された艦艇のデータベースから得られた情報で判断するならば)と推定されている。


 彼等の宇宙艦艇の動力源は核融合炉...防御システムにはエネルギーシールドを持ち武装は主に核融合プラズマビームにレーザー兵器とミサイル...これはアンドロメダ銀河の技術水準よりも遥かに低いらしい。


 レーザーとエネルギーシールドに関しては反帝国諸国同盟標準艦にも採用されていた技術ではあるが出力は比べ物にならないという。ついでに言えば標準艦はコストを抑える目的で建造されたものであり、光子魚雷や荷電粒子砲などは採用されていなかったという事情もあるらしい。


 サラはこの地球で自分たちが建造していた艦と同レベルのBattleshipを作って見せると豪語していたので俺達地球人はそれを信じるしかない。


 「まあ、あんたらには期待してるよ。あんたたちのおかげでこの俺は本国に帰らされたんだからな。」


 俺に話しかけてきているこの男はアメリカ国家安全保障局のトム・ギブソンという男だ...日本語に堪能で東アジア地区で日本担当だったらしい。今はその任務を外れ俺の担当になったようだが...貴重な日本語で会話できる相手と言う事もあって話す機会は多いのだ。まあテレパシーがあるとはいえ実際の口でする会話も大事だと俺は思う...


 「帰らされた?自分の国に帰ってこれたんだからてっきり喜んでるものだと思ってたよ。」


 「馬鹿言え、俺はあともう少しであのラウンジ嬢落とせるところだったってのに、最悪なタイミングだよ。」


 「なんだ、女の話かよ...あんたちゃんと仕事してたのか?人の国で一体何やってんだ全く...」


 「あんただって人の国の女に手を出したんだ、おあいこだね。それに俺がちゃんと仕事するってのはだな...御宅の国の覗きをするって事だからな?」


 「...返す言葉もございません。」


 

 


 地球 アフリカ大陸 コンゴ民主共和国


 アフリカの夜空に一条の光が降り注いだ...


 流れ星ではない、しかし制御を失った物体であることは確かである。


 その物体は一瞬強い光を発し、そして勢いよく密林地帯に叩きつけられたのだ。


 小規模のクレーターが発生するほどの衝撃でありその中心には明らかに隕石とは異なる人工物のような物体が存在したのだ。


 原型をとどめていることからこの物体が減速することに成功したのかあるいは何らかの防御システムを保有しているのだろう。


 30mほどの謎の物体のハッチが開きそこから人型の生物が姿を現した...


 シルエットだけ見ればそれは人に似ているだろう...ただその造形は全く異なり頭からは一対の触覚が生え、その目はハチやトンボのような大型の複眼を保有していたのである。背中からはかつて彼女達が小型だった時の名残か小さく退化した羽が生えており、社会性を持つ虫から進化した知的生命体であることを物語っている。


 この個体こそティーガーデンb星より飛来したインセクノイド文明の地球派遣艦隊の斥候であり本隊より5年ほど先駆けて地球へと到達し情報を収集するための要因であった。


 未知の環境でありながら彼女は防護服のようなものを着用していない...インセクノイドは真社会性を持った昆虫から進化した生命体であり一匹の女王を頂点とした群れを形成...さらにその群れの集まりが彼女たちの文明である。


 そのため今回地球に派遣されたこの個体は不妊階級のメスでありいわば使い捨ての道具のような存在であったのだ。3機の宇宙船で地球へ派遣された斥候部隊であり隊長各の1匹のみが防護服の着用を許されている。


 彼女達に与えられた任務は地球の内情、地形及び生態系や細菌、ウィルスの調査...


 この地球が彼等にとって新たなる生息地に適合するかどうかの最終調査であった...


 彼女達の居住するティーガーデンb及びレプティリアン達を絶滅させ手に入れたティーガーデンcは深刻な環境汚染と大量破壊兵器の乱用により徐々に居住に適さない惑星へと変貌しようとしていた...


 新天地を求め彼女達の大規模な移民船団はまさに地球への長い航海の途中であったのだ。


 

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