アンドロメダ・アタック

第19話 対比

東京都　福生市　14時

　日本国内であって日本ではない場所...それが在日米軍基地である。あのフェンスの向こう側...それは日本の法律が通用しない場所、治外法権。あの敗戦以降、私達の国がかの国の言いなりだという証明...

　新島加奈巡査部長はそのフェンスの向こう側を車の中から睨みつけていたのだ...

　どうしても速人の自殺に納得のいかなかった私は彼の足取りを辿ることにしたのだ...仕事を辞めると会社に告げた日付から彼の居住している住所付近の防犯カメラを虱潰しに確認することにしたのだ...無論職権乱用である。

　長期戦を覚悟したのだが私の予想はいい意味にで裏切られることになる...速人が会社を辞めると告げた次の週、最寄り駅の防犯カメラに彼が映りこんでいるのを私は確認することが出来たのであった。

　そこから先、彼の行き先を調べることは難しくはなかった...そして彼が福生駅で下車したことは直ぐに判明したのだ。

　そして再び同じ作業の繰り返し...今度は福生駅周辺の防犯カメラの録画をチェックすると彼の姿を直ぐに見つけることが出来た...彼に向かって歩み寄る外国人女性の姿がカメラに記録されていたのである。その様子はなにか言い争っているような雰囲気であると私はその映像から感じ取れた気がした...

　「先輩...こんなことしたらまずいですよ！公私混同どころの騒ぎじゃない...ただでさえ職権乱用だというのに、あのフェンスの向こう側に手を出すのは洒落にならないですって！」

　車の助手席に乗っている私の後輩の男性刑事がそう告げる...

　あの日、速人に話しかけていた外国人女性...土地柄を考えて恐らくは米軍関係者であることは想像に難しくない...

　速人はもしかしたら何か事件に巻き込まれたのかもしれない...それも米軍が関係している何か大きな事件に...

　人の国で好き放題してくれて...もし速人があいつらに...

もしそうなら私は絶対にあの国を許さない、私が必ず真実を明らかにする、速人の仇を取る。

　　同時刻、アメリカ合衆国　ネバダ州

　回転する運命の輪、それは動き始めた俺の人生を暗示するかのようであった。

　回転する輪はまさに宇宙の真理、その行く先は神のみぞ知ると言ったところか...

そして回転する盤の上を弾が走り始める...俺は誕生日の数字に一点賭け...インサイドベット、ストレートアップという方式で1000ドル賭けていたのだ...

　当たれば36倍、普段の俺ならこんな勝負は出来ないだろう。

　ここはアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス、人生を左右する勝負の街...

　まさか本当にこの街に来れるとは...サラが頼んでくれたおかげだ。俺たちがこの後どこに行かされるのかはまだ不明だが、ラスベガスで数日待機を命じられていたのだ...向こう側の受け入れの都合と言う事もあるだろうがまあ、アメリカ側のサービスと言う奴であろう。

　今日の俺はついている、先ほどやっていたスロットでそこそこの当たりを出して、アルコールの入った俺は強気の勝負に出ていたのだ。思えば久々に酒をここまで飲んだ気がする...場所柄故気分も高揚しているのかもしれない。

　ルーレット、回転盤の淵を回り続ける弾、そしてその勢いがどんどん弱くなり中央に重力で引き寄せられていく...

弾が数字が記載されている窪み、ポケットに落ちる瞬間が訪れる。

　弾は23のポケットに吸い寄せられるように落ちたのだ...信じられない！俺が賭けている数字だ...

　嘘だろ！？まじかよ！本当に当たった！？

　今夜は出来すぎだ、つきすぎてる！

　言っておくが別にイカサマしてるわけじゃない...まあテレパシー使えばどうにかしてカードでイカサマできそうな気もするがルーレットでは無理だ。

　やったぜ！ビバ・ラスベガス！

　アメリカ万歳！！

（ハヤト！スゴイ！！）

　その瞬間、隣にいた同じくアルコールの入ったヨハンナが俺に熱烈なハグを繰り出したのだ...

　ちょっと...苦しいって

　しかも当たってるから！その大きいものが...

　彼女はその後、俺の手を取りバカラのテーブルの方へ向かい始めたのだ。

　まあ、今日くらいは羽目を外してもいいか...

　これから俺たちはどうなるか分からない、だから今日くらいは全て忘れて楽しんだって許されるだろう。

　何と言ってもここはベガス

　What happens in Vegas stays in Vegasということわざがあるくらいだ...

　意味は確か...まあそんなことはどうでもいいか。

　まだまだベガスの夜は始まったばかりなのだ、一生分遊ぶくらいの気持ちで行ってやるさ。