第18話 残照
俺は今ニュー山王ホテルを出て在日米軍横田基地内部のとある施設の中で待機を命じられていた。この後パトリオット・エクスプレスというチャーター便でアメリカ本土まで向かう予定なのだ。
「昨日午後2時頃、千葉県M市の江戸川河川敷で散歩中の男性から人が倒れていると110番通報がありました。警察が駆けつけたところ全身が焼けた状態の男性の遺体が見つかりました。付近には着火物とガソリンのような匂いがする液体が入った容器が発見されました...遺書のようなものも発見されたという事で警察は事件性は低いとみて経緯を調べています。」
テレビでアナウンサーが淡々と読み上げるニュースの内容に俺は少しばかりの戦慄を覚えていた。
まさか自分の遺体が発見されるニュースを見ることがあるとは驚きだ...まあこれも偽装工作の一環と言う奴であろうか。
アメリカ政府がどこから俺の身代わりの遺体を見つけてきたのかは分からない...まあ世の中知らないほうがいい事も多いだろう。
恐らく警察にも圧力をかけて司法解剖やらDNA鑑定の結果やらを書き換えるのも彼等なら朝飯前と言ったところか...
随分とダーティーな事になってきたが、世界を救うためには綺麗ごとばかりは言ってられないということを俺は理解したのであった。
(あまりいい気持ちはしないでしょ?)
テレパシーで彼女が俺に語り掛ける。俺はこの基地でヨハンナに再会していたのだ。
俺は彼女に多大なる迷惑をかけてしまったのだ...
この計画を実行するにあたり最初に接触した人物であるヨハンナ・ファーナビー中尉...俺は彼女に謝罪をしなければならない。
彼女も今回の件に関わったという事で俺と同じくアメリカ本土のとある場所に移送されるらしいのだ...名目上は配置転換という形を取るらしいのだが間違いなく機密保持の為であろう。
まあ監禁されているとかそういう訳ではなく今のところ俺たちは丁寧な扱いを受けている...だからまあ待機時間などは監視はつくものの比較的自由であるためそこまでのストレスはない。
しかし、だからと言って俺は彼女の人生を狂わせてしまったのだ...なんと謝罪したらいいか言葉も見つからない。
(自分の死をテレビで知るとは思わなかったよ。それより本当にすまなかった...まさか君にまで迷惑をかけるなんて...)
(別に気にしないで、それに私は迷惑だなんて思ってないから。)
(そう言ってくれると助かる。)
(ハヤトこそもしかしたらもう自分の国へ帰れなくなるかもしれないんだから...本当によかったの?)
(まあ仕方がない。それに生きていればまたいくらでもチャンスはあるさ。伊達に29年も楽観主義で生きてきてない。)
東京都内某警察署
アイツが死んだ
新島加奈巡査部長は念願だった刑事課に配属され、改革は叫ばれているがまだまだ男性社会の色が強いこの組織において奮起していたのであった。仕事のためにプライベートが疎かになることも珍しくはない...だから今年のクリスマスに休暇が取れたことは奇跡と言っても過言ではなく、数年ぶりのクリスマスを楽しみにしていたのであった。
だから少し勇気を出してアイツを誘ってみた
24日どうせ暇でしょ?食事でも一緒に行かない?
自分でも可愛げのない言い方だと思う...でも今更アイツに対して態度を変えるのも変な感じがしたのだ。
そのメッセージに数分後既読が付いた...しかし返事が返ってくることは無かったのだ。
私とアイツ...速人とは中高の同級生で、その頃から私はたぶん速人の事が好きだったんだと思う。恐らくアイツは私の気持ちに気が付いていない...そして私も速人に対して素直になれていなかった。
まあ、だから速人は私の事をただの女友達としか思っていなかったと思う。少なくともたぶん嫌われてはいないはずだ...
仕事が忙しいとよく言っていたから返事をするのを忘れているのかもしれない...
電話しようか迷っていた矢先、例のニュースが私の耳に飛び込んできたのだ。
信じられなかった...それも自殺だという。
ありえない、アイツが。
どこかいつも楽観的で、受験で皆がピリピリしているときでさえ俺は受験より今が大事だとかなんとか言って趣味に没頭していたっけ...
笑い話であの時遊びすぎたから今ブラック企業に勤める羽目になったとかなんとか言っていたアイツ...
逃げるが勝ちだとよく言っていた気がする、あの頃がすごく懐かしい。
その速人が自殺?
とても信じられない、認められない。
速人の両親に会いに行ってみた...聞けば仕事を辞めていたらしい。
あの時もっと話を聞いてやればよかった...無理にでも一度実家に帰ってくるように言えばよかったと速人のお母さんは今にも泣きだしそうな表情で私に語ったのだった。
職権を乱用して速人の職場に話を聞きに行きもした、バレればただでは済まない事は分かっている...
速人の上司曰く、いきなり突然会社を辞めるとの連絡が来て退職届が内容証明で送り付けられてきたのだという。説得はしたのだが聞く耳を持たないと言った態度であったらしい。まるで人が変わったようだったという。
何かがアイツに起こったことは間違いない。
原因が何かあるはず...勿論突発的に自殺をする人がいることは確かだ。
だが突発的な自殺の場合事前に仕事を辞めたりはしない。
だから何か速人が自ら死を選ぶだけの理由がある...私はそれを解き明かさなくてはならない。
それが私が速人にしてあげられるせめてもの事だから...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます