第17話 新たな人生

父さん、母さんへ 先立つ不孝をお許しください。




 まさかこんなものを書く時が来るとは思わなかった。俺は意外に楽観的な性格だという自負もあり、辛いときは逃げるという選択肢が真っ先に浮かぶような人間だ...まあ確かに働いていたクソブラック会社に勤めていた時は嫌になることは多々あったが、死のうと思ったことは一度もなかった。


 


 だから当然今回この遺書を書いているからと言って死ぬつもりなど全くないのだ。




 俺は戸籍上死ぬことになるらしい...新たなる人生の始まりってわけだ。


 


 今までの人生を無かった事にするような物なので抵抗感が無いと言えば嘘になる...両親を悲しませることになるだろうし少ないながら心配してくれる友人もいるだろう。以前の生活に戻ることは不可能になるが...しかしこれは俺にしかできないことだ。いや、正確には俺じゃなくてサラなのだが...


 


 そうだとしても俺はあの少年時代抱いていた輝かしい思いが蘇ったような気がしていたのだ...自分がついに特別な役割を果たせるときが来たのだと、あの時の記憶が蘇ったような気分であった。だから俺はその自分の役割を受け入れることにした...








 そういえばアメリカには戸籍制度が無いとのことだ...まあとにかく俺には新しい身分が用意されるらしい。




 (おめでとう、私達は消去された。)




 サラ...あんた相当映画にはまってるな...まあ俺も好きだけどね。特にあの映画は俺たちの今の状況には合っているかもしれないが。








 俺たちに対する聴取はあの後も数回行われた...最初の時のようにホテルの部屋で行われたこともあれば映画さながらの取調室のような場所で聴取もされたのだ。






 そして脳波検査やら薬物検査やらを終えた俺たちはついにアメリカへと旅立つことになる。まあアメリカ国内のどこに行かされるのかはまだ知らされていないのだが。




 それにしてもよくこんなに簡単に俺たちの事を信じて貰えたなと思う...テレパシー能力が存在するということを考慮しても随分と順調は経過と言えるだろう。


 


 俺の新しい身分はエリック・H・ナカハラ...日系四世という設定らしい。




 エリック以外はそのままな気がするが別に誰かに追われているとかではないのでいいのだろう。




 最後に寿司とかラーメンでも食べておくか...まあアメリカでも食べられるらしいが味は違うかもしれないしな。




 また日本に戻ってこられるという保証がない以上悔いを残さないようにしておきたい。最後に両親に会えなかったのは悔いになるが...こればかりは仕方がない。


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