第12話 運命の選択

一日後...




 さて、とにかく暫くの間俺たちに出来ることは無い...今は待つのが仕事と言えるだろう。



 俺はサラが仔牛の煮込みが食べたいなどと言い出した為、近所のスーパーで買いだしをして久しぶりに凝った料理を作っているところである。仔牛の肉が売っていなかった為普通の牛肉で代用したのでこれでは牛の煮込みと言ったほうが正しいのだが...




一時期料理にハマっていたためそれなりに調理器具は持っているのだ。ちなみに俺が体を貸してサラが動かしているときに限り料理などの味を感じることが出来るらしい。


 (なるほどな、食事の用意でここまで時間をかけるなど本来であれば無意味極まりない行為であるな。)



 おい、お前が食いたいって言ったんだろう。これ作るのにもう2時間も煮込んでるんだぞ...本当に我儘な女だ。



 (まあ、そういうな。私は今無駄を楽しんでいるのだ。大目に見てほしい。)


 全くこいつと言う奴は...例のヨハンナさんの件だって最初ナンパではないと言っていたのはサラの方ではなかったか?それを信じられないことにあんなとんでもないことを仕出かすとは...


 せめてこれからは何かするときは一言こちらに知らせてくれと頼んだらサラは善処しようの一言であり俺は全くその言葉を信用できないでいたのだ。



 その時、玄関のチャイムが部屋に鳴り響いた。


 誰だろうか?何かの勧誘か?


 (合衆国のエージェントが私達を迎えに来たのではないか?)


 まさか、流石に早すぎるだろう...




 俺は玄関を開けるとそこには一人の女性が立っていたのである。


 「Hi...」


 昨日メモリーカードを渡したヨハンナ・ファーナビーアメリカ空軍中尉その人であった。



 まじかよ...いや確かに住所は教えたけどそれは合衆国政府からの接触を待つためでありまさか彼女が来るとは思っていなかったのだ。...いやサラが余計な事をしてくれたせいなのだから予想は出来たか。その件のせいでなんかものすごく気まずい...


 (ええと、ファーナビーさん?)


 (ヨハンナでいいわ...部屋入ってもいい?)


 ここで立ち話では目立って仕方がないため俺は彼女を部屋に入れたのだ。



 (あー...ちょっと散らかってるけどそこ座って待っていてくれ。今ちょっと料理中でね。お昼まだなら食べて行きます?)


 (あなたって料理するのね。ありがとう、頂いていくわ。)


 (私の分もあるのだから全部食べるなよ。...それで例のメモリーカードは渡したのか?)



 相変わらずいきなり会話に挟まる宇宙人様だ...


 (...それについて話すために今日ここに来たって事。えーと、あなたの名前はサラでしたっけ?)


 (そうだ、最も私の名などに意味はないがな。)


 俺はマグカップにインスタントコーヒーを注ぎ彼女の前のテーブルに置いた。


 (今でもまだ半信半疑だけど...テレパシーなんてものを使われたら信じるしかない気がして...だからひとつあなたたちに、サラとMrナカハラに確かめたいことがある...)


 (確かめたいこと?俺とサラにか?)


 (ええ、とても大切なことだから。)


 というか今日平日だよな...まさかわざわざ休暇を取ってここに来たのか?いやアメリカの祝日がもしかしたら今日だったか?まあそれはどうでもいいか...


 (昨日あなたたちから預かったこれ、一応私も中身をチェックしたけれど殆ど中身を理解できなかった...)


 (当然だ、それにその中身のデータだけでブラックホールエンジンを生産することは無理だろう。当然だが私が直接関わらなければ不可能だ。)


 (つまりあなたたちはそういう覚悟が出来ているってことでいいのね?)


 (当たり前だろう。)


 ...そういう覚悟?サラとヨハンナさんは何を言って?


 (貴様、まさか理解していなかったのか?当然の事だか私達の事をアメリカ政府が有用だと判断すれば今までの生活を続けることなど出来ないだろう。恐らくアメリカ本土のどこかしらの研究施設に缶詰めになる。)




 あー、そういうことね。なんだ.........



俺と言う奴はそんな当たり前がすっかり頭から抜けていた。普通に考えればこれから今までの生活を続けることが出来なくなるなんて当然の事なのだ。


 そして俺の目をじっと見つめて問いかけてくるヨハンナ中尉殿に思わず俺もYesと返答をしてしまった...



 (理解しているならいい、そこまでアメリカを、いや地球の事を考えて行動してくれるならあなたたちを信じることにする...これを明日在日米軍総司令官に渡すことにするわ。)



 まじかよ...彼女いきなりそんなお偉いさんに直接会える立場にいるのか...


 これからの事を考えなくてはならないだろう、両親や友人たちにはなんて伝えようか...いや下手に巻き込んでは申し訳ない。まあ後で両親には真実は伝えることは出来なくても電話くらいしておかないとな...



あとはあいつだ、一人警官をやっている友人がいるがどうしたものか...


あいつとは中高の同級生で今でもよく連絡が来るのだが...まあそれこそ巻き込んでは悪いし黙っていた方がいいだろう。


 俺はいろいろと考えながらも手を動かす...とりあえず牛の煮込みをお皿に盛りつけて彼女のテーブルの前に置いたのだ。


 (さて、二人の食事を邪魔したら悪いので暫く休眠を取る。私の分は残しておいてくれよ?)



 サラはそういうと休眠と呼ばれる状態になったのである。思念生命体といえど睡眠は必要とのことらしい...それにしてもよけいなお節介だ。


 (それにしてもMrナカハラ...ごめんなさい、堅苦しいのは苦手で、ファーストネームで呼んでもいい?)


 (構いませんよ、俺もそのほうが気楽でいい。)


 (ありがとう、ハヤト。...理由は分からないけどなぜかあなたの事を昔から知っているような気がして...まだ昨日会ったばかりなのに変な話でしょ?)



 ...いや変な話ではない、それは恐らくサラのせいだ。




 それなのにサラの奴、こんな時に寝やがって...

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