第11話 理解
(今日は休め。)
その一言でヨハンナさんはさらに困惑したようであった...まあ、それもそうだろう...俺以外にさらに知らない人間の声が脳内に聞こえてきたらそうもなる。
(今度は一体何?今の声はあなたじゃないわよね?)
(これには深い事情がありまして...立ち話も何ですから、ちょっとそこのカフェまで一緒に来てもらえますか?)
...自分でも酷い誘い方だと思う。これじゃ本当にナンパしているみたいじゃないか。何で俺がこんなことをしなくてはいけないんだ...
ていうか、この脳内通話にサラが割り込めるなら最初から自分で説明しろよ...
しかし以外にもこの誘いにアメリカ空軍所属のヨハンナ・ファーナビー中尉は乗ってくれたのだ。
ヨガ教室はキャンセルしていいのだろうか?なんだか申し訳ない気持ちになる。もしかしたらヨガをするくらいだからテレパシーの存在をアジアの神秘みたいな物と思い興味を持ったのかもしれない...
カフェテリアに到着後、俺はエスプレッソコーヒーを注文すると彼女も同じものを頼んだのである。店員からみたら俺たちはものすごく異様に見えたであろう...なにせお互いに一言も言葉を交わさずコーヒーを飲みながら沈黙を続けていたのだから。
テレパシーでコミュニケーションを取っているのでお互いに言葉を発する必要はないためそのよう見えるのはしょうがないことか...
そして先ほどの俺の内心がサラに通じたのか、サラがヨハンナさんに今までの事情を全て説明してくれたのである。アンドロメダ銀河で起きた事、そしてこの天の川銀河が狙われている事...
俺はコーヒーを飲んで目の前のブロンドの女性の目を眺めているだけの状態になってしまった...いや目を合わせるのも恥ずかしいのだが、海外の文化では目を見て話すというのがマナーらしいというのを聞いたことがあるので仕方なく我慢する。
「Oh my god...」
思わず彼女の口からその単語が漏れ出した...
そういえばOh my godという言葉はあまり使わないほうがいいと聞いたことがある...宗教的なことが絡んでいるらしいが...よほどサラの話が衝撃的だったのか彼女があまり宗教的なことにこだわらないのか...あるいは両方かもしれない。どちらにせよ俺にはよくわからない事柄であった。
まあ逆の立場に立ってみた場合アメリカ人からしたら日本人の宗教的価値観もよくわからないだろうからお互い様か...
(とにかく俺たちにはアメリカ政府の力が必要なんだということを理解してもらいたい。これをあなたに預けるのでもしこの話を信じてくれるのなら然るべき人に渡してほしい。)
俺はポケットに入っていたメモリーカードを彼女に手渡したのだ...中にはブラックホールエンジンと空間跳躍システム、重力制御に関する基礎理論が記録されている...全てサラがこの一週間のうちに記録したものである。
そしてさらに懐からメモとボールペンを出して自分が住んでいるアパートの住所と部屋番号、そして電話番号を書き彼女に手渡した。
その後、俺は彼女の分のコーヒーの代金を払いカフェテリアを後にした...後はもう彼女に任せるしかない...信じてもらえなければ違う方法を考えるだけである。
カフェを出る前に一瞬振り返ると彼女はまだ茫然とした面持ちでフリーズしているようでもあった。
今にして思えばこの行動は俺たちの人生を激変させるものであったと思う。もし俺がサラに憑依されていなかったら...最初にテレパシーを送る相手が別人であったのなら...
いやそんなことを考えても仕方がない...人生には選択肢など無数に存在しており、その分岐先全てを確かめることなど出来ないのだから...
数時間後...アパートの自室に戻ってきた俺はベッドに腰を掛けて休息を取っていた。
これでよかったのかサラ?
(ああ、問題ない。...いやまて、大切なことを忘れていた。)
大切な事?
(ああ、シュワちゃんの連絡先を聞き忘れた。)
おいこら、こっちは真面目に協力してやってると言うのに...
(冗談だ、今のところ全て私の目論見通り進んでいる。)
おいおい、まだ彼女が俺たちを信じてあのデータをお偉いさん方に渡すとは限らんだろう。
(そこは問題ない。彼女にテレパシーを送るときに貴様の因子も私が送り込んでおいた。私の判断する限り貴様とあの女は相性は悪くない...恐らく彼女は貴様に好意を抱いていると思うぞ。)
そうか、ならよかった...................................
はい?今あなたは何をしたとおっしゃりましたか?
(因子を送り込んだと言ったのだ。テレパシーは私が思念生命体に進化したときに身に着けた能力であり、本質は人と人とがお互いを理解をする為の物なのだ。私が貴様の因子をあの女に送り込んだことにより深く理解が高まるはずだ。それは好意という形で現れる。)
ハァ?つまりサラよぉ...それって彼女に俺の事が好きになるように洗脳したってことじゃあないのか?おいおい、こいつとんでもないことをしてくれやがった。
(愛する人の為であれば人は行動を起こすものだ。銀河を救うための闘争において少しでも成功確率を上げようとするのは当然の事だろう。)
ふざけんな、人の人生なんだと思ってるんだ!彼女にだって本来違う別の恋人や好きな人がいたかもしれないのに...
(洗脳とは人聞きの悪い、ただきっかけを与えたに過ぎない。)
そんなものは本物の愛ではない
(本物の愛?それこそ相互理解を成し遂げた者同士が抱くものだろう。それこそが本物だ。)
ダメだコイツ、一週間共に過ごして親近感を抱きかけていたが、本質的に価値観が異なる生命体であるということを今俺は理解したのだった。
(なんの不都合がある?貴様はその年でまだ配偶者が存在しないのだろう?)
そういう問題ではない、それにサラだって思念生命体になったのはつい最近だろうに!?実体があるときに夫がいたのだから...
(ああ、確かに。だが今の私は思念生命体だ。それ以前の夫の事は確かに愛していた。今でもその思いに違いはない。だがそれは本物ではなかった...私は夫を完全には理解していなかったのだからな。)
君の言っている意味がわからない。
(それも仕方がない。少なくともこの日本と私達の惑星の価値観は異なるものである事は理解してもらいたい。確かに夫のことは愛してはいたがそれは国家の方針によって決められたものだったのだからな。)
なんだって?
(全てはあの帝国と戦争が始まった時からそうなったのだ、遺伝子的に相性の良い者が配偶者になる。全て国家により管理された貴様たちの言う所のディストピアだ。)
そんな...
(しかしそれでも私は夫の事を愛していた、そして故郷の事もそうだ...恐らく夫も同じ気持であったと思う、だからこそ私を進化させてまで希望を託したのだ。)
もしその帝国を撃退してサラたちの母星を取り戻せたのなら...また夫に会いたいと思うか?
(無論だ、最も私はもう元の姿には戻れないだろうがな。それに今現在の我々の惑星の状況は不明だ...夫の生命も既に存在しないかもしれない。)
その後サラと俺との問答が暫く続いたのであるが...
この問答で俺が理解したことが一つある。それはサラが銀河を、そして故郷を救うためなら手段を選ばないという事...
それはサラの意志の強さを表していたのかもしれない、そして夫の意志を継ぐという思いもあるだろう。その気持ちは彼女は否定するが俺にはあの夫婦が相互理解を成し遂げていたのではないかと感じられたのだ。
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