第2話 思念生命体

数時間後...




 「...い   おい!あんた大丈夫か?」


 俺は自分の頬に伝わる衝撃で目を覚ましたのであった。


 目に太陽の光が差し込んでくる...それは既に日付は変わり朝が訪れていたことを意味していた。


 ゆっくりと起き上がると目の前には俺の頬を叩いていた通行人の老人が表情を和らげたのであった。


 「おお、よかった。しかしあんたこんなところで酒でも飲んでいたのかい?もう少しで救急車を呼ぼうとしていたところだよ。」


 そう老人は言うと俺の前から立ち去り朝の散歩に戻っていった。


 そうだ、俺はこの河原で天体観測を...しかし一体何が起こって...


 とりあえず俺は状況を把握しようとポケットからスマートフォンを取り出し操作しようとした。


 ...あれ?充電が切れている?たしかここに来る前に充電しておいたはずだからそんなはずはない。


 しかし俺の持っているリンゴマークのスマートフォンの充電は切れていたのである。買い変えたばかりだからバッテリーが劣化しているわけではない。


 しかたない、確か車にモバイルバッテリーがあったはずだ...


 俺は車に戻るとダッシュボードからモバイルバッテリーを取り出して充電を始めた。


 車で時刻を確認すると既に8時を少し過ぎていた...今日が休みでよかった...いやまあ休みだから天体観測に来たのだが。


 数分後、少し充電されたスマホを操作すると俺は奇妙なことに気が付いたのだ。


 なんだこれ?顔認証でロックを解除するとそこにはなにやら難しいワードが目に入ってきた...というより日本語のページではない...




 さらに複数のタブが開かれており、検索履歴にも様々な事柄を調べたことが伺える痕跡が残されていた。


 俺が寝ている間にスマホを誰かが操作した?馬鹿な...なぜそんなことを?


 確かに寝ている人間から財布やスマホを盗むということは考えられるだろう。しかしスマホを取り出して何か調べ物をした後わざわざ俺のポケットに戻すなどと言う意味不明なことをする人間が存在するだろうか?


 しかしそうであるなら充電が切れていた説明がつくのも事実である。


 しかしだが充電が切れていた以外に実害が有った訳ではないし警察に届け出るほどの事態ではないだろう。


 俺はなにか狐につままれたような気であったが、考えても仕方のない事であろう。


 スマホのタブと検索履歴を全部消し俺は車で家に帰ることにしたのだ。


 天体観測は出来なかったが仕方ない。それよりも俺はかなりの疲労感や倦怠感を感じていたのである...あの寒空の下気絶していたのだから仕方ない。風邪を引いたのかもしれない。


 ドラッグストアで薬でも買って帰ろう。朝食は何か適当なものがアパートにあったはずだ...


 俺は車を走らせると途中寄り道をしてアパートに帰宅した。


 あまり綺麗とは言えない自室は自らの趣味の物が散らばっておりとりあえずベッドに腰を掛け買ってきた薬と飲み物をテーブルに置いたのである。


 ああ、そうだ。手洗いうがいをしなければ...あのクソッタレのウイルスによるパンデミックが起きたときからの習慣である。まあ衛生観念の向上と言う意味では感謝出来なくもないがそれは無理矢理感謝できる要素を探した場合に限る。


 結局あのウイルスの出所は不明のまま。噂ではやれ中国の研究所から漏れたとか野生動物を食べたせいだとか言っていたが真相が明らかになることは無いだろう。


 まあそんなことはどうでもいいか、あれで青春をつぶされた学生諸君には気の毒ではあるが所詮他人事である。


 そんなことを考えていると何か妙な音が聞こえてくるのに気が付いたのだ。



 ...何だこの音は?隣の部屋か?


 違う?この部屋の中から...いやそうでもない...?


 俺は気が付いた、それは隣の部屋やこの部屋からではなく俺の頭に直接響いているのだということに...




 そしてその音が徐々に大きくなりはじめしっかりと聞き取れるようになるとその正体はなにやら声のような...いや声でもない?



 何だこの感覚は?


 そして俺はついにその音を、直接脳内へ響く声をしっかりと把握することが出来たのだ。



 「聞こえるか?私は思念生命体、この銀河は狙われている。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る